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テレワークの対象者の選定・実施の際に留意すべき点を教えてください。

弁護士 村林 俊行(ロア・ユナイテッド法律事務所)
2022年1月

テレワークの対象者の選定・実施の際に留意すべき点を教えてください。

テレワークの対象者選定・実施に際しては、① 使用者が命ずる場合や労働者がテレワークを希望する場合がありますが、テレワークを行わせる業務上の必要性と労働者のプライバシー保護につき配慮しつつ、労働者本人の納得の上で、対応することが必要となります。また、②正規労働者と非正規労働者との間で不合理な待遇差を設けることは避けるべきです。さらに、③在宅での勤務は生活と仕事の線引きが困難になる等の理由から在宅勤務を希望しない労働者については、サテライトオフィス勤務やモバイル勤務を利用することも考えられ、新入社員、中途採用の社員及び異動直後の社員は、業務を円滑に進める観点から、コミュニケーションの円滑化に特段の配慮をすることが望ましいものといえます。

1 テレワークの対象と根拠
 テレワークの実施に際しては、使用者が命ずる場合や労働者がテレワークを希望する場合があります。
(1) 使用者がテレワークを命ずる場合
 そもそも使用者がテレワークを命ずることができるかどうかを検討するに際しては、①平時であるか、新型コロナウイルス感染症拡大期のような緊急事態下であるか、②就業規則上の根拠の有無・個別同意の有無等について検討する必要があります。
 まず緊急事態下におけるテレワークについては、緊急事態下の臨時的な措置であることを重視すれば、就業規則上の根拠や労働者の同意がなくても、会社は命ずることができると解釈することとなり得ます。この見解からしても、平時においてテレワークを命ずるに際しては、就業規則上の根拠は必要と解されやすく、配転命令と同様の基準又は労働者のプライバシーに配慮して通常の配転命令よりは限定的に考えてその有効性を判断するものと解されます。もとより、いずれの場合でも、使用者によるテレワーク対象者選定に関する使用者の裁量に対しては、均等均衡待遇原則(労基法3条)、男女差別禁止(均等法6条1号)、不当労働行為禁止(労組法7条等)に反してはならない等の制約はあります。
 これに対して、テレワークでの就労場所が労働者の私的領域にあることから、労働者のプライバシーへの配慮をする必要性が高いことを重視すれば、緊急事態下であるか否かにかかわらず、また就業規則上の根拠があるか否かを問わず、労働者の同意なくしてテレワークを行わせることができないものと解釈することとなり得ます。
 これらの解釈については、定説があるわけではなく、テレワークを行わせる業務上の必要性と労働者のプライバシー保護の調和の観点より、その中間的な考え方も出てくるものと解されます。
(2) 労働者がテレワークを希望する場合
 一般には労働者に就労請求権はないものと解されており(日本自転車振興会事件・東京地判平9.2.4労判712号12頁等)、テレワーク請求権も認められないものと解されます。但し、使用者によるテレワーク対象者選定に関する使用者の裁量に対しては、安全配慮義務(労契法5条)、均等均衡待遇原則(労基法3条)、男女差別禁止(均等法6条1号)、不当労働行為禁止(労組法7条等)の観点から、テレワークを認めないことが違法となる余地はあります。
 また、テレワークを希望する労働者が出社できない場合において、当該労働者に不利益処分を課すことができるかどうかについては、解雇の場合には労契法16条、17条、懲戒処分の場合には労契法15条に即して判断されることとなります。

 (1)(2)のいずれの場合にも、実際にテレワークを実施するにあたっては、労働者本人の納得のうえで、対応することが肝要です。

2 その他の留意点
 テレワークの対象者に関する留意点として、「テレワークの 適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」(以下、テレワーク指針という)3(3)においては、以下の点についても指摘しています。
テレワーク就労についても、正規労働者と非正規労働者との間で不合理な待遇差を設けることはできないので、パート有期法8条、9条、派遣法30条の3の不合理な待遇の相違に該当するかどうかについて判断されることになります。「テレワークの対象者を選定するに当たっては、正規雇用労働者、非正規雇用労働者といった雇用形態の違いのみを理由としてテレワーク対象者から除外することのないよう留意する必要があ」ります。
 また、雇用形態にかかわらず、企業内でテレワークを実施できる者に偏りが生じてしまう場合もありますが、その場合においても「労働者間で納得感を得られるよう、テレワークを実施する者の優先順位やテレワークを行う頻度等について、あらかじめ労使で十分に話し合うことが望ましい」ものといえます。
 さらに、「在宅での勤務は生活と仕事の線引きが困難になる等の理由から在宅勤務を希望しない労働者については、サテライトオフィス勤務やモバイル勤務を利用することも考えられ」ます。
 加えて、「新入社員、中途採用の社員及び異動直後の社員は、業務について上司や同僚等に聞きたいことが多く、不安が大きい場合もあ」ります。そのため、「業務を円滑に進める観点から、テレワークの実施に当たっては、コミュニケーションの円滑化に特段の配慮をすることが望ましい」ものといえます。ここにいう「特段の配慮」の内容ですが、テレワーク指針のもとになった令和2年12月25日の検討会報告書によれば、「対面と比較してコミュニケーションが取りづらい側面のあるテレワークのみではなく、出社と組み合わせる等の対応が考えられる」と記載されていることが参考となります。

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