法律Q&A

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労務管理としてのカスタマーハラスメント対策の必要性

弁護士 岩野 高明(ロア・ユナイテッド法律事務所)
2022年4月

従業員が顧客や取引先の従業員から執拗にクレーム被害を受けているようです。
会社としてどのように対処したらよいのかわかりません。

従業員への聞き取りや他の証拠から、できるだけ正確に事実関係を把握します。
その結果、従業員の側に落ち度があれば、その程度に応じて謝罪等の対応をすべきですが、従業員の側に落ち度がないか、顧客等の要求が従業員の落ち度に比して過大である場合には、要求を拒否すべきです。
不当な要求に対しては組織的に対応し、場合によっては警察や弁護士等への相談も検討すべきでしょう。

【 解 説 】
カスタマーハラスメントについては、最近、厚生労働省が企業用の対策マニュアルを作成しました。

◆厚生労働省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」(令和4年2月25日)

 これによると、カスタマーハラスメントは、「顧客等からのクレーム・言動のうち、当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって、当該手段・態様により、労働者の就業環境が害されるもの」と定義されています(マニュアル7ページ)。顧客等の要求の内容自体が妥当でなかったり、要求の内容は妥当であっても、手段・態様が相当でなかったりすれば、カスタマーハラスメントに該当し得ることになります。これらの妥当性・相当性は、一般社会常識に照らし、企業が独自に判断する必要があります。
 マニュアルでは、一般的にカスタマーハラスメントに該当する可能性が高いクレーム等の類型が示されています。「顧客等の要求の内容が妥当性を欠く場合」の例として、◆企業の提供する商品・サービスに瑕疵・過失が認められない場合や、◆要求の内容が、企業の提供する商品・サービスの内容とは関係がない場合が挙げられています。「要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当な言動」の例としては、◆身体的な攻撃(暴行、傷害)、◆精神的な攻撃(脅迫、中傷、名誉毀損、侮辱、暴言)、◆威圧的な言動、◆土下座の要求、◆継続的な(繰り返される)、執拗な(しつこい)言動、◆拘束的な言動(不退去、居座り、監禁)、◆差別的な言動、◆性的な言動、◆従業員個人への攻撃、要求などです。また、◆商品交換の要求、◆金銭補償の要求などは、事情によっては正当な要求になり得ますが、顧客等の損失の程度に照らして過大な要求であれば、これらもカスタマーハラスメントに該当する可能性が出てきます。
 従業員が顧客等から執拗にクレーム等を受けている場合に、対応を当該従業員一人に押しつけたりしていると、企業の法的責任(安全配慮義務違反)が問われることもあります。場合によっては、「過大な要求」としてパワーハラスメントに該当する場合もあるでしょう。また、従業員と顧客等の双方の言い分のうち、どちらに理があるのかを調査・判断しないまま、一方的に従業員に謝罪するよう命じたりすれば、これもパワーハラスメントに該当する可能性があります。
 もとより、顧客等からの執拗なクレーム等によって従業員が疲弊し、従業員の労働意欲や労働能力が低下することは、企業にとって大きなマイナスです。企業として、カスタマーハラスメントに真剣に対処する必要があります。
 上記のマニュアルでは、①カスタマーハラスメントに対する企業としての基本方針の策定と周知、②被害を受けた従業員のための相談窓口の設置、③ハラスメント行為への対応方法や手順の確立、④従業員等への教育・研修等の対処策が示されています。この中で、①の基本方針の周知は、従業員の会社への信頼と安心感を高めるために、特に重要だと考えられます。クレーム等の行為者が、企業にとって重要な顧客であったりすると、得てして従業員の安全よりも顧客との取引のほうを優先してしまいがちですが、①の基本方針を定めて周知することによって、このような考えとは決別し、不当なクレーム等から従業員を守る覚悟を持つ必要があります。
 従業員からカスタマーハラスメント被害の相談を受けた企業は、当該顧客等のクレーム等に正当な理由があるのかどうかを判断しなければなりません。被害者である従業員からの聴き取り内容や、他の証拠(防犯カメラの映像や録音記録、電子メールなど)を精査することになるでしょう。クレーム等が繰り返されるのであれば、証拠を得るための機器類を設置する必要があるかもしれません。
 事実関係をひととおり把握した段階で、従業員や会社の側に落ち度がある場合には、その程度に応じて謝罪や商品の交換、代金の返還等の対応をすべき場合もあります。他方、不当な要求に対しては、担当者一人に任せるのではなく組織的に対応し、場合によっては警察や弁護士等への相談も検討すべきでしょう。
 カスタマーハラスメントは、自社の従業員が被害者になる場合のほか、加害者になる場合も想定されます。取引先から、「うちの従業員があなたのところの従業員からハラスメント被害を受けた」という連絡が来るような場合です。自社の従業員のカスタマーハラスメント行為については、会社も使用者責任(民法第715条1項)を問われることになりますので、このような事態に陥らないためには、自社の従業員に対する啓発活動にも注力する必要があります。
 仮に、取引先から上記のような連絡が来た場合には、加害者とされる従業員に聞き取り調査を行うなど、取引先と連携して事実関係の把握に努める必要があるでしょう。取引先へのハラスメント行為については、これを懲戒事由として規則に加えることも検討すべきです。

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