法律Q&A

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テレワーク社員の長時間労働対策

弁護士 難波 知子(ロア・ユナイテッド法律事務所)
2022年5月

テレワークの長時間労働を予防するためには、どのような方法がありますか。

 当社は、テレワークを推進しておりますが、テレワークは、会社による時間管理が難しく、どうしても長時間労働になってしまい、従業員の体調が心配です。
 テレワークにおいて長時間労働を防止するためには、どのような点に注意し、どのような対策を取る必要があるのでしょうか。具体的な方法を教えてください。

 具体的な方法としては、①メール送付の抑制、②システムへのアクセス制限、③時間外労働等についての手続きの厳格化、④長時間労働を行う労働者への注意喚起、⑤勤務時間インターバル制度の活用、⑥コミュニケーション体制の整備、⑦業務の可視化、長時間労働を解消できない場合の⑧テレワーク対象者からの除外等が考えられます。
 定期的な面談や健康診断を行うとともに、労働時間をしっかりと把握し、長時間労働を放置しないようにする環境整備が有用です。

【解説】
 テレワークは、業務の効率化により時間外労働の削減につながるというメリットが期待できる反面、労働者が使用者と離れた場所で勤務するため使用者の管理の程度が弱くなり、それに伴い長時間労働に陥り易いという問題点があります。
 具体的には、自宅で働くことになるため、集中できずにダラダラしてしまい、業務時間内に仕事が終わらず、残業時間が増加する場合や、家族がいることで集中する環境を作れなかったり、ネットワークや机・椅子・照明など、十分な仕事環境が整えられない場合等が考えられます。
 他方で、周囲に人がいない環境のため、集中して仕事を続けられることや、いつでも仕事ができるため昼夜問わず、また、休日も仕事をしてしまい、長時間労働になることも考えられます。
 このように、様々な要因から長時間労働になり易いテレワークにおいては、使用者としては、労働者の健康被害防止を図ることや、ワークライフバランスの確保に配慮することが求められます。なお、テレワークにおいては、労働者の自宅等で行われるものであることから、通常、危険、有害業務を行うことは想定されないため、健康管理としては、長時間労働対策とメンタルヘルス対策が特に重要なものとなると考えられます。
 長時間労働等を防ぐ手法としては次の方法が考えられます。

① メール送付の抑制等
 役職者、上司、同僚、部下等から時間外にメールを送付することの自粛を命ずる方法があります。時間外メールの送付自体を禁じれば、返信やメール指示に基づいた時間外の業務遂行も難しくなり、長時間労働の防止につながります。
 また、時間外等における業務の指示や報告のあり方について、各事業場の実情に応じ、使用者がルールを定めることも有用です。

②システムへのアクセス制限
 外部のパソコン等から所定外深夜・休日は事前に許可を得ない限りアクセスできないよう設定する方法があります。この方法によると、そもそも、システムにアクセスできないことから時間外労働の防止につながります。
 
③時間外・休日・所定外深夜労働についての手続きの厳格化
 業務の効率化やワークライフバランスの実現の観点から、労使の合意により、時間外労働等が可能な時間帯や時間数をあらかじめ使用者が設定する方法があります。
 また、労使双方において、テレワークの趣旨を十分に共有するとともに、時間外等の労働を行う場合の手続き等を就業規則等に明記したり、書面等により明示しておくことが有効であるとされています。
 そして、上記の業務の効率化やワークライフバランスの実現の観点からテレワークを導入する場合、その趣旨を踏まえ、時間外・休日・深夜労働を原則禁止とすることも有効です。この場合、労働者にテレワークの趣旨を十分理解させるとともに、時間外・休日・深夜労働の原則禁止や上司等による許可制とすることなどを、就業規則に明記することや、時間外・休日労働に関する三六協定の締結の仕方を工夫することが有効です

④長時間労働等を行う労働者への注意喚起 
 テレワークにより長時間労働が生じるおそれのある労働者や、休日・所定外深夜労働が生じた労働者に対して、使用者が注意喚起を行う方法もあります。
 具体的には、管理者が労働時間の記録を踏まえて行う方法や、労務管理システムを活用して対象者に自動で警告を表示する方法が考えられます。

⑤勤務時間インターバル制度の活用
 前日の終業時から翌日まで一定程度の時間を空ける勤務時間インターバル制度も長時間労働を抑制するための手段の一つとして考えられます。

⑥コミュニケーション体制の整備、
 テレワーク中に利用が増える傾向にあるメールや電話がコミュニケーションを停滞させる要因となるため、コミュニケーションツールを見直し、簡単にやり取りができるビジネスチャットを導入することも残業時間削減に繋がる可能性があります。
 また、テレワークでは労働者が上司等とコミュニケーションを取りにくいという問題点もあるため、円滑にコミュニケーションをとるシステムを構築することも重要です。定期面談、1対1の面談、チームミーティング等仕事の負荷や状況を上司等が把握し、長時間労働になることを防ぐことも肝要です。

⑦業務の可視化
 業務の内容・進捗状況や結果を可視化し、共有する仕組みを構築することも有効です。

⑧テレワーク対象者からの除外
 対策しても長時間労働が回避・解消できない場合には、必要に応じてテレワーク対象者からの除外等の方法が考えられます。これを行うためには、就業規則等でテレワーク対象者の許可をする権限を使用者側に設定しておく必要があります。

 以上のような手段が考えられますが、テレワークの特性を踏まえながら各企業の実情に合わせ、適切に労働時間の管理を行い、長時間労働防止に努める必要があります(以上につき、厚生労働省令和3年3月25日付「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」も参照)。

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