法律Q&A

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シフト制従業員につき、会社の判断でシフトを削減することができますか?

弁護士 中野 博和(ロア・ユナイテッド法律事務所)
2022年9月

シフト制従業員につき、会社の判断でシフトを削減することができますか?

1 所定労働日数についての合意の有無
 まず、雇用契約書の記載や勤務実態等からして、使用者と従業員との間で、所定労働日数についての合意が認められる場合において、使用者の「責めに帰すべき事由」(民法536条2項)に該当するときは、賃金請求権が認められます(萬作事件・東京地判平成29年6月9日労ジャ73号40頁、ホームケア事件・横浜地判令和2年3月26日労判1236号91頁など)。
 上記ホームケア事件では、裁判所は、「本件雇用契約における所定労働日数に係る合意は、上記各契約書の記載のみにとらわれることなく、本件請求期間より前の控訴人(注:従業員を指します。)の勤務実態等の実情も踏まえて、契約当事者の意思を合理的に解釈して認定するのが相当である。」とした上で、「本件請求期間より前である平成29年以前は、おおむね週4日勤務していたものと推認されるから、本件雇用契約における所定労働日数に係る合意は、契約当事者の意思を合理的に解釈すれば、週4日であったと認めるのが相当である。」として所定労働日数を認定しています。
 また、ここで認められる賃金月額は、「当該月の日数×所定労働日数÷7」で当該月の出勤日数を計算し、出勤日数に1日あたりの賃金(時給制の場合は、1日あたりの労働時間数に時給を乗じて日給を算定します。)を乗じて算定した金額が当該月の賃金となるものと解されます(前掲萬作事件)。ただし、シフト削減前の1日あたりの賃金の平均額とシフト削減後の1日あたりの賃金の平均額の差額を算定し、これにシフト削減後の日数を乗じた額とする裁判例(医療法人社団新拓会事件・東京地判令和3年12月21日労判1266号44頁)もあります。
 なお、使用者の「責めに帰すべき事由」(民法536条2項)は、使用者の故意、過失又は信義則上これと同視すべき事由をいうものと解されておりますので、従業員が業務とは関係なく怪我や病気になったことによりシフトを削減するような場合には、賃金請求権は認められません。ただし、使用者に過失がない機械・設備の故障や検査、監督官庁の勧告による操業停止など、使用者側の領域において生じたものといいうる経営、管理上の障害の場合には、休業手当(労基法26条)を支払う必要があります(ノースウエスト航空(会社側上告)事件・最判昭和62年7月17日労判499号6頁、水町勇一郎「詳解労働法(第2版)」〔東京大学出版会・2021年〕643頁以下など)。

2 シフト決定権限濫用の有無
 使用者と従業員との間で、所定労働日数についての合意が認められない場合には、使用者のシフト決定権限濫用が認められるかを検討することとなろうかと思われます。
 この点について、シルバーハート事件(東京地判令和2年11月25日労判1245号27頁)では、「シフト制で勤務する労働者にとって、シフトの大幅な削減は収入の減少に直結するものであり、労働者の不利益が著しいことからすれば、合理的な理由なくシフトを大幅に削減した場合には、シフトの決定権限の濫用に当たり違法となり得ると解され、不合理に削減されたといえる勤務時間に対応する賃金について、民法536条2項に基づき、賃金を請求し得ると解される。」と判示しており、シフトを大幅に削減したといえるか及びシフトの大幅な削減に合理的な理由があるといえるかが、シフト決定権限濫用を検討するにあたっての判断基準の一つとなりうるものと考えられます。
 シフトを大幅に削減したといえるかについて、上記シルバーハート事件では、「被告(注:従業員を指します。)の平成29年5月のシフトは13日(勤務時間73.5時間)、同年6月のシフトは15日(勤務時間73.5時間)、7月のシフトは15日(勤務時間78時間)であったが、……同年9月のシフトは同月2日の1日のみ(勤務時間8時間)とされ、同年10月のシフト以降は1日も配属されなくなった。同年8月については変更後も5日(勤務時間40時間)の勤務日数のシフトが組まれており、勤務時間も一定の時間が確保されているが、少なくとも勤務日数を1日(勤務時間8時間)とした同年9月及び一切のシフトから外した同年10月については、同年7月までの勤務日数から大幅に削減したことについて合理的理由がない限り、シフトの決定権限の濫用に当たり得ると解される。」と判示されています。ここでは、勤務日数を約3分の2に減らされ、勤務時間も2分の1近くに減らされた平成29年10月については、大幅に削減したとは認められていないことから、大幅に削減したといえるかについては、一定程度ハードルが高いものといいうるでしょう。
 シフトの大幅な削減に合理的な理由があるといえるかについて、上記シルバーハート事件では、「平成29年9月29日時点で被告が一切の児童デイサービスでの勤務に応じないと表明していたことを認めるに足りる証拠はない。」とした上で、「原告(注:使用者を指します。)は、この他にシフトを大幅に削減した理由を具体的に主張していないことからすれば、勤務日数を1日とした同年9月及びシフトから外した同年10月について、同年7月までの勤務日数から大幅に削減したことについて合理的な理由があるとは認められず、このようなシフトの決定は、使用者のシフトの決定権限を濫用したものとして違法であるというべきである。」と判示されています。この点については、「職務遂行能力又は能率が著しく劣り、向上の見込みがないという状態にあった」ことを認定して、シフトの削減について合理的な理由があることを認めた東京シーエスピー事件(東京地判平成22年2月2日労判1005号60頁)が参考となりうるでしょう。
 また、認められる賃金月額について、上記シルバーハート事件では、「被告の同年9月及び10月の賃金については、前記シフトの削減がなければ、シフトが削減され始めた同年8月の直近3か月の賃金の平均額を得られたであろうと認めるのが相当であ……る。」と判示されており、シフト削減の直近の賃金の平均額が月額賃金として認められ得ることとなるでしょう。

3 いわゆる「シフト制」により就業する労働者の適切な雇用管理を行うための留意事項について
 厚生労働省は、令和4年1月7日、「いわゆる『シフト制』により就業する労働者の適切な雇用管理を行うための留意事項」という通達を作成しました。
 この通達では、シフト制従業員に関し、労働契約書や就業規則の記載事項や、社会保険及び労働保険の取扱い等について留意事項等を指摘しており、参考となるでしょう。また、通達の内容を簡潔に記載したリーフレットも厚労省のHPで公開されています。

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