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パワハラがあった職場での異動について

弁護士 村林 俊行(ロア・ユナイテッド法律事務所)
2022年12月

パワハラがあった職場での異動について

職場環境調整義務としての異動を行う場合の留意点について教えてください。

使用者は、労働者に対して、職場環境調整義務の履行として行為者の異動を検討する場合には、権利濫用として無効とならないように、以下の解説で記載した最高裁の東亜ペイント事件判決の要件を吟味するとともに、会社の規模により配置転換が難しい場合には、加害者と被害者の業務上の接触を無くすように検討する必要があります。また、被害者の要望で被害者の配置転換等を検討する場合には、行為者が残ることでその職場環境が悪化するケースもありうることに注意が必要です。

【 解説 】
1 職場環境調整義務について

 使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとするとされ(労契法第5条)、労働者に対して安全配慮義務を負っています。そして、使用者は、安全配慮義務のひとつである職場環境調整義務として、良好な職場環境を保持するため、職場におけるパワハラ行為を防止する義務を負っているものと解されます。また、労働施策法第30条の2第1項では、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動によって、労働者の就業環境が害されることのないように必要な措置を講じなければならないと定めていることも、使用者の労働者に対する職場環境配慮義務を根拠づけるものと解されます(フジ住宅事件・大阪高判令3・11・18労ジャ119号2頁参照)。
 この点、裁判例(さいたま市(環境局職員)事件・東京高判平29・10・26労判1172号26頁)においても、安全配慮義務違反の具現化としての職場環境調整義務について、「安全配慮義務のひとつである職場環境調整義務として、良好な職場環境を保持するため、職場におけるパワハラ、すなわち、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景として業務の適正な範囲を超えて、精神的、身体的苦痛を与える行為又は職場環境を悪化させる行為を防止する義務を負い、パワハラの訴えがあったときには、その事実関係を調査し、調査の結果に基づき、加害者に対する指導、配置換え等を含む人事管理上の適切な措置を講じるべき義務を負うものというべきである」としています。

2 職場環境調整義務としての異動について
 パワハラが発生した場合、又はそのおそれがある場合、使用者には職場環境調整義務の履行として、被害の継続・拡大を防ぐため、その事実の有無について迅速かつ正確に調査を行うことが求められます。使用者がこれを怠り、認識しながら放置した等の場合には、使用者に損害賠償責任が発生するおそれがあるので注意が必要です。そのうえで、使用者は、調査の結果に基づき、加害者に対する指導、配置換え等を含む人事管理上の適切な措置を講じるべき義務を負うことになります。労働施策法第30条の2第1項では、事業主に職場におけるパワハラがないよう雇用管理上必要な措置を講ずべき旨規定していますが、同条第3項を受けて作成されたパワハラ指針においても、「職場におけるパワーハラスメントが生じた事実が確認できた場合においては、速やかに被害を受けた労働者(以下「被害者」という。)に対する配慮のための措置を適正に行うこと」を要請しています(同指針4(3)ロ)。
 行為者の異動を命ずるに際しては、裁判例においては「業務上の必要性が存しない場合又は業務上の必要性が存する場合であっても、・・・・・・・他の不当な動機・目的をもってなされたものであるとき若しくは労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとき」には権利濫用により無効となるとしていることに注意が必要です(東亜ペイント事件・最判昭61.7.14 労判477号6頁)。
 パワハラの加害者と被害者が、同じ職場で就労を続けることは、被害者が耐え難いと判断される場合や、将来再度同様の事案発生を防止する観点等から、行為者を他の職場に移すことを検討することになります。
 会社の規模によっては、配置転換が難しい場合もありますが、加害者と被害者の業務上の接触を無くすように検討する必要があります。
 なお、被害者の要望次第では、被害者の配置転換等を検討することもありますが、行為者が残ることでその職場環境が悪化するケースもありうることに注意が必要です。

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