法律Q&A

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裁量労働制の見直しの方向性

弁護士 岩出 誠(ロア・ユナイテッド法律事務所)
2023年1月

厚労省が進めている裁量労働制の見直しの行方と実務的影響はどうなりますか?

厚労省で裁量労働制の見直しに向けた議論が進められてきたと聞いています。①どのような点が課題とされ、どのような方向で見直しが進められているのですか?②今後、法改正等により、企業の実務にもどのような影響が及ぶことが予想されますか?

①については、a対象業務、b対象労働者の要件、c本人同意・同意の撤回・適用解除、d業務量のコントロール等を通じた裁量の確保、e労働者の健康・福祉確保措置、fみなし労働時間の設定と処遇の確保、g労使委員会の導入促進と労使協議の実効性向上、h苦情処理措置、i行政の関与・記録の保存等につき、規制を強化する部分と緩和する部分が検討されています。
②について、規制緩和面では、企画業務型の適用範囲の拡大に注目すべきです。反面、規制強化面も多く、就業規則、労使協定、労使委員会決議や健康・福祉確保措置の実施状況に関する書類の保存等につき、人事労務関係者の負担は増えるものと予想され、今後の立法動向を注視すべきです。

解説
1 これからの労働時間制度に関する検討会報告

厚労省は、働き方改革を進めるなかで、令和3年7月26日「これからの労働時間制度に関する検討会」を設置し、労使のニーズや社会の要請に対応する労働時間制度のあり方について、労使からのヒアリングを含めた実態調査を踏まえて、同4年7月15 日同検討会の報告書(以下「時間報告」という)をまとめました。そのなかの大きな柱の1つとして、裁量労働制の見直しが盛り込まれ、必要な対応は速やかに進める旨を明示しています。現実問題として、裁量労働制は労使双方にとってメリット・デメリットが絡み合っており、実務の現場では運用に苦慮するケースも少なくありません。

時間報告、特に、裁量労働制に関する概要図に出ている提言を踏まえ、令和4年7月27日以来、厚労省労政審議会労働条件分科会(以下「分科会」という)において、白熱した審議が継続しています。

2 対象業務
時間報告第4の2(1)では、“まずは現行制度の下で制度の趣旨に沿った対応が可能か否かを検証の上、可能であれば、企画型や専門型の現行の対象業務の明確化等による対応を検討し、対象業務の範囲については、経済社会の変化や、それに伴う働き方 に対する労使のニーズの変化等も踏まえて、その必要に応じて検討することが適当”と提言されています。

3 対象労働者の要件
時間報告第4の2(2)イでは、“•企画型の対象労働者の要件の着実な履行確保を図るため、職務経験等の具体的な要件をより明確に定めることが考えられる •専門型でも、裁量労働制の下で働くにふさわしい労働者に制度が適用されるようにする観点から、そのような労働者の属性について、必要に応じ、労使で十分協議・決定することが求められる。 •賃金・評価制度の運用実態等を労使協議の当事者に提示することを使用者に求める等、対象労働者を定めるに当 たっての適切な協議を促すことが適当”(分科会要約)と提言されています。

上記「適当」とされる内容は、法令・指針等に反映され、それ以外は、通達等に反映されるものと予想されます。専門業務型裁量労働制への見直しにまで検討対象に入っている点には留意すべきです。

4 本人同意・同意の撤回・適用解除
時間報告第4の2(2)アでは、“•専門型・企画型いずれについても、使用者は、労働者に対し、制度概要等について確実に説明した上で、制度適用に当たっての本人同意を得るようにしていくことが適当•本人同意が撤回されれば制度の適用から外れることを明確化することが適当•労働者の申出による同意の撤回とは別に、一定の基準に該当した場合には裁量労働制の適用を解除する措置等を講ずるような制度設計を求めていくことが適当”と提言されています。

いずれの点も「適当」とされており、法令・指針等に反映されるものと予想されます。専門業務型裁量労働制への見直しにまで検討対象に入っている点には留意すべきです。また、最後の点は、時間報告では、過重労働等の健康面からの指摘ですが、人事考課等による不適格性判断による解除制度の整備も課題となるでしょう。

5 業務量のコントロール等を通じた裁量の確保
時間報告第4の2(2)ウでは、“•裁量が事実上失われたと判断される場合には、裁量労働制を適用することはできないことを明確化するとともに、そのような働かせ方とならないよう、労使が裁量労働制の導入時点のみならず、制度の導入後もその運用実態を適切にチェックしていくことを求めていくことが適当 •裁量労働制は、始業・終業時刻その他の時間配分の決定を労働者に委ねる制度であることを改めて明確化することが適当(分科会要約)と提言されています。いずれの点も「適当」とされており、法令・指針等に反映されるものと予想されます。前述のように専門業務型裁量労働制への見直しまで検討対象に入っている点には留意すべきです。

6 労働者の健康・福祉確保措置
時間報告第4の2(3)アでは、“・対象労働者の健康確保を徹底するため、 健康・福祉確保措置を見直していくことが必要であり、その際、分かりやすさ や制度間の整合性にも配慮することが適当・労働時間の状況の把握については、現行の指針で定めている内容や、労働安全衛生法に基づく義務の内容を踏まえ、これらの取扱いを明らかにすることが適当・裁量労働制の対象労働者の健康確保を徹底するためには、措置の内容を充実させ、より強力にその履行確保を図っていく必要がある。このため、他制度との整合性を考慮してメニューを追加することや、複数の措置の適用を求めていくことが適当・専門型の健康・福祉確保措置については、「企画型における同措置の内容と同等のものとすることが望ましい」旨を通達で示しており、専門型と企画型とで差異を設ける理由はないと考えられることから、できる限り同様のものとすることが適当”と提言されています。いずれの点も「適当」とされており、法令・指針等に反映されるものと予想されます。前述のように専門業務型裁量労働制への見直しまで検討対象に入っている点には留意すべきです。

7 みなし労働時間の設定と処遇の確保
時間報告第4の2(3)イでは、“・みなし労働時間は、対象業務の内容と、対象労働者に適用される評価制度及びこれに対応する賃金制度を考慮して適切な水準となるよう設定する必要があること等を明確にすることが適当・所定労働時間をみなし労働時間とする場合には、 制度濫用を防止し、裁量労働制にふさわしい処遇を確保するため、対象労働者に特別の手当を設けたり、対象労働者の基本給を引き上げたりするなどの対応が必要となるものであり、これらについて明確にすることが適当”と提言されています。いずれの点も「適当」とされており、法令・指針等に反映されるものと予想されます。前述のように専門業務型裁量労働制への見直しまで検討対象に入っている点には留意すべきです。

8 労使委員会の導入促進と労使協議の実効性向上
時間報告第4の2(4)アでは、“・使用者は労使協議の当事者に対し、裁量労働制の実施状況や賃金・評価制度の運用実態等を明らかにすることや、労使協議の当事者は当該実態等を参考にしながら協議し、みなし労働時間の設定や処遇の確保について制度の趣旨に沿った運用になっていないと考えられる等の場合には、これらの事項や対象労働者の範囲、業務量等を見直す必要があること等を明確にすることが適当・企画型について、労使委員会委員に対し、決議の内容を指針に適合したものにするよう促すとともに、指針の趣旨の正しい理解を促す観点から、行政官庁が委員に対し適切に働きかけを行うことも考えられる・裁量労働制では、労使当事者が合意によって導入した制度が、合意した形で適切に運用されていることの検証が重要であることを考慮すると、労使による協議を行う常設の機関である労使委員会を積極的に活用していくことが、当該制度の適正化に資するものと考えられる。このため、専門型においても、労使委員会の活用を促していくことが適当・労働者から苦情の申出があった場合など、制度運用上の課題が生じた場合に、適時に労使委員会を通じた解決が図られるようにすることや、労使 協議の実効性確保の観点から、過半数代表者や労使委員会の労働者側委員の選出手続の適正化、過半数代表者等に関する好事例の収集・普及を行うことが適 当である。併せて、労使委員会の実効性向上のための留意点を示すことが適当”と提言されています。上記「適当」とされる内容は、法令・指針等に反映され、それ以外は、通達等に反映されるものと予想されます。専門業務型裁量労働制への見直しまで検討対象に入っている点には留意すべきです。また、労使委員会の積極的活用が強調されています。

9 苦情処理措置
時間報告第4の2(4)イでは、“苦情処理措置については、認知度や苦情申出の実績が低調である実を踏まえ、本人同意を取る際の事前説明時等に苦情申出の方法等を積極的に対象労働者に伝えることが望ましいことを示すことが適当・併せて、例えば労使委員会に苦情処理窓口としての役割を担わせるなど、労使委員会を通じた解決が図られるようにすることや、苦情に至らないような内容についても幅広く相談できるような体制を整備することを企業に求めることが適当”と提言されています。いずれの点も「適当」とされており、法令・指針等に反映されるものと予想されます。専門業務型裁量労働制への見直しまで検討対象に入っている点には留意すべきです。ここでも、労使委員会の積極的活用が強調されています。

10 行政の関与・記録の保存等
時間報告第4の2(4)ウでは、“企画型が制度として定着してきたことを踏まえ、現行では6か月以内ごとに 1回行わなければならないこととされている定期報告について、その負担を減らすことが適当・その際、行政による監督指導に支障が生じないよう、 健康・福祉確保措置の実施状況に関する書類の保存を義務付けることが適当・手続の簡素化の観点から、企画型の労使委員会決議・専門型の労使協定の本社一括届出を認めることが適当と提言されています。いずれの点も「適当」とされており、法令・指針等に反映されるものと予想されます。数少ない規制緩和の具体的提言となっています。

11 実務的影響と留意点
Q②の影響についいては、規制緩和面では、具体的な企画業務型裁量労働制での定期報告頻度の負担軽減、企画業務型裁量労働制の労使委員会決議・専門業務型裁量労働制の労使協定の本社一括届出規制緩和面の他に、今後明らかになるであろう、企画業務型裁量労働制の適用範囲の拡大に注目すべきです。

実務的影響は、今でもほとんど利用されていない高度プロフェッショナル制度(労基法41条の2)よりはるかに大きく、経済界の要請も強く注目されます。ただし、最大の争点化することが予想され、結論には予断を許しません。

しかし、その反面、同意要件、同意撤回や健康確保措置の強化、対象労働者の処遇の向上等のように、規制強化面も多く、就業規則、労使協定、労使委員会決議や健康・福祉確保措置の実施状況に関する書類の保存等を含めて、人事労務関係者の負担は増えるものと予想され、今後の立法動向を注視すべきです。

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