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総合職社員が転勤を拒否した場合、解雇は可能でしょうか?

弁護士 中村 仁恒(ロア・ユナイテッド法律事務所)
2023年6月

この度、転勤の辞令を出したところ、総合職の社員が拒否しました。
どのような対応が可能でしょうか?解雇をした場合、認められますか?

転勤命令の有効性が認められる場合には、転勤命令拒否を理由とした解雇が認められる可能性があります。また、一定の賃金返還請求が可能になる場合があります。

1 転勤命令の有効性の原則的判断枠組み
転勤命令が有効と認められるためには、まず、転勤命令の契約上の根拠が必要となります。そこで、就業規則や契約書などにより、会社に転勤を命ずる権利が定められていることが求められます。そうした規定がある場合には、権利濫用に当たらない限り、転勤命令は有効となることが原則です。

判例によれば、①転勤命令に業務上の必要性がない場合、または、業務上の必要性が存在する場合でも②他の不当な動機・目的をもってなされたものであるとき、もしくは③労働者に通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとき等特段の事情がある場合には権利濫用となります。

つまり、業務上の必要性があり、他に不当な動機もなく、また、労働者に与える不利益が通常程度であれば、権利濫用には当たらず、転勤命令は有効となるのが原則です。

2 業務上の必要性、不当な動機・目的、従業員の不利益の程度について
①業務上の必要性についてですが、裁判例によれば、余人をもって代えがたいといった高度の必要性までは求められておらず、人事のローテーションといった事情で業務上の必要性が肯定される傾向にあります。
②の不当な動機・目的とは、例えば、組合員であることなどを理由に、不利益を与える目的で転勤を命じた場合などに不当な動機・目的が認定されます。
③の「通常甘受すべき程度を著しく超える不利益」が認められる例は、従来の判例・裁判例によれば、病気の家族の介護・看護関係が多くなっていました。他方で、転勤すると単身赴任せざるを得ないという事情では、上記に該当しないと判断されてきています。

ただし、近年では、育児介護休業法の改正により、「事業主は、その雇用する労働者の配置の変更で就業の場所の変更を伴うものをしようとする場合において、その就業の場所の変更により就業しつつその子の養育又は家族の介護を行うことが困難となることとなる労働者がいるときは、当該労働者の子の養育又は家族の介護の状況に配慮しなければならない。」という規定が設けられたり(26条)、社会的なワーク・ライフ・バランスの意識の高まりがあり、上記の判例・裁判例は変化していく可能性がありますので、その動向を注視していく必要があります。

3 勤務地を限定する個別の合意がある場合
もっとも、以上に対して、勤務地を限定する合意を労働者と結んでいる場合には、転勤命令を一方的に出すことはできません。勤務地を合意している以上、一方的に勤務地を変更することは契約違反となるため、そのような命令を出しても無効となります。なお、就業規則に転勤命令を根拠づける規定があったとしても、就業規則よりも従業員に有利な個別同意が存在する場合には、従業員に有利な個別同意の効力が優先されますので、勤務地を限定する個別合意がある場合には、そちらが優先されることになり、就業規則を根拠に転勤命令を出すことはできません。そのため、例外的に個別合意を結んでいないかも確認する必要があります。

勤務地を限定する合意がある場合には、転勤について合意を得る必要があります。

4 転勤命令を拒否した場合の解雇
裁判例において、転勤命令が有効である場合、転勤命令違反は重大な企業秩序違反であるとして、転勤命令拒否を理由とする解雇は有効と判断される傾向があります。

ただし、従業員に対する説明等の手続に問題があったり、従業員の事情を十分考慮していないなど、手続面に問題があるとされ、解雇を無効と判断する裁判例も見られますので、こうした点については配慮しつつ慎重に進める必要があります。

5 賃金返還請求
総合職の従業員が転勤命令を拒否した場合において、賃金返還請求を認容した裁判例があります。この裁判例は、転勤を拒否した場合の賃金返還を定めた就業規則があり、それに基づいて転勤を拒否した従業員に対して賃金の返還請求を行ったという事案です。裁判所は、当該就業規則の効力を認めて、賃金の返還請求を認めました。転勤を拒否した場合の賃金返還について明確に定めておけば、賃金の一部について返還請求を行える可能性もあります。そのため、転勤を拒否した場合に賃金返還請求を行うためには、あらかじめ就業規則・賃金規程を整備しておく必要があります。

もっとも、上記の裁判例は、返金額が半年分で12万円にとどまること、労働者に過度の負担を強い、その経済生活を脅かす内容とまではいえないことを理由として、上記の返還規定の有効性を認めています。そのため、返還規定を設ける場合には、上記の点に留意しつつ、妥当な内容にすることが必要になります。

6 転勤を拒否する従業員に関して弁護士に相談したい方はこちら
転勤を拒否する従業員については、解雇等の措置を検討することが考えられますが、解雇の有効性を検討するにあたっては、業務上の必要性や従業員側の事情をも考慮して検討する必要があります。また、手続の妥当性にも配慮する必要性があります。こうした点を誤ると、解雇が無効となり、解雇後の賃金を支払う必要性が生じるなど、損害が発生してしまうリスクがあります。そのため、弁護士と協議の上適切に対処する必要性があります。

なお、転勤を拒否した場合の賃金返還請求等を検討する場合には、あらかじめ就業規則・賃金規程に関連規定を設けておく必要があるため、そうした点についても事前の準備が必要となりますので、この点も弁護士にご相談いただくことをお勧めいたします。

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