法律Q&A

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どのようなセクハラ行為をした従業員について解雇できますか?

弁護士 織田 康嗣(ロア・ユナイテッド法律事務所)
2023年7月

男性社員が女性社員に対し、体を触るなどのセクハラ行為を行ったようです。当該男性社員を解雇することは可能でしょうか?

軽微なセクハラで解雇することは困難ですが、刑法に抵触するような行為など、強度な身体的接触を伴う場合には、解雇できる可能性が高いといえます。

1 セクハラとは
セクハラとは、相手の意に反する不快な性的な言動等をいいます。セクハラ指針(平成18・10.11厚労告615号、最終改正令和2・1・15)によれば、セクハラは「対価型」と「環境型」に分類することができます。

【対価型セクハラ】
労働者の意に反する性的な言動に対する労働者の対応により、当該労働者が解雇、降格、減給、労働条件の更新拒否、昇進・昇格からの除外、客観的に見て不利益な配置転換などの不利益を受けること

<例>
①事務所内において事業主が労働者に対して性的な関係を要求したが、拒否されたため、当該労働者を解雇すること
②出張中の車中において上司が労働者の腰、胸等に触ったが、抵抗されたため、当該労働者について不利益な配置転換をすること
③営業所内において事業主が日頃から労働者に係る性的な事柄について公然と発言していたが、抗議されたため、当該労働者を降格すること

【環境型セクハラ】
職場において行われる労働者の意に反する性的な言動により労働者の就業環境が不快なものとなったため、能力の発揮に重大な悪影響が生じる等当該労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じること

<例>
①事務所内において上司が労働者の腰、胸等に度々触ったため、当該労働者が苦痛に感じてその就業意欲が低下していること
②同僚が取引先において労働者に係る性的な内容の情報を意図的かつ継続的に流布したため、当該労働者が苦痛に感じて仕事が手につかないこと
③労働者が抗議をしているにもかかわらず、事務所内にヌードポスターを掲示しているため、当該労働者が苦痛に感じて業務に専念できないこと

 

2 雇用管理上の措置内容
職場におけるセクハラを放置すれば、労働者の意欲の低下などによる職場環境の悪化が生じることはもちろん、職場全体の生産性の低下、労働者の健康状態の悪化、休職や退職などに繋がり、ひいては経営的な損失等をもたらすこともあり得ます。また、会社の安全配慮義務違反、使用者責任等を根拠として、被害者から会社に対し、損害賠償請求がなされることもあるでしょう。慰謝料のみでは低額にとどまったとしても、精神疾患に罹患し、長期の休養に追い込まれるような事案では、逸失利益の損害も発生し、賠償額が高額になるケースもあるので注意が必要です。

セクハラ指針では、会社に対し、以下のような措置の実施を求めています。

①職場におけるセクハラの内容及びそれを行ってはならない旨の方針を明確化し、労働者に周知・啓発すること
②相談(苦情)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
③事後の迅速かつ適切な対応

 

3 セクハラに関する相談対応・調査・事実認定
会社に求められる措置の内容として、相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備が求められていることは上述したとおりです。セクハラの調査にあたっては、以下の事項に注意することが必要です。

(1) プライバシーの遵守
性的な内容に関わるハラスメント類型であることから、プライバシーの遵守は一層求められます。セクハラ調査中に、第三者にハラスメントの内容が漏れることがあれば、二次被害の恐れも生じかねません。

(2) 評価ではなく事実の確認をすること
被害者から、ある上司から「卑猥な発言」をされたという申告があった場合、それのみでは、セクハラとして認定できません。「卑猥な」というのは、あくまで発言に対する評価であって、セクハラ調査として確認すべきは、「卑猥な発言」という評価に至った具体的な発言です。5W1Hをはっきりさせて、具体的にどのような発言・行為があったのか、関係者のヒアリング等から認定していくことが必要となります。

(3) 被害者の意思に留意すること
加害者からの報復を懸念して、被害者から、加害者への接触は控えてほしいといった申し出がなされることもあります。被害者の意思を尊重しながら調査することは必要ですが、こういった申し出がある場合からといって、直ちにセクハラ申告を放置してよいことにはなりません。(報復禁止の)誓約書を取得して調査するなど、被害者が納得できる方法を模索する必要があります。

裁判例では、被害者が「そっとしておいてください。事を荒立てないでください。」と述べた事案に関し、「原告に必要だったのは、プライバシーや秘密が厳守されるとの安心感のもと、原告の訴えに真摯に耳を傾け、丁寧に話を聞いてくれ、これによって心が整理され、真に自分が望む解決方法を自覚できる相談相手であった。このような相談者がいた場合に、原告がその相談者に対する相談をも避けたとは考え難い。」と判示した事案があります(銀行支店長事件・京都地判平成13・3・22判時1754号125頁)。

(4) 公正・中立に調査すること
加害者が全面的に否定していることから、セクハラの認定ができないわけではありません。反対に、被害者の申し出全てが正しいとも限りません。

調査担当者に求められるのは、公正・中立な調査です。当事者だけでは適切な事実認定が出来ない場合、第三者からの聴取はもちろん、録音やメールの有無など客観的証拠がないか確認することが必要です。セクハラ発言・行為そのものの直接証拠がないとしても、被害者と加害者の関係、行為前後の状況など、様々な視点から検討していく必要があります。

4 セクハラに対する懲戒処分の事例(裁判例)
社内での調査の結果、セクハラと認定された場合、加害者に対し、何らかの処分を検討することになります。裁判例では以下のような事案があります。

(1) L館事件(最判平成27・2・26労判1109号5頁)
管理職らが、女性従業員に対し、職場において1年以上にわたって強い不快感や嫌悪感ないし屈辱感を与える発言(自らの不貞相手との性生活の話、水族館の客に関する発言として「今日のお母さんよかったわ」のほか、「もうそんな歳になったん。結婚もせんでこんな所で何してんの。親泣くで。」などといった発言)を繰り返していた事案。

裁判所は、出勤停止処分や、資格等級制度に基づく降格を有効と判断しました。

(2) 学校法人X大学事件(東京地判令和4・1・20労ジャ123号18頁)
元准教授が教え子である学生の胸を同意なく触ったうえ、大学に対し、あたかも当該学生が虚偽の申出をして元准教授を貶めたとうかがわせる記載をするなどした事案。

裁判所は、懲戒解雇処分を有効と判断しました。

(3) X監査法人事件(東京高判令和3・7・14労判1250号58頁)
元従業員に対し、ストーカー行為を行った事案。具体的には、約3か月間にかけて、職場で被害女性に視線を送ったり、被害女性の利用する座席のそばの座席を使用したり、被害女性が退社して駅に向かうとその後を付けたり、被害女性が退社して駅に来るのを待ち伏せ、ホームで被害女性を見失うと、被害女性が利用する乗換駅に行って被害女性を探したりしており、警察からも警告を受けていました。

裁判所は、諭旨免職処分を有効と判断しました。

(4) X市事件(最判平成30・11・6労判1227号21頁)
市職員が、勤務時間中に制服を着用して、市内に所在するコンビニエンスストアを利用し、店舗の女性従業員に対し、その左手首をつかんで引き寄せ、その指先を制服の上から自らの股間に軽く触れさせるなどした事案。

原審では、身体的接触について渋々ながら同意していたとしていましたが、最高裁では、客と店員の関係に過ぎず、女性従業員が身体的接触に抵抗を示さなかったとしても、それは客との間のトラブルを避けるためのものであったとみる余地がある等としました。結論として、停職6か月の懲戒処分を有効と判断しています。

5 セクハラに対する会社の対応方法
社内でセクハラが発生した場合、まずは申告された事実が認められるのか、事実認定を行う必要があります。被害者・加害者のほか、第三者などから入念に話を聞く必要があります。

そのうえで、セクハラに該当するか検討していきます。セクハラに該当するとしても、言葉によるものから、身体的接触を伴うものなど、その態様は様々です。

裁判例でも、当該発言がセクハラに該当する一方、金銭による賠償を要するほどの違法性は認められないとされる事例があるように(小野薬品工業(パソナ)事件・大阪地判平24・11・30労ジャ12号22頁)、セクハラ行為の程度も様々なものがあります。

軽微なセクハラの場合、一般には解雇することは困難です。とはいえ、前述の懲戒処分の事例(裁判例)をみても分かるように、刑法に抵触するようなわいせつ行為、身体的接触が強度なものについては、解雇も含めた対応が視野に入ってきます。

ただし、この場合も同意の有無が争点になる場合が少なくありません。密室で行われた行為の場合、これを直接示す証拠に乏しいことがありますが、そのような場合であっても、当事者の関係、日ごろの行動、行為後の対応など、様々な事情からきめ細かく検討していく必要があります。

6 セクハラへの懲戒処分・解雇に関して弁護士に相談したい方はこちら
解雇や重い懲戒処分を課す場合には、相対的に紛争化の可能性も高まります。万が一、解雇が無効になれば、解雇後の賃金を支払わなければならないなど、会社にとって大きなリスクが生じます。

紛争化を見据えて対処するには、本当にセクハラと認定できるのか、裁判に耐えられるだけの証拠が収集できているか、同意があったとする加害者の抗弁を排斥できるかなど、弁護士と協議のうえ、適切に対処することが重要です。

当事務所には、セクハラをはじめとするハラスメント問題に精通した弁護士が多数在籍しております。社内でセクハラ問題が発生した場合には、お気軽にご相談ください。

身近にあるさまざまな問題を法令と判例・裁判例に基づいてをQ&A形式でわかりやすく配信!

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