法律Q&A

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退職者優遇措置で優秀な人材の流出を防ぐ

弁護士 岩出 誠(ロア・ユナイテッド法律事務所)
2001.02.06
 政府等の統計上の数字上は、現在も、緩やかな景気回復基調にあるそうだが、最近の株式相場の混迷を見ても、依然先行き不透明な状態が続き、むしろ、メガ・コンペティションの進展下、企業の経営環境は、その深刻度を増している。これを受けて、多くの企業内で依然として経営のスリム化等の合理化が、目先の業況の動向にかかわりなく進められている。その大きな柱の一つが、経営における大きな支出項目である人件費の削減=人員の削減であることは論をまたない。その削減策として、退職金支給率の割増、退職金額の上積などの優遇をなす希望退職が、それ独自に行われる場合もあれば、最終的な手段としての整理解雇についてのいわゆる四条件中の解雇回避努力義務の一環として行われる場合がある。他方、定年前の一定期間に退職した者に対し、退職金等につき同様の優遇をなす早期退職者優遇制度が、実質は希望退職と変わらない場合もあるが、建前的には人事ローテーションの円滑化・活性化等のため利用されることもある。

しかし、これらの退職者優遇措置の実施については、従来から、優秀な人材の流出防止策の可否などの問題があることが指摘され、それらへの検討が求められていたところ、最近、相次いで、これらの問題に関する判例が示されたので紹介したい。

先ず、退職者優遇措置の適用について、企業が行った希望退職等の「募集」の法的意味が問題となる。例えば、一定の年齢層や部署への募集の際に、これに応募すれば当然に優遇措置の適用を受けられるのか、あるいは、企業が必要と認めた人材には優遇措置の適用を拒否できるのかと言う問題だ。この点に関して、判例は、募集は労働契約合意解約の「申込の誘引」(広告のようなもの)であって申込ではないとして(津田鋼材事件・大阪地判平11.12.24、大和銀行事件・大阪地判平12.5.12)、企業による募集の撤回を認めたり、あるいは、募集条件の優遇措置の適用には会社の承認を要する旨の条項(いわゆる逆肩叩き条項)が、退職により企業の業務の円滑な遂行に支障が出るような人材の流失を回避しようとするもので公序良俗に反するものではなく有効であるとして、企業の承諾(承認)ない者への適用を排除することを認めている(ホーヤ事件・大阪地判平9.10.31、大和銀行事件・前掲等)。しかし、49歳と 50歳以外の従業員(47歳~54歳)の応募については、優遇規定を「準用」する旨の規定の不備を突かれて最高額と同額の優遇措置の適用を認めた例もあり(朝日広告社事件・大阪高判平11.4.27)、企業としては、上記のような承認条項等の規定の整備が必要だ。

その他、優遇措置につき、一律・平等な適用が求められたりすることがあるが、判例は(住友金属事件・大阪地判平12.4.19)、退職加算金は退職勧奨に応じる対価であり、勧奨の度合いによってその時期や所属部署によりその支給額が変わっても、その応諾は労働者の自由な意思によるものであるから、平等原則に違反することはないとして、企業には特定部門の一定の時期に支払ったと同じ優遇措置を別の部門や異なる時期の退職労働者に適用する義務はないとしている。なお、ある労働者の退職届の時点では優遇措置の計画がなされていない以上、退職の効果発生以後に公表された優遇措置を過去の退職者に適用する義務はないとされている(イーストマン・コダック事件・東京地判平8.12.20)。

別添参考資料

日本労働研究機構 発表 平成10年「12月リストラの実態に関する調査」

平成9年賃金事情等総合調査(中央労働委員会)

退職金、年金及び定年制事情調査(平成9年6月調査)

「1,000人以上の大企業の退職金・年金制度の現況」

選択定年制(早期退職者優遇制度)

定年前の一定期間に退職した者に対し、退職金支給率の割増、退職金額の上積みなどの優遇制度を導入している企業が263社(定年制採用企業360社の73.1%)で、「制度なし」の企業が97社(同26.9%)となっている。

イ 実施年齢

早期退職者優遇制度を導入している企業について優遇制度が適用開始される最低の年齢をみると、「5 0歳」の企業が120社(早期退職者優遇制度を導入している企業263社の45.6%)で最も多く、次いで「45歳」の企業が70社(同26.6%)、「55歳」の企業が29社(同11.0%)などとなっている。

ロ 優遇措置の内容

早期退職者優遇制度導入企業263社について、優遇措置の内容をみるとく重複回答)、「退職一時金のみ」について優遇の企業が214社(早期退職者優遇制度がある企業263社の81.4%)となっており、次いで「退職一時金とその他」の企業が14社(同5.3%)、「退職年金のみ」の企業が12社(同 4.6%)などとなっている。

次に、退職一時金の優遇措置がある企業239社についてその内容をみると、適用される退職一時金支給率では、「定年支給率」の企業が166社(退職一時金の優遇措置がある企業239社の69.5%)、「自己都合支給率」の企業が31社(同13.0%)、「自己都合支給率に割増した支給率」の企業が 17社(同7.1%)などとなっている。

退職一時金の算定に用いる勤続年数の通算方法では、「退職時の勤続年数」をそのまま用いる企業が178社(退職一時金の優遇措置がある企業239社の74.5%)で最も多く、次いで「定年扱い」の企業が38社(同15.9%)などとなっている。

退職一時金への加算措置では、「早期退職者に特別の加算」を行う企業が160社(退職一時金優遇措置がある企業239社の66.9%)で最も多く、次いで、定年退職者と同一の加算を行う「定年扱い加算」の企業が40社(同16.7%)となっている。「加算なし」の企業は22社(同9.2%)にすぎず、ほとんどの企業で何らかの加算を行っている。

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