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ベースダウンはどうしたらできるのか -賃金を切下る合法的方法は?

弁護士 岩出 誠(ロア・ユナイテッド法律事務所)
2000.01.31

 今年の春闘は、具体的に労働組合側(電機連合)からいわゆるワークシェアリングが提案されたことに象徴されるように、従前以上に雇用保障問題の深
刻化の結果、「ベースアップならぬベースダンウン(賃金切下)」という問題が現実化している。しかし切下は労働条件の不利益変更として抵抗を招き易い。そ
こで主な賃金切下の合法的方法の法的ポイントを紹介しておく。

I 賃金切下の方法として、先ず、報酬・賃金の一部放棄または一時的な引下の合意による方法がある。合意には、明示又は黙示の合意を問わず、判例
は、切下後の賃金の異議をとどめない受領等をもって、賃金切下につき黙示の合意を認めている(最二小判平成9.3.25。大坂地判平成9.5.28は、賃
金減額に関する経営会議で異議の申し出なく、減額案の作成、会社への提出等により、合意ありとした)。

II 就業規則の改正による賃金切下については、改正による労働条件の不利益変更の効力が問題となるが、一般的に、判例は、就業規則の改正に合理性
があるかどうかでその効力の有無が決まるとしている(最大判昭和43.12.25等)。そして、その合理性の有無の判断は、以下のように、変更の内容(不
利益の程度・内容)と、変更の必要性との比較を基本として、不利益に対する代償措置の有無・内容・程度、労働組合との交渉経過、他の従業員の態度、変更の
社会的相当性などを総合的に考慮してなされることになる(最三小判昭和63.2.16等)。例えば、(1)役職定年制による高年齢層の賃金の切下が認めら
れた例(仙台高判平成8.4.24)では、労使の十分な協議と制度改革の必要性を踏まえて就業規則改正の合理性が認められている。(2)職能資格・等級の
見直しによる切下の方法も理論上はあり得る。しかし、今までの裁判例は、事案の特殊性にもよるが、結論として、この方法での切下げを認めていない(東京地
判平成
6.9.14、東京地判平成8.12.11)。(3)全従業員について賃金原資を一定割合での一律減額が認められた例である、最二小判平成9.2.28
は、定年延長(58歳から60歳へ)に伴い従前の制度下で期待することができた労働条件に実質的に不利益(年収の30%以上の減額で2年の延長も生涯賃金
ではほとんど増加なし)を及ぼす就業規則の変更が有効とした。

III 労働協約又は組合との合意による切下の例として、定年年齢、退職金支給率の引き下げ等を内容とする協約が、一部の組合員をことさら不利益に取り扱うことを目的として締結されたものとはいえず、有効とした最二小判平成9.3.27等がある。

VI 配転・降格等による業務変更を理由とする切下の場合、業務・職種等に伴う賃金・処遇の差異が明確に規定されていることが必要とされる(否定例の東京地判平成9.6.10等)。

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