法律Q&A

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不利益変更された労働協約を反対者へ適用できるか

パラリーガル 岩出 亮(ロア・ユナイテッド法律事務所)

不利益変更された労働協約を反対者へ適用できるか

会社と労働組合が労働協約を締結していますが、経営状況の悪化を受けて、会社が労働協約の改定を求めてきました。これにより、従業員の住宅手当が廃止されることになるため、組合員の一部はこの労働協約の改定に反対しています。新たに改定した労働協約を締結した場合、労働協約の改定に反対している一部の組合員に対し、この改定した労働協約が適用されるでしょうか。

原則として、労働協約の改定に反対している一部の組合員に対して、改定した労働協約は適用されます。但し、①特定の組合員を殊更不利益に扱うことを目的として締結がなされた等の事情が認められた場合、②協約締結の手続きが遵守されていない場合、③組合員個人の権利の処分等に関する場合等に関しては、労働協約に規範的効力が認められず、改定後の労働協約は組合員には適用されないことになります。

1.労働協約による労働条件不利益変更の可否
 まず、労働組合の主たる目的が「労働者が主体となって自主的に労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図ること」(労組法2条本文)であることから、労働条件を不利益に変更する労働協約の締結権限があるかどうかが問題となります。

 これについては、かつては否定する判例(大阪白急タクシー事件・大阪地決昭和53・3・1労判298号73頁等)もありましたが、通説・判例は、これを許容する立場となっています。すなわち、「団体交渉は相互互譲の取引であり、労働組合としては組合員の利益を全体的・長期的に擁護しようとして、それ自体では不利益と見える協定をも締結するのであり、そのような内容の交渉をし、協定を締結する権限を労働組合が有していないと考えることは労働組合に任務の著しい縮減となることから、協定締結権限に一定の制約はあるものの一般論として労働協約は労働者に不利な事項についてもその効力は及ぶ、つまり、労働協約による労働条件の不利益変更は認められる」とされています(岩出誠・実務労働法講義(下)1258頁・民事法研究会)。
2.反対組合員への適用の可否
 次に、労働協約による労働条件の不利益変更がなされた場合、これに反対する組合員についても労働協約が適用されるか問題となります。

 従前の労働条件について、不利益に変更する労働協約の締結権限は、無条件に認められるものではありません。

 まず、①労働協約が「特定の又は一部の組合員を殊更不利益に取り扱うことを目的として締結された」ような場合には、組合員に労働協約の規範的効力は及ばない場合があると考えられています(朝日火災海上保険(石堂・本訴)事件・最一小判平成9・3・27労判713号27頁等)。

 次に、②組合大会においての承認や組合員投票等を経ないで、協約を締結した場合、組合内意思形成の手続上に瑕疵があるとして、組合員に労働協約の規範的効力は及ばない場合があると考えられています(中根製作所事件・東京高判平成12・7・26労判789号6頁、鞆鉄道事件・広島高判平成16・4・15労判879号82頁等)。

 加えて、③既に発生している賃金請求権の放棄や、組合員の雇用の終了に関する労働協約の締結については、個々の労働者の個別的な授権が必要となるため、授権なく締結した労働協約の規範的効力は否定されることになります(香港・上海銀行事件・最一小判平成元・9・7労判546号6頁、北港タクシー事件・大坂地判昭和55・12・19労判356号9頁)。

 以上のような場合には、労働協約の規範的効力が否定されるため、反対している組合員には改定された労働協約は適用されないことになります。

対応策

労働協約に規範的効力をもたせるためには、①組合大会を開催するなど協約締結の所定の手続きを遵守し、②協約内容が特定の者に著しい不利益を与えるものではないようにすることが必要です。また、③個人の権利を処分するような場合には事前に個別的に授権を得ることが必要です。

予防策

今回のケースでは、会社の経営状況が苦しくなった中での住宅手当の廃止となっております。そのため、労働協約の締結に反対する組合員に対しては、組合の上層部が、不利益な条件の労働協約を締結する理由を丁寧に説明することで、無用な争いを避けることも必要になります。

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