法律Q&A

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兼職禁止(2)

弁護士 山﨑 貴広 2018年5月:掲載

企業が副業・兼業を認める場合に留意すべき点は?

企業が副業・兼業を認める場合
1.就業時間の把握・管理を適切に行うこと
2.労働者の健康管理への対応を怠らないこと
3.労働者の職務専念義務、秘密保持義務、競業避止義務を確保すること
に留意をすべきです。

1 副業・兼業の現状
 現在、多くの会社の就業規則において、「会社の許可なく他人に雇い入れられること」などが禁止され、その違反が懲戒事由として定められています。現に、中小企業庁の平成26年度の報告によると、企業の85.3%が副業を認めていません。
2 副業・兼業の促進に関するガイドライン
 厚生労働省は、平成29年10月から「柔軟な働き方に関する検討会」を開催し、雇用型テレワーク、自営型(非雇用型)テレワーク、副業・兼業といった柔軟な働き方について、検討を行ってきたところ、平成30年1月に「副業・兼業の促進に関するガイドライン」(以下、「ガイドライン」といいます。)及びその補足資料としてのQ&Aを公表しました。
・参照 厚生労働省 副業・兼業
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000192188.html
3 副業・兼業を認める場合の留意点
(1)副業・兼業を認める場合の留意点と対応を怠った場合のリスク
ガイドラインによると、企業が副業・兼業を認める場合の留意点は、
①必要な就業時間の把握・管理や健康管理への対応
②職務専念義務、秘密保持義務、競業避止義務を確保するための対応
を行うこととされています。
以下では、企業がこれらの対応を怠った場合のリスクを解説します。

ア 労働基準法32条違反や割増賃金不払いなどの責任を負担する危険性
労働基準法38条1項は、「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する」と定めており、昭和23年に出された行政通達によれば、「事業場を異にする場合」とは事業主を異にする場合をも含むとされています(昭和23年5月14日労働基準局長通達第769号)。(実際の計算方法については、上記Q&Aをご参照ください。)
このように、企業は、労働者の副業・兼業に係る就業時間の把握・管理を怠ると、知らない間に、労働基準法32条違反や割増賃金不払いなどの責任を負担することになりかねません。

イ 安全配慮義務違反に基づく損害賠償責任を負う危険性
労働契約法5条は「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」と定め、企業が労働者に対して安全配慮義務を負うことを明らかにしており、企業は、これに違反した場合、労働者に対し損害賠償責任を負うこととなります。
企業が副業・兼業を認めると、当該労働者の労働時間の増加が不可避的に伴います。そして、近時問題とされているように、長時間労働は、精神疾患や過労死の原因となり得、精神疾患や過労死については、本業先と副業先のいずれの業務によって生じたかどうかの判断は困難です。
この点、労災保険給付の事案ではありますが、兼業中の過労自殺につき、国・新宿労基署長事件(東京地裁平成24年1月19日判決・労経速2142号21頁)が、A、B社の勤務時間の合算が、1か月300時間を超えるものであったとしても、A社での勤務時間が1か月で154時間であることからすれば、A社の業務に内在する危険であると評価することは困難で、かえって、被災者はA社に対して兼業の事実を秘匿し、B会社での業務を辞職してA社での勤務を自ら望んでおり、自らが選択して、B社とA社との兼業を始めたという各事情は、A社の業務に内在する危険が存在することを否定するもので、A社には本件災害を生じさせるだけの危険が内在していたと認めることはできないとし、兼業状態で発生した過労自殺につき、A社での業務起因性を否定したことが参考となります(国・新宿労基署長事件・東京地裁平成25年9月26日判決も、兼職状態において発生した過労自殺における起因性の帰属に関する事例として参照。岩出誠『労働法実務大系』(民事法研究会、2015)508頁)。
このように、企業は、副業・兼業を認め、健康管理への対応を怠ると、当該労働者が長時間労働を行い精神疾患等になった場合、上記義務に違反したとして、労働者に対し高額な損害賠償責任を負うことになりかねません。
なお、使用者は、労働者が副業・兼業をしているにかかわらず、労働安全衛生法66条等に基づき、健康診断等を実施しなければなりません。

ウ 職務専念義務、秘密保持義務、競業避止義務違反の危険性
労働者は、労働契約の権利義務の最も基本的な義務として、労働契約の合意内容の枠内で、労働の内容・遂行方法・場所などに関する使用者の指揮に従った労働を誠実に遂行する誠実労働義務を負います。また、労働者には、在職中、労働契約における信義則上の義務として(労働契約法3条4項)、営業秘密の保持義務、競業避止義務、使用者の名誉・信用を毀損しない義務が一般に認められています(前掲・岩出・大系377頁~394頁、427頁~430頁参照)。
このように、労働者は、企業に在職中は、職務専念義務、秘密保持義務、競業避止義務(ライドウェーブコンサルティングほか事件・東京高裁平成21年10月21日判決・労判995号39頁等)を、企業との間における労働契約の内容として当然に負っています。
しかし、企業が副業・兼業を認めることは、労働者が故意でなくとも上記義務に違反する可能性を潜在的に高めます。

(2)副業・兼業に関する制度設計のポイント
以上を踏まえると、企業が副業・兼業を認める場合の制度設計のポイントは、厚生労働省のモデル就業規則やガイドラインにもあるように、まずは、副業・兼業の内容等を労働者に申請・届出させ、企業がその内容を把握できる制度を構築すべきです。その際は、企業が副業を禁止又は制限できる場合も定めるべきでしょう。
実際に、労働者が副業・兼業を申請してきた際には、上司や人事担当者はその副業・兼業が競業にあたらないか、いつ、どこで副業・兼業を行うのか、どの程度の就業時間、業務量になるのかなどを必要な範囲で確認するとともに、労働者が制度に違反した場合には懲戒処分等もあり得ることを注意喚起するべきでしょう。
副業を認めた後は、企業としては、副業・兼業での労務との兼ね合いの中で、時間外・休日労働の免除や抑制等を行うことや、労働者とのコミュニケーションを通し健康状態等を確認すること等の措置を講じることが肝要です。

4 労働者が会社の規則へ違反し副業・兼業を行った場合の懲戒処分の留意点
 企業が副業・兼業を認める制度を整備したとしても、労働者が制度に違反し副業・兼業を行う可能性は十分に考えられます。企業が制度に違反し副業・兼業を行った労働者に対して懲戒処分を行う場合には、次の点に留意が必要です。
裁判例の大勢は、勤務時間外の時間については、本来、使用者の支配が及ばないことを考慮して、二重就職の禁止の制約の範囲を限定的に解釈しています。具体的には、会社の職場秩序に影響せず、かつ会社に対する労務の提供に格別の支障を生ぜしめない程度・態様の二重就職は禁止の違反とはいえないとされています(岩出・前掲大系376頁~377頁)。
特に、いわゆる非正規雇用で、勤務日数や勤務時間も少なく、しかも給与も低く、複数の企業で稼動しなければ生活も成り立たないような労働者にも一律に副業を禁止することには合理的な理由を求めるのが困難な場合が多いでしょう。
裁判例としては、病気休職中に内職をしていたというケースにつき、会社の企業秩序に影響せず、会社に対する労務提供に格別の支障を生じさせないものについては、就業規則で禁止される二重就職にはあたらないから、その内職についても二重就職にはあたらず、これを懲戒解雇にすることはできないとしたもの(平仙事件・浦和地裁昭和40年12月16日判決・判時438号56頁)、教授が無許可で語学学校講師等の業務に従事し、講義を休講したことを理由として行われた懲戒解雇について、副業は夜間や休日に行われており、本業への支障は認められないとして、解雇を無効としたもの(東京都私立大学教授事件・東京地裁平成20年12月5日判決・判例タイムズ1303号158頁)や、一方で、午前8時45分から午後5時15分まで本業先で勤務し、午後6時から午前0時までキャバレーで会計係などの仕事をしていたケースにつき、(兼業は、)軽労働とはいえ、深夜に及ぶ長時間の兼業であり、誠実な労務提供に何らかの支障をきたす蓋然性が高いとして、懲戒解雇を有効としたもの(小川建設事件・東京地裁昭和57年11月19日決定・労判397号30頁)、会社の管理職にある従業員が、直接経営には関与していないものの競業他者の取締役に就任したことは、懲戒解雇事由に該当するとして、解雇を有効としたもの(橋元運輸事件・名古屋地裁昭和47年4月28日判決・判例タイムズ280号294頁)が参考となります。
したがって、企業としては、労働者が副業・兼業に係る制度に違反した場合には、それが会社の職場秩序に影響するかどうか、会社に対する労務提供に支障を生ぜしめないかどうかを慎重に判断すべきです。
5 企業が副業を不許可にする場合の留意点
 なお、すでに、副業許可をめぐっては、兼業許可申請への不許可は、恣意的な対応をうかがわせるもので、不当労働行為意思に基づくものと推認され、不合理かつ執拗なアルバイト就労の不許可により、生活の足しとすべき収入が得られなかったこと等により被った精神的苦痛に対する慰謝料額は、会社の対応の不合理性の程度、許可されるべきアルバイト就労によって得られた収入の程度、それが当該労働者の収入に占める割合等の諸事情を総合的に考慮して、30万円とするのが相当であるとされたマンナ運輸事件(京都地裁平成24年7月13日判決・労判1058号21頁)が示されていることにも留意しなければなりません(岩出・前掲大系377頁)。

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