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最低賃金の額を超えているか、どのように確認すればよいか

パラリーガル 岩出 亮(ロア・ユナイテッド法律事務所)
2018年9月:掲載

最低賃金の額を超えているか、どのように確認すればよいでしょうか。

最低賃金は時間によって定められており、また、最低賃金に含めることができない賃金も多くあります。従業員に支払っている賃金から、除外すべき賃金を除き、時間辺りの賃金を算出して、最低賃金を下回っていないか確認することが必要です。

1. 最低賃金制度
 最低賃金制度とは、最低賃金法(以下「法」といいます)に基づき、国が賃金の最低限度を定め、使用者は、その最低賃金額以上の賃金を支払わなければならないとする制度です。労働契約で最低賃金に達しない賃金が定められた場合には、その部分は無効となり、最低賃金と同様の定めをしたものとみなされます(法第4条)。
 近年、最低賃金は急激に上昇しています。最低賃金について、「働き方改革実行計画」(平成29年3月28日働き方改革実現会議決定)において、「年率3%程度を目途として、名目GDP成長率にも配慮しつつ引き上げていく。これにより、全国加重平均が1,000円になることを目指す」とされたためで、地方によっては、直近の4年間で100円近く上昇している地域もあります。
 そのため、最低賃金に近い金額で、従業員の賃金を設定している場合には、最低賃金額の改定時に最低賃金を下回らないように注意することが必要となってきます。
2. 最低賃金の種類
 最低賃金には、地域別最低賃金と特定最低賃金の2種類があります。
 地域別最低賃金は、産業や職種にかかわりなく、都道府県内の事業場で働くすべての労働者とその使用者に対して適用されます。都道府県ごとに最低賃金が定められています。
 他方、特定最低賃金は、特定の産業について設定されている最低賃金です。関係労使の申出に基づき最低賃金審議会の調査審議を経て、同審議会が地域別最低賃金よりも金額水準の高い最低賃金を定めることが必要と認めた産業について設定されています。
 この地域別最低賃金と特定最低賃金の両方が同時に適用される場合には、高いほうの最低賃金額以上の賃金を支払わなければならないとされています(法第6条)。
3. 最低賃金の対象となる賃金
 最低賃金の対象となる賃金は、毎月支払われる基本的な賃金です。具体的には、実際に支払われる賃金から次の賃金を除外したものが最低賃金の対象となります(法第4条第3項、最低賃金法施行規則(以下「規則」といいます)第1条)。
① 臨時に支払われる賃金(結婚手当など)
② 1箇月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)
③ 所定労働時間を超える時間の労働に対して支払われる賃金(時間外割増賃金など)
④ 所定労働日以外の日の労働に対して支払われる賃金(休日割増賃金など)
⑤ 午後10時から午前5時までの間の労働に対して支払われる賃金のうち、通常の労働時間の賃金の計算額を超える部分(深夜割増賃金など)
⑥ 精皆勤手当、通勤手当及び家族手当

4.最低賃金における時間額
 最低賃金額は、時間によって定めるものとされています(法第3条)。
 そして、賃金が時間以外の期間または出来高払制その他の請負制によって定められている場合は、当該賃金が支払われる労働者については、以下の式で時間額を計算することになります(規則第2条)。

① 日給制の場合
日給÷1日の所定労働時間
(1日の所定労働時間数が異なる場合は、1週間における1日平均所定労働時間数)

② 週給制の場合
週給÷週の所定労働時間
(週の所定労働時間数が異なる場合は、4週間における1週平均所定労働時間数)

③ 月給制の場合
月給÷1月平均所定労働時間
(月の所定労働時間数が異なる場合には、1年間における1月平均所定労働時間数)

④ 時間、日、週又は月以外の一定の期間によって定められた賃金
①~③に準じて算定した額

⑤ 出来高払制その他の請負制によって定められた賃金
当該賃金算定期間において出来高払制その他の請負制によって計算された賃金の総額を、当該賃金算定期間において出来高払制その他の請負制によって労働した総労働時間数で除した金額

5.最低賃金における時間額
 以上を踏まえ、具体的なケースで確認していきます。

【東京都にあるA社の従業員Bの場合】
◆労働時間    1月の平均所定労働時間は160時間
◆賃金(月給制) 基本給  150,000円
         資格手当   5,000円
         家族手当  20,000円
         役職手当  50,000円(ただし、固定残業代として支払う)
         通勤手当  25,000円
         総額   250,000円

 上記の場合、まず、家族手当および通勤手当は前述の3⑥にあたるため、除外賃金となります。また、役職手当につきましても、固定残業代として支払われており、割増賃金としての性質を有するため、3③等の割増賃金に該当し、除外賃金となります。そのため、基本給および資格手当として支給される合計155,000円が最低賃金の算定の対象となります。
 以上より、時間額を計算しますと、月給制で支払われておりますので、
 月給155,000円÷160時間(1月平均所定労働時間)=968.75円
が時間額となります。
 そこで、会社のある東京都の最低賃金をみますと、平成30年9月現在で958円となっています。上記時間額は最低賃金以上の額であるため、この時点では最低賃金以上の賃金は支払われていることになります。
 ところが、平成30年10月より東京都の最低賃金は985円に改定されます。そのため、同年10月以降は時間額が最低賃金を下回ることになり、最低賃金額に満たない部分について、会社が支払わなければなりません。

6.最後に
 最低賃金は毎年10月に改定されます。従業員の賃金が最低賃金に近い金額で定められている企業は、当該時期に、上記の方法によって、最低賃金を下回っていないか確認することが重要です。

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