法律Q&A

分類:

従業員からの有給休暇買取請求に応じなければならないか?

弁護士 石居 茜(ロア・ユナイテッド法律事務所)
2016.04

従業員からの有給休暇買取請求に応じなければならないか?

退職届を出した従業員が残っている有給休暇を会社に買い取ってほしいと要請してきました。応じなければならないでしょうか。退職前に有給休暇をすべて取得して辞めたいと言ってきた場合はどうでしょうか。

有給休暇の買い取りに応じる義務はありません。有給休暇の取得を申請してきた場合は、原則として取らせる必要があります。

1.有給休暇の買い取りについて
 有給休暇は、労働者の心身の疲労を回復させ、労働力の維持培養を図るために、一定期間継続勤務し、8割以上出勤した労働者に対し、労働基準法が、休日以外に、毎年一定日数の有給休暇を取得する権利を与えたものです。
 
従業員は、原則として、好きなときに、有給休暇を取得することができ、取得の理由を会社に示す必要もありません。
 
有給休暇の買取を認めると、金銭による買取をする会社が出てきて、労働者に休暇を取らせるという法の趣旨に反するため、会社が有給休暇を買い取ることは原則として違法となります。
 
よって、退職を願い出てきた労働者が、有給休暇を会社に買い取ってほしいと言ってきたとしても、会社に買い取る義務はありません。
 
ただし、退職によって消滅してしまう有給休暇の買い取りを合意すること自体は違法ではないと解されているので合意による買取は可能です。退職前に有給休暇を取得したいと言ってきた場合には、後述の時季変更が認められる場合を除いて、取得を認める必要があります。
2.有給休暇の時季変更権について
 労働基準法は、会社に対し、事業の正常な運営を妨げる場合は、有給休暇の取得を他の時季に変更する権利を認めています。

 もっとも、最高裁判例は、会社はできる限り従業員が指定した時季に休暇をとることができるように配慮をする必要があるとし、勤務割による勤務体制が取られている場合であっても、代替勤務者を確保して勤務割を変更することが客観的に可能であるのに会社がそのための配慮をしなかったために代替勤務者が配置されなかったときは、必要配置人員を欠いたからといって事業の正常な運営を妨げる場合に当たるとはいえないと判断しています。
 長期かつ連続の年休取得に関し会社の時季変更権を認めた例はありますが、一般的には、時季変更権を行使するには上記のような配慮が求められ、行使できる場面はあまり多くないといえるでしょう。
 労働基準法では、労働者の過半数代表との協定により、年休5日間以上を従業員が自由に取得できるようにすれば、残りの年休については、計画的に付与することが認められています。
時季変更権の行使で対応するのではなく、計画年休の付与によって、繁忙期以外に年休を付与したほうが対策としては有効と思われます。

関連タグ

身近にあるさまざまな問題を法令と判例・裁判例に基づいてをQ&A形式でわかりやすく配信!

キーワードで探す
クイック検索
カテゴリーで探す
新規ご相談予約専用ダイヤル
0120-68-3118
ご相談予約 オンラインご相談予約 メルマガ登録はこちら