法律Q&A

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濫用的会社分割と残存債権者の保護

弁護士 鈴木 みなみ 2016年10月:掲載

会社分割によって事業の承継を受けた会社が、会社分割によって分割会社に残った債務について請求される場合はどのような場合か。

A社には甲事業と乙事業がありますが、甲事業は不採算部門のため、甲事業をA社に残し、会社分割によって新たにB社を設立して乙事業をそちらに移し、事業を立て直したいと考えています。何か問題がありますか。

会社分割がA社の債権者を害することを知って行われた場合には、B社は、A社の債権者から債務を請求される場合があります。

1.旧会社法の会社分割における債権者保護の不備
 平成26年に会社法が改正され、平成27年5月1日より施行されています。ここでは、会社分割に関する改正について解説します。
 まず、旧会社法における会社分割には、分割によって承継会社(会社分割によって事業を引継ぐ会社のこと)・設立会社(会社分割により事業を引継ぐにあたって新たに設立される会社のこと)に引き継がれた債務の債権者は、会社分割(会社分割によって事業を引継がせた会社のこと)に対し異議を申立てることができる(会社法789条1項2号、810条1項2号)ほか、会社分割を承認しなかった債権者は会社分割無効の訴えを提起することが出来ます(会社法828条2項9号、10号)。
 しかし、分割会社に残された債務の債権者(残存債権者)については、債権者保護の定めがなかったため、この点を悪用して、専ら採算部門や優良資産のみを承継させ、分割会社に負債を残して、一部の債権者の債権回収を阻害する「濫用的会社分割」の事例が増えていました。
2.濫用的会社分割に関する判例
 旧会社法下において、債権者が濫用的会社分割に対抗するため、詐害行為取消権(民法424条)を行使して、会社分割を取消し、分割会社に対し債務の請求をする例が多くありました。
 詐害行為取消権とは、例えば、債務者が、債権者への支払いが滞ることを認識しながら、唯一の資産である土地を家族に贈与した場合などに、債権者がその贈与の取消しを裁判所に請求して、債権回収を図る方法をいいます。詐害行為取消権は、財産権を目的としない法律行為には行使できない(民法424条2項)ため、会社分割のような組織再編について行使できるのかが問題となっていました。この点について、最高裁(最二小判平成24年10月12日民集66巻10号3311頁)は、会社分割に対して詐害行為取消の行使を認めました。
 なお、民法の詐害行為取消は、あくまで訴えた債権者と債務者間で取消の効力が認められる相対的取消であり、上記最高裁は、会社分割についても、「詐害行為取消権の行使によって新設分割を取り消したとしても、その取消しの効力は、新設分割による株式会社の設立の効力には何ら影響を及ぼすものではないというべきである」と明示的に述べています。
3.会社法改正
 この最高裁判例を受け、平成26年の会社法改正において、残存債権者に対する保護の規定が明記されました。すなわち、残存債権者は、承継会社・新設会社に対し、承継した財産の価額を限度として債務の請求が可能となりました(会社法759条4項、761条4項)。ただし、吸収分割の場合、承継会社が債権者を害することを知らなかった場合には請求することができません(会社法759条4項但書き)。
 なお、残存債権者の債務請求については、残存債権者を害することを知って会社分割をしたことを知った時から2年以内に請求(または請求の予告)をしないと時効消滅するほか、会社分割の効力発生日から20年の除斥期間が存在します。

対応策

設問の場合、甲事業がまったくの不採算部門であり、会社分割がA社の残存債権者を害することを知りながら行われた場合、すなわち債権者の債権回収が滞ることを認識しながら行われた場合には、B社は、A社の残存債権者から債務の請求をされる可能性が高いといえ、会社分割によって簡単に不採算部門だけを切り離すことはできません。この場合、甲事業については私的整理等、他の手段によって事業の立て直しを図ることを検討すべきでしょう。

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