法律Q&A

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失効間近の年休を時季変更できるか?

護士 中村 博(ロア・ユナイテッド法律事務所)
2003.09.02

当社では、毎年4月1日に年次有給休暇を付与しています。年休は2年間で失効しますので、毎年3月になると、前年度に付与した残りの年休の残りを消化しようとする者が少なくありません。ところが、3月は年度末の繁忙期にあたり、一斉に休まれると業務への支障が懸念されます。このような場合に限って、4月以降(できれば夏頃)に時季変更したいのですが、可能でしょうか。

業務への支障が労基法39条4項但書の「事業の正常な運営を妨げる場合」に該当すれば、時季変更は許される余地がありますが、年休指定権を行使した全員に対して行使することは無理でしょう。

1 年休権と時季指定権
  労働者の年次有給休暇権(以下、年休権と言います)は、6ヶ月間継続勤務し全労働日の8割以上を出勤することにより、当該労働者に法律上当然に発生します(労基法39条1項)。

  そして、一定日数の年休権を取得した労働者が、年休日についての就労義務の消滅と法所定の賃金請求権の取得という年休権の効果を受ける為には、時季指定権を行使する必要があります。

  時季指定権とは、労働者が取得した年休権を具体化する為に法が付与した形成権であり(労基法34条本文)、年休の特定方法(手続)と言えます。

 時季とは、「季節と具体的時期」の双方を含む概念であり、労基法は、時季指定手続として、労働者が年休を取りたい季節をまず指定した上使用者との調整により具体的時期の決定に至る場合と、労働者が最初から年休の具体的時期を指定してしまう場合との双方の場合を想定しています。

2 時季変更権とその限界について
時季変更権とは、労働者の時季指定権に対して使用者が行使する権利であり、時季指定権の効果発生を阻止するものです。時季指定権の行使により、使用者側に「事業の正常な運営を妨げる」ような事情(労基法34条4項但書)が認められる場合にしか行使が認められておりません。判例はこの点、「その企業の規模、有給休暇請求権者の職場における配置、その担当する作業の内容性質、作業の繁閑、代行者の難易、時季を同じくして有給休暇を請求する者の人数等の諸般の事情を考慮して制度の趣旨に反しないよう合理的に決すべきもの」と判断しています(東亜紡織事件・大阪地判昭和33.4.10判時149-23)。

この時季変更事由である「事業の正常な運営を妨げる場合」にあたる為には、当該労働者の年休取得日の労働が、その者の担当業務を含む相当な担当の業務の運営にとって不可欠であり、かつ代替要員の確保も困難であることが必要です。言いかえれば、業務運営に不可欠な者からの年休請求であっても、使用者が代替要員の確保の努力もしないまま直ちに時季変更権を行使することは許されません(横手統制電話中継所事件・最一小判昭和62.2.19労判493-6)し、代替要員の確保は、単位となる業務の組織及びそれと密接に関連する業務組織の範囲で努力されるべきで(電電公社関東電気通信局事件・最三小判平成元.7.4 民集43-7-767)、人員不足で代替要員の確保が常に困難という状況であれば、年休権の保障の趣旨から時季変更事由の存在は認められないのです。

更に、特定の労働日について複数の労働者の時季指定が競合し、その一部の者について時季変更権を行使せざるを得ない場合には、どの者につきそれを行使するかは使用者側の合理的な裁量に委ねられます(津山郵便局事件・岡山地判昭和55.11.26労民31-6-1143)。

3 結論
 以上を踏まえますと、会社の繁忙期である3月に多数の従業員が一斉に年休を取得すれば、代替要員の確保も困難となり易いことは明らかといえ、会社としては、残りの従業員で事業の正常な運営を継続することができるか否かを十分に検討した上で、不可能であれば、労基法39条4項但書により、時季変更権を行使することは可能でしょう。

  しかしながら、その際には、年休請求者全員に対して時季変更権を行使することはできず、代替要員の確保の見地から年休を取得しても事業の正常な運営を継続することができる年休請求者に対しては、会社としては年休所得を認めざるを得ないでしょう。

  もし、この会社が人員不足の為代替要員の確保が常に困難という事情があれば、会社は時季変更権を行使することができず、年休請求全員の年休取得を認めざるを得なくなります。

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