法律Q&A

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育児短時間勤務を理由とする精皆勤手当の不支給は可能か?

弁護士 小林 昌弘(ロア・ユナイテッド法律事務所)
2003.08.20

育児による短時間勤務者について、時短分の賃金をカットすることは問題ないと思いますが、精勤手当を不支給とすることは問題ないでしょうか。不支給とする旨を本人に伝えたところ、休まず出勤しており、時短勤務とはいえ法律(育休法)上の手続きにのっとったもので、通常通り精勤したものととして取り扱うのが当然と主張するのですが、いかがでしょうか。

精勤手当の額や不支給の範囲にも影響されますが、育児時短勤務の取得を実質的に抑制・萎縮させる程度に至らない範囲の不支給・減額であれば、可能であると解されます。

1 時短分の賃金カットの可否
育児による短時間勤務者(育児・介護休業法19条1項、同規則34条)おける時短分については、労働契約・労働協約・就業規則等に定めのない限り、いわゆるノーワーク・ノーペイの原則により無給であると解されていますので、時短分の賃金をカットする(というよりは支給しないと言った方が正確でしょう)ことは問題ありません。
2 精勤手当を不支給とすることの可否
 では、精皆勤手当を不支給とすることは可能でしょうか。
 「精(皆)勤手当」というものの位置付けないし性格にもよりますが、通常は、いわゆる報奨金的なものであることが多いのではないでしょうか。
 ご質問のケースにずばり当てはまる判例は見当たりませんでしたので、以下、参考となる判例の考え方をベースに推論してみたいと思います。

(1)時短分が無給とされている場合
 ご質問の中にもありましたように、育児短時間労働の場合の時短分については、無給とされるのが通常であろうと思われますので、まず時短分が無給の場合を考えてみましょう。

 この点については、生理休暇に関する最高裁判例が参考になるでしょう。最高裁は、生理休暇(改正前労基法67条(現68条))に関し、[1]労働契約・労働協約・就業規則等に定めのない限り無給であることを前提とした上で、[2]生理休暇の取得が欠勤扱いとされ、経済的利益を得られない結果となる措置・制度を設けたときには、上記措置・制度の趣旨、目的、労働者が失う経済的利益の程度、生理休暇の取得に対する事実上の抑止力の強弱等、諸般の事情を総合して、生理休暇の取得を著しく困難にし、同法が女子労働者の保護を目的として生理休暇について特に規定を設けた趣旨を失わせるものと認められるものでない限り違法ではないとし、[3]精皆勤手当の算定に当たり生理休暇取得日数を出勤不足日数に算入することも違法とならない場合があることを認めました(エヌ・ビー・シー工業事件―最3小判昭60・7・16民集39-5-1023)。

 この最高裁の判断を前提にすれば、ご質問のケースでも時短分については出勤不足日数に算入して精皆勤手当を不支給とすることは可能であると思われます。

 ただし、ご質問のケースは、上記最高裁のケースである「休暇」とは異なり、あくまでも「勤務時間の短縮(時短)」に過ぎませんので、時短措置のあった日を丸1日の休暇と同様に取扱うことは、労働者が失う経済的利益の程度が高く、時短措置の取得に対する抑止力が強く、育児時短措置の規定を設けた趣旨を失わせるものとして、違法とされる可能性があるでしょう。

 したがって、慎重を期すなら、時短分の合計を日数に引き直して出勤不足日数に算入するという方法が公正であり、リスクも少ないのではないでしょうか。

(2) 時短分が有給とされている場合

 ご質問のケースではありませんが、就業規則等により時短分が有給とされている場合もあり得るでしょうから、この場合についても考えてみましょう。

 この点については、年次有給休暇(年休)に関する最高裁判例が参考になるでしょう。最高裁は、年休に関し、上記生理休暇に関するのとほぼ同様の判断基準を用いた上で(上記判例の文章中の「生理休暇」を「年休」に、「労基法67条(現68条)」を「労基法39条」に、「女子労働者」を「労働者」に置換えて読んでみて下さい)、賃上げ対象者から年休等の取得による稼働率80%以下の者を除外したこと(日本シェーリング事件―最1小判平1・12・14民集43-12-1895)や、賞与の算出において年休取得日を欠勤扱いすること(エス・ウント・エー事件―最3小判平4・2・18労判609-13)は違法であるが、月ごとの勤務予定表を作成した後に年休を取得した者について皆勤手当を全部又は一部を支給しないとすることは違法ではない(沼津交通事件―最2小判平5・6・25民集47-6-4585)と判断しています。

 これらの最高裁の判断を前提にすれば、前述の時短分が無給の場合に比較すれば、時短分が有給である場合には、出勤不足日数に算入して精皆勤手当を不支給とすることは、時短措置取得により労働者が失う経済的利益の程度は相対的に少なく、ひいては、精皆勤手当不支給による時短措置取得に対する抑止力・萎縮効果も限定されるところから、時短分が無給である場合に比べて認められる可能性は高くなるものと思われます。

(3)育児介護休業法の改正の動きとの関係
 なお、現在、厚生労働省は、「『育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律』の一部を改正する法律案」として、「育児休業や介護休業の申出や取得を理由とする事業主による不利益な取扱いを禁止する」ことを定めようとしています(平成13年2月20日閣議決定)が、ここでの育児時短への同様な規制が今のところは立法化されようとしていないということも、上記のような取扱いの、少なくとも当面の妥当性を裏付けるものでしょう。

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