法律Q&A

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地域手当を半年ごとにまとめて支給すると割増賃金の算定基礎から除外できるか?

弁護士 村林 俊行(ロア・ユナイテッド法律事務所)
2003.08.20

当社では都市ごとの物価格差を勘案して地域手当を設定していますが、このほど賃金制度の改定に伴い、同手当の一部を基本給に組み入れることにし、残りの部分は賞与時に半年分をまとめて支給することを検討しています。こうした場合、地域手当の支給について、単に1ヶ月ごとの支給を6ヶ月分まとめて行うとすると、同手当は割増賃金の算定基礎に算入しなければ労基法違反になるのでしょうか?

割増賃金の算定基礎に算入しなくとも労基法違反とはなりません。

1 時間外・休日・深夜労働の概念
(1) 時間外労働の概念
 労働基準法における労働時間は、休憩時間を除いた実労働時間を意味します(労基法第32条1項、2項)。また、法定労働時間とは、労働基準法第32条1項及び2項により規制された1週間及び1日の最長労働時間を意味します。時間外労働とは、法定労働時間を超える労働を意味します。従って、例えば、使用者と労働者との間における労働契約等において定められた所定労働時間が7時間であるが9時間労働した場合についていうならば、[1]7時間を超え法定労働時間である8時間までの部分の労働は時間外労働にはあたりませんが(いわゆる「法内残業」)、[2]法定労働時間8時間を超えて9時間までの部分の労働は時間外労働となります(いわゆる「法外残業」)。

(2) 休日労働の概念

 使用者は、労働者に対して、毎週少なくとも1回の休日を与えなければならず(労基法第35条1項)、4週間を通じて4日以上の休日を与えなければなりません(労基法第35条2項)。この労基法により使用者が労働者に与えることを義務づけられた休日を法定休日といい、実際の使用者と労働者との間における労働契約等において定められた休日のうち法定休日に付加して与えられる休日である法定外休日と区別されます。そして、休日労働とは、これら休日における労働のうち法定休日における労働を意味します。

(3) 深夜労働の概念

 深夜労働とは、原則として午後10時から午前5時までの間における労働を意味します(労基法第37条3項)。

2 時間外・休日・深夜労働の賃金に関する割増率の基準
 時間外労働においては、使用者は、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算金額の25パーセント以上の率で計算した割増賃金を支払わなければなりません(労基法第37条1項、割増率令)。

 また、休日労働においては、使用者は、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算金額の35パーセント以上の率で計算した割増賃金を支払わなければなりません(労基法第37条1項、割増率令)。

 さらに、深夜労働においては、使用者は、通常の労働時間の賃金の計算金額の25パーセント以上の率で計算した割増賃金を支払わなければなりません(労基法第37条3項)。

3 割増賃金算定の基礎から除外される賃金
 労働基準法及び労基法施行規則においては、以上に述べました割増賃金算定の基礎から除外される賃金として、まず「家族手当」「通勤手当」「別居手当」「子女教育手当」「住宅手当」(平成11年3月の省令改正によって追加)を規定しています(労基法第37条4項、労基規21条1乃至3号)。これらの手当が割増賃金算定の基礎から除外されるのは、同一時間の時間外労働に対する割増賃金額が労働の量や内容とは無関係な労働者の個人的事情により左右されるのは不都合と考えられたからです。そして、これらの手当に該当するかどうかは、名称の如何にかかわらず実質的に判断されることになります(昭22・9・13発基17号)。

 次に、「臨時に支払われた賃金」が割増賃金算定の基礎から除外されています(労基規21条4号)。この賃金が割増賃金算定の基礎から除外されるのは、通常の労働時間又は労働日の賃金とはいえないからです。

 最後に、「1箇月を超える期間ごとに支払われる賃金」が割増賃金算定の基礎から除外されています(労基規21条5号)。この賃金が割増賃金算定の基礎から除外されるのは、計算技術上、割増賃金の基礎への算入が困難であるためです。

 この点貴社においては、都市ごとの物価格差を勘案して地域手当を支給されておりますが、同手当の1部のみを基本給に組み入れ、残部については賞与時に半年分を支給しているということなので、割増賃金の算定基礎との関係でいえば、賞与時に支給される同手当の残部は「1箇月を超える期間ごとに支払われる賃金」に該当するかどうかが問題となります。

 確かに、前述の通り「1箇月を超える期間ごとに支払われる賃金」が割増賃金算定の基礎から除外されるのは、計算技術上、割増賃金の基礎への算入が困難であるためであることからするならば、貴社における賞与時に支給される同手当の残部は容易に計算可能であるとして割増賃金の基礎へ算入すべきであるとの批判はあるかもしれません。

 しかし、同手当の残部については賞与時に半年分を支給しているということなので、少なくとも形式上は「1箇月を超える期間ごとに支払われる賃金」にあたるといわざるをえない以上、割増賃金の算定基礎に算入しなくとも労基法違反とはならないものと思われます。

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