法律Q&A

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年休取得中の社員を出先から呼び出した場合は通勤災害か

弁護士 岩出 誠(ロア・ユナイテッド法律事務所)
2002.10.25

業務上の必要から、年休取得中の社員を急きょ呼び出すケースが少なくありません。[1]外出していれば出先から会社に向かうことになりますが、その際に交通事故に遭った場合、通勤災害になるのでしょうか。[2]又、いったん自宅に立ち寄ってから会社に向かった場合はどうでしょうか。

原則として、[1][2]いずれの場合も、通勤災害ではなく業務上災害として処理されるものと解されます。

1.通勤災害の意義
 通勤災害とは、労働者の通勤による負傷、疾病、障害又は死亡のことをいいます(労災保険法7条1項2号)。通勤災害と認められた場合には、労災保険による保険給付の対象となることが定められていますが(療養給付・休業給付等)、業務上の災害ではありませんので、たとえばこれにかかる療養期間は、労基法19 条において、解雇禁止対象とされている「労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後三十日間」には含まれません。
2.通勤災害の認定要件
 通勤災害と認定されるためには、まず、災害を被ったのが「通勤」の途上でなければなりません。そこで労災保険法にいう「通勤」と認められるためには、「就業に関し」、「住居と就業の場所との間を」、「合理的な経路および方法により往復」していたことが認定されなければなりません。また、原則として中断や逸脱があってはならず、業務の性質を有するものも除かれます(労災保険法7条2項)。
3.一般的な年休取得中の災害
 以上の要件に照らせば、年休取得中の災害は、一般的には、就業との関連性がなく、通勤災害には当たりません。例えば、被災労働者が、当日、年休を取り休んでいたが、たまたま当日が給料支払日であったので、車で会社へ赴き、受領して帰宅中、交通事故で負傷した場合を考えてみますと、被災当日、就業した事実はなく、単に給料受領のみの目的をもって会社へ赴いたものであり、通勤と業務との密接な関係を欠くものですから通勤災害とは認められません。
4.年休中に上司の指示で出勤することになった場合は通勤途上か
 上の3の場合と異なり、質問の場合、業務上の必要から、年休取得中の社員が上司の指示に従い、急きょ会社に呼び出された訳ですので、結局、年休が取り消され、労働日として就労することになる訳ですから、一見すると、[1]の出先からの場合には、「住居と就業の場所との間を」との要件に疑問がありますが、[2]の場合は、「合理的な経路および方法により往復」にて会社に向かっている際の交通事故である限り、通勤災害で処理されても不思議はないように思われます。

 しかし、通達は、質問のような場合の処理につき、通勤災害制度が導入された昭和48年以前から、あたかも出張中の災害と同様に(自宅から出張先に出向く途中の列車事故が業務上災害とされた昭和34.7.15基収2980号)、通勤災害ではなく、業務上の災害に当たるとしています(昭和24.1.19基収 3375号)。同通達は、休日に、鉄道の保線工夫が、自己の担当する鉄道沿線に突然事故があったため、自宅等から使用者の呼出を受けて現場にかけつける途上は、業務遂行中である、としています。

 このことは通勤災害制度が導入された際の通達においても、「従来からの取り扱いどおり、...突発的事故等による緊急用務のため、休日又は休暇中に呼出を受け予定外に緊急出勤する場合が」、上記の通勤災害に該当しない場合の「業務の性質を有するもの」(労災保険法7条2項)に当たるとして、確認されています(昭和48.11.22基発644号)。 

5.結論
 これらによれば、質問の[1]の場合は、指示に基づく「自宅等」からの会社への直行で問題なく業務上と認められるでしょう。次に、[2]の場合も、「自宅等」には当たりますが、会社に直行していないことが一応気にはなります。しかし、緊急出勤の場合にも、通勤災害の要件が満たされる場合も想定されており(前掲基発644号)、そこでの解釈が参考になります。そうとすると、会社に直行せずに自宅を経由したことが、「逸脱・中断」にあたるかが問題となり得ますが、自宅を経由した経路も合理的範囲内で、その目的も、家族を自宅に送ったり、身支度を整えたり、必要な書類を取りに戻るため等の合理的なものであれば、業務遂行性が失われることはないものと解されます。なお、上司の直行での出勤命令を無視して自宅に戻った場合には若干疑問が残りますが、上記の合理的範囲内であれば、業務性が認められるべきと解されます。但し、会社内で、程度は別として、業務命令違犯の懲戒等の問題があり得ることは別です。 

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