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賞与の支給日在籍要件を定年退職者に適用してよいか

弁護士 中村 博(ロア・ユナイテッド法律事務所)
2001.02.23

当社では賞与に関して支給日の在籍していることを支給要件とする、いわゆる゛支給日在籍要件゛を設定することを検討しています。自己都合退職者はともかく、問題は定年や会社都合で辞めた社員で、支給日に在籍していないケースですが、このような場合でも支給日在籍要件を適用しても良いものなのでしょうか。

定年退職者や会社都合退職者にも適用することは、原則として許される

1 支給日在籍要件の意義と実態

 支給日在籍要件とは、賞与を支払う場合、その査定対象期間の全部又は一部に勤務しているだけでなく、賞与の支給日に在籍していることを支払要件とするものであり、多くの会社の給与規程に盛り込まれております。

 毎月の賃金については、このような要件を支払要件として設けることが法律上許されないことは当然で、賃金支給日前に退職した者についても労働した日数分の賃金を当然支払わなければなりません。

 賞与に対してこのような支給日在籍要件が定められるのは、賞与が過去の労働に対する報償としての意味だけではなく、将来の労働に対する意欲向上や在籍日までの就労の確保の狙いが込められているからと思われます。

2 支給日在籍要件の有効性について

 裁判所は、この賞与の支給日在籍要件について、古くは無効としていましたが(日本ルセル事件・東京高判昭和49・8・27労判218-58)、現在ではこれを有効とするようになっています(大和銀行事件・最一小昭和57.10.07労判399-11、カツデン事件・東京地判平成8.10.29労経速 1639-3、日本テレコム事件・東京地判平成8.9.27労判707-74、須賀工業事件・東京地判平成12.2.14労判780-9)。これに対し、有力学説は、退職日を自ら選択できる自発的退職の場合は有効としますが、会社都合の整理解雇や定年の場合には公序良俗違反により無効であり、勤務期間に対応した賞与請求権があるとしています(菅野和夫「労働法」第5版補正版213頁)。しかし、現在までの多くの裁判例は、この学説のような区分を意識することなく支給日在籍要件を有効としてい.るようです(定年退職の場合にも有効としたカツデン事件・前掲)。しかし、判例も、賞与の支給日が、例年より大幅に遅れたような場合には、この支給日在籍要件は適用されないという例外を認めています(ニプロ医工事件・最三小昭和60・3・12労経速1226-25、須賀工業事件・前掲)。つまり、判例は、就業規則や労働協約上の支給日在籍要件の存在という形式的要件だけでなく、それを支える労使慣行や労働組合の対応等の実質的要件も加味して判断しています。

 なお、以上のことは、賞与の支払基準(例えば、基本給の何カ月分等)などが明確になっていることが前提で、判例も、賞与について、「定期賞与及び臨時給与は、支給の都度、細部を決めて支給する」との定め以外には就業規則に定めがなく、支給の都度組合と金額、算出基準、支給者の範囲等支給についての具体的な協定がなされない限り、賞与等の具体的請求権は発生せず、その協定に懲戒解雇者に対する支給について定められていない場合には、懲戒解雇者に賞与等を支給しなくてもよいとしています(ヤマト科学事件・東京高判昭和59・9・27判時1133-150)。

3 結論

 以上を踏まえますと、支給日在籍要件を就業規則や給与規程に設けて、これを定年退職者や会社都合退職者にも適用することは、原則として許されると考えてよいでしょう。

 しかし、賞与の支払基準が明確に定められておらず、労働慣行としてもそのような支払い基準が確立していないような場合や支給日が予め定められていた日より大幅に遅れたりした場合等は、支給日在籍要件の有効性自体に問題が生じてきますので、定年退職者や会社都合退職者に適用することは、原則として控えた方がよいでしょう。

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