法律Q&A

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永年勤続表彰において育児・介護休業期間を除くことは可能か?

弁護士 岩出 誠(ロア・ユナイテッド法律事務所)
2003.10.31

当社では現在,永年勤続表彰規程の見直しをしていますが,その期間の算定に関するお尋ねです。育児休業や介護休業をした期間について,永年勤続表彰の算定期間から除外することを検討しています。法的に問題はないでしょうか。 (香川県 G社)

育児介護休業法は、育児休業及び介護休業のいずれの休業取得を理由とする不利益取り扱いも禁止していますが、現に勤務した日数を考慮する場合に、休業した期間分を日割りで算定対象期間から控除すること等専ら休業期間のみを働かなかったものとして取り扱うこと自体は、不利益な取扱いには該当しません。

1 育児・介護休業法による不利益取扱い禁止
 育児・介護休業法は、先ず、育児休業につき、「事業主は、労働者が育児休業申出をし、又は育児休業をしたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない」と定め(10条)、更に、これを、介護休業についても、「第10条の規定は、介護休業申出及び介護休業について準用する」(16条)としています。

 育児・介護休業については、従前、いずれも、各休業の申出をし、又は、各休業したこと(以下、育児・介護休業等という)を理由とする解雇禁止のみが定められていました。しかし、一部の企業において、様々な、不利益措置により、各休業の取得が妨げられ、その普及が進まない中で、少子高齢化の深刻化に対応して、平成13年の同法の改正により、解雇以外の不利益取扱いも禁止されることになりました。

2 育児・介護指針における不利益取扱い禁止の内容
 育児・介護休業等を理由として禁止される不利益取扱い禁止の範囲・内容に関しては、「子の養育又は家族の介護を行い、又は行うこととなる労働者の職業生活と家庭生活との両立が図られるようにするために事業主が講ずべき措置に関する指針」(平成14年厚生労働省告示第13号。以下、育児・介護指針といいます)が厚労省の判断を示し、これに沿った指導がなされています。
 即ち、育児・介護指針においては、「三 法第10条及び第16条の規定による育児休業又は介護休業の申出又は取得を理由とする解雇その他不利益な取扱いの禁止に適切に対処するに当たっての事項」として、先ず、「育児休業又は介護休業の申出又は取得をした労働者の雇用管理に当たっては、次の事項に留意すること。

 (一)法第10条及び第16条の規定により禁止される解雇その他不利益な取扱いは、労働者が育児休業又は介護休業の申出又は取得をしたこととの間に因果関係がある行為であること。

 (二)解雇その他不利益な取扱いとなる行為には、例えば、次に掲げるものが該当すること。 

 イ 解雇すること。

 ロ 退職又は正社員をパートタイム労働者等の非正規社員とするような労働契約内容の変更の強要を行うこと。

 ハ 自宅待機を命ずること。

 ニ 降格させること。

 ホ 減給をし、又は賞与等において不利益な算定を行うこと。

 ヘ 不利益な配置の変更を行うこと。

 ト 就業環境を害すること。

を指摘しています。

 しかし、同指針は、更に、これらの適用に当たっては、「(三)解雇その他不利益な取扱いに該当するか否かについては、次の事項を勘案して判断すること」として、実質的に不利益取扱いに該当するか否かの判断基準を示しています。即ち、「イ 勧奨退職や正社員をパートタイム労働者等の非正規社員とするような労働契約内容の変更は、労働者の表面上の同意を得ていたとしても、これが労働者の真意に基づくものでないと認められる場合には、(二)ロの『退職又は正社員をパートタイム労働者等の非正規社員とするような労働契約内容の変更の強要を行うこと』に該当すること。

 ロ 事業主が、休業終了予定日を超えて休業することを労働者に強要することは、
(二)ハの『自宅待機』に該当すること。

 ハ 休業期間中に賃金を支払わないこと、退職金や賞与の算定に当たり現に勤務した日

数を考慮する場合に休業した期間分は日割りで算定対象期間から控除すること等専ら休業期間は働かなかったものとして取り扱うことは、不利益な取扱いには該当しないが、休業期間を超えて働かなかったものとして取り扱うことは、(二)ホの『不利益な算定』に該当すること。

 ニ 配置の変更が不利益な取扱いに該当するか否かについては、配置の変更前後の賃金その他の労働条件、通勤事情、当人の将来に及ぼす影響等諸般の事情について総合的に比較考量の上、判断すべきものであるが、例えば、通常の人事異動のルールからは十分に説明できない職務又は就業の場所の変更を行うことにより、当該労働者に相当程度経済的又は精神的な不利益を生じさせることは、(二)ヘの『不利益な配置の変更』に該当すること。ホ 業務に従事させない、専ら雑務に従事させる等の行為は、(二)トの『就業環境を害すること』に該当すること。」と。

3 永年勤続表彰の算定期間との関係
 以上の育児・介護指針によれば、先ず、永年勤続表彰上の不利益自体が、形式的に、上記(三)の例示事項に直接は該当しないとも言えます。仮に、上記、(三)の「ホ 賞与等において不利益な算定」や、同「ト就業環境を害すること。」に該当したとしても、同(四)の判断基準ハに照らし、適法と解されます。
 即ち、同ハは、明示された給与・賞与等においてすら、「算定に当たり現に勤務した日数を考慮する場合に休業した期間分は日割りで算定対象期間から控除すること等専ら休業期間は働かなかったものとして取り扱うことは、不利益な取扱いには該当しない」と明言しています。
4 結論
 従って、質問のように、「育児休業や介護休業をした期間について,永年勤続表彰の算定期間から除外すること」自体は適法なことです。但し、育児・介護等指針も指摘しているように、この休業期間に比例・按分した範囲を超えて、あるいは、全額給付の停止等をなせば、それは、「休業期間を超えて働かなかったものとして取り扱うこと」として、同指針の「(二)ホの『不利益な算定』に該当すること」となり、違法とされます。この場合、監督官庁からの指導を受け、当該労働者からの表彰給付の請求や損害賠償の請求を受けることになりかねませんので、注意して下さい。

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