法律Q&A

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賞与の支給に当たって、労働契約と就業規則のどちらが優先されるか

弁護士 石居 茜(ロア・ユナイテッド法律事務所)
2004.01.16

当社では、7月1日、12月1日の年2回、賞与を支給しています。就業規則には「賞与は支給日に在籍している場合に支給する」と定めています。さて、昨年7月から1年契約の契約社員を雇用していますが、この者との労働契約書には「賞与は年2回支給する」と明記しています。昨年の夏季賞与は、算定対象期間に勤務していないため支給しませんでした。今年の夏季賞与は、支給日に在籍していないため支給しないつもりです。その結果賞与を1回(昨年年末文のみ)しか支給しないことになってしまいますが、問題ないでしょうか。

直ちに違法とはいえないでしょうが、賞与の賃金的性格を考慮すると問題が残るとの見解もあります。

1 労働契約と就業規則の優劣関係
 常時10人以上の労働者を有する使用者は、法の定める一定事項について就業規則を作成しなければならず(労基法89条)、社員とパートタイマーのように、事業場に労務内容や待遇を大きく異にする労働者グループが存在する場合にそれぞれについて別個に就業規則を作成してもよいのですが、当該事業場の就業規則にパートタイマーや契約社員などについての特則や除外規定が設けられていない場合には、就業規則はこれら正社員以外の労働者にも適用されることになります。

 従って、設問の会社の就業規則も、特則や除外規定がない限り、同会社の契約社員にも適用されることになります。

 そして、労働基準法は、就業規則で定める基準に達しない労働契約は、その部分については無効とし、無効となった部分については就業規則に定める基準による(同法93条)と定めて、就業規則が労働契約を強行的に規律すること、すなわち就業規則が労働契約に優越することを認めています。

2 賞与の支給日在籍要件
 賞与は賃金の一種ではありますが(労基法11条)、「定期または臨時に、原則として労働者の勤務成績に応じて支給されるものであって、その支給額があらかじめ確定されていないもの」(昭22.9.3発基17号)です。従って、労働契約の内容として就業規則に定めることによって初めて労働条件となりますので(労基法89条4号)、労働条件として定めない場合には、使用者に支払い義務は生じず、原則として自由に定めることが出来ます。
 賞与支給日に在籍することを賞与の受給要件とする支給日在籍要件を就業規則に定め、この要件を満たさない者には賞与を支払わない扱いも判例上認められています(大和銀行事件・最判昭和57.10.7・労判399-11)。

 また、判例では、支給日在籍要件は、自発的退職者の事案でも適法とされ(前掲判例)、さらに、退職日を自ら選択できない定年退職者についても適法とする判例があります(カツデン事件・東京地判平成8.10.29労経速1639.3)が、自らの意思でいわば賞与の受給権を放棄した支給日前の自己都合退職とは異なり、会社の意思や会社都合の退職者(定年退職者や整理解雇者)について支給日在籍要件により賞与不支給とすることは、賞与の賃金としての性格から考えても問題が残るとの見解もあります。

3 結論
 就業規則の強行的直律的効力は、労働契約によって就業規則の労働条件を切り下げることは許されないという効果を持つものに過ぎませんので、就業規則と同様年2回の賞与を認めている設問の労働契約については、本件について就業規則の強行的直律的効力との関係では特に問題は生じないでしょう。

 そして、設問の会社の契約社員にも、特に除外規定がない場合、同社の就業規則が適用されますし、退職日を自ら選択できない定年退職者についても支給日在籍要件を適用することを認める判例があることを考慮しますと、設問のように7月から1年間雇用している契約社員に年1度しか賞与を支給しない措置が直ちに違法とはいえないでしょう。

 しかし、会社の都合によって7月から1年間雇用したという側面も否めず、他の契約社員と雇用時期によって差が出てくるのであれば望ましい措置とはいえません。

 そこで、紛争を避けるためには、賞与支給対象期間の全部又は一部について勤務したが支給日前に辞めた者については、その勤務時間などに応じて日割計算などの方法により賞与を支給する制度を明確に定めるか、就業規則の支給日在籍要件は契約社員等については除外する規定を設けるなどの措置を取ることが望ましいでしょう。

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