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社内融資を完済していない社員が行方不明になった場合の対応

弁護士 岩出 誠(ロア・ユナイテッド法律事務所)
2004.04.09

社内融資を返済中の社員が,半月ほど前から出社しなくなり,本人・家族とも連絡が取れない状態です。このままでは懲戒解雇せざるを得ないのですが,そうすると,就業規則の定めで退職金は不支給となり,残債の回収ができなくなってしまいます。融資の際には,この者の上司が保証人となっているのですが,いままで社内融資をめぐるこの種のトラブルはなく,できればこの上司にもあまり累が及ばないようにしたいと考えています。このような場合の対応について,何かよい手立てがありましたらご教示ください。(東京都 S社)

無断欠勤が直ちに懲戒解雇事由に当たるか、当たったとしても、相当か否かには問題があり、安全策としては、退職金による清算をスムースにするためにも、先ずは、民法・民訴法による「公示による意思表示」による普通解雇をすべきです。次に、回収に関しては、身元保証人が居ればその方からの回収か、労基法24 条の賃金控除協定があれば退職金からそれにより控除し、協定がなければ、仮差押・訴訟・本差押などの法的手続きを経て、回収することになります。

1 行方不明は当然に懲戒解雇か
 欠勤の原因が、雪山登山、アドベンチャー・ツアーなど危険の多いレジャーの結果や、サラ金やクレジット問題で債権者の取立から逃れるための失踪などで、従業員が事前の連絡なしに会社に来なくなり、その期間が長期に亘ることがあります。こんな場合、不慮の災難による場合のように従業員の責任によるものではないとしても、普通解雇理由があり、労基法の解雇手続を取る限り(20条)、解雇は有効とされるでしょう。更にクレ・サラ・闇金問題等による失踪のように原因が分っている場合には、従業員の責任による欠勤として懲戒解雇もできる場合もあるでしょう。しかし、原因不明の場合には、原因の如何を問わず実質的な長期の不就労を理由とする普通解雇が限度でしょう。この点、労基法20条の即時解雇に関する通達ではありますが、即時解雇のために必要な「解雇予告除外認定」の許可基準の一つとして「2週間以上正当な理由なく無断欠勤し、出勤の督促に応じない」(昭23.11.11基発1637号)ことをあげており、無断欠勤が直ちに即時解雇を許容するものではないことを指摘しており、参考とすべきでしょう。

 従って、設問の会社の就業規則も、特則や除外規定がない限り、同会社の契約社員にも適用されることになります。

 そして、労働基準法は、就業規則で定める基準に達しない労働契約は、その部分については無効とし、無効となった部分については就業規則に定める基準による(同法93条)と定めて、就業規則が労働契約を強行的に規律すること、すなわち就業規則が労働契約に優越することを認めています。

2 問題は解雇の意思表示の方法
 しかし問題は、行方不明の者に対する解雇の意思表示をどのようにしたら良いかです。設問のような行方不明の相手に対する意思表示については、従業員が未成年の場合は親権者法定代理人である両親に対して行なう方法がありますが(民法98 条)、それ以外の場合は、民法97条の2、民訴法110乃至113条による「公示による意思表示」という裁判所を用いる面倒な手続によらざるを得ないから厄介です。これは、行方不明であることの証拠を提出した上で、裁判所への掲示や官報への掲載などもある複雑な手続で、実際の手続については裁判所へ数度出向くか専門家の手に委ねらざるを得ません。実際にも、地方公務員の事案ですが、結果的に上告審で解雇・免職が有効とされましたが(兵庫県事件・最一小判平成11.7.15労判765-7)、これらの手続きが取られていなかったことを理由として解雇が無効とされた例があります(兵庫県事件・大阪高判平成 8.11.26判時1609-150)。
3 社内融資の回収方法
(1)身元保証の利用
 社内融資金の回収に関しては、身元保証人が居ればその方からの回収が図られるべきでしょう。厳密には、この際、身元保証人と社内融資の保証人となった方との間に求償関係が発生し得ますので注意がいります。

(2)退職金による充当と労基法24条の関係

 勿論、前述のように普通解雇にすれば、一定の退職金が出て、通常の場合、融資時の自己都合退職金の枠内での貸付が多く、そこから回収ができるはずであり、そうとすれば、各保証人に負担をかけることはなくなります。ところが、ここで留意すべきは、労基法24条1項による賃金との相殺禁止が、この場合にも問題となることです。同項に基づく賃金控除協定があれば退職金から控除することはできます。ところが同協定がなければ、使用者からの一方的な相殺はできないところから、会社自体又は保証人らが、退職金請求権を仮差押し、貸金又は求償請求の訴訟を提起し、判決に基づき本差押などの法的手続きを経て、ようやく回収できることになります。

4 紛争予防策
 設問のような事態を防ぐためには、第一には、前述の社内貸付金の退職金による相殺を認める賃金控除協定の締結と、そのような控除を認める規程の整備です。できれば、このような行方不明者には、クレサラ債権者などが控えていることが多く、それらの業者からの仮(本)差押などへの対策も検討されるべきということです。企業が確実に優先的に社内融資金を退職金から回収するためには、前述の控除に関する協定や規程の整備だけでは足りず、企業の貸付債権を被担保債権とする質権を社員の退職金請求権に設定しておくことなどが工夫されるべきです。第二には、一定期間勤務しない場合は当然に自然退職とする規定を就業規則においておくことです。

 なお以上の準備なく迷惑をかける行方不明者が出た場合にも、実際には、親族や身元保証人が居る場合の実際の処理としては、親族から、仮に本人から異議が出た場合には親族らが責任をもって処理する旨の誓約書付きで、従業員の代理人として退職届を提出し、退職金の充当等を行うような方法が取られているようです。もちろん法的な効果には問題があることを知っておかなければなりませんが、緊急の措置としてはやむを得ないでしょう。

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