法律Q&A

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給与の過誤払いがあった場合、返還を求めることは可能か

弁護士 小林 昌弘(ロア・ユナイテッド法律事務所)
2001.05.08

先日、ある社員に対し給与を過誤払いしていたことが判明しました。2年間にわたり約30万円を上乗せ支給していたものです。本人に返還を求めたところ、「会社の責任において算定、支給されたもので、いったん支払いを受けた以上、返す義務はない」と応じません。そこでお尋ねですが、
[1]過払い部分について返還させることはできますか。
[2]給与支給時、本人に明細書等を確認させ、誤払いがないかの点検、および誤払いが判明した場合の申告を義務付けることはできますか。

過払い部分を返還させること、および過払いの点検・申告を義務付けることは可能

[1] 過払い部分の返還について
〔1〕返還請求の可否
 賃金が過払いされた場合には、使用者から過払いを受けた本人に対する不当利得返還請求権が生じます。使用者や給与担当者に過失がある場合でも構わないと解されています。

(1)本人が過払いを受けた事実を知らなかった(善意)場合

 この場合には、過払い部分の30万円だけを返還させることができます(民法703条)。知らなかったことについて本人に過失がある場合も含むと解されています。

(2)本人が過払いの事実を知っていた(悪意)場合
 この場合には、過払い部分の30万円に利息を付けて返還させることができます(民法704条前段)。利息は民法上は年5%とされています(民法404条)。ただ、不当利得は個々の過払い部分ごとに生じるものなので、例えば、毎月の過払い額ごとに、それぞれの支給時からの利息を計算することになるでしょう。

 また、実際にはあまり起こらないかと思いますが、過払いによって使用者に損害が生じた場合には、過払い部分及び利息の返還の他に損害賠償をさせることができる場合があります(民法704条後段)。

(3)消滅時効
 労働者の使用者に対する賃金請求権(退職金請求権を除く)の消滅時効期間は2年です(労働基準法115条)が、使用者から労働者に対する過払い部分についての不当利得返還請求権の消滅時効期間は原則として10年となる(民法167条1項)と考えられます。

 ただし、本人が過払いの事実を知っていた(悪意)場合の損害賠償請求権の消滅時効期間は、場合により3年または20年になります(民法724条)。

(4)給与担当者に損害賠償をさせることの可否
 給与担当者に故意または過失がある場合には、過払い部分等につき損害賠償をさせることができる場合があります(民法415条または709条)。

 ただし、これによって損害が補填されれば、その分、過払いを受けた本人に対して返還ないし損害賠償をさせることができる額も減ることになるでしょう。

〔2〕賃金からの控除の可否
 では、返還させずに、今後支払う賃金から控除することは認められるでしょうか。

(1)賃金全額払いの原則
 労働者の経済生活の安定を確保する目的から、賃金は全額払いが原則とされています(労働基準法24条1項本文)ので、賃金から過払い部分を控除することはできないのが原則です。

(2)労使協定がある場合の例外

 ただし、過払い部分を賃金から控除するという内容の労使協定がある場合には、例外として控除が認められます(労働基準法24条1項ただし書き)。

(3)本人の経済生活の安定を害さない場合の例外

 また、労使協定がない場合でも、控除の「時期、方法、金額等」から見て「労働者の経済生活の安定をおびやかすおそれのない場合」には、控除することができます(福島県教組事件(最判昭44・12・18民集23-12-2495))。

 具体的には、控除が「過払いのあった時期と賃金の清算調整の実を失わない程度に合理的に接着した時期においてされ、また、あらかじめ労働者にそのことが告知されるとか、その額が多額にわたらない」ような場合です(上記判例)。結局、ケースバイケースで決することになるでしょう。

 ちなみに、時期について述べますと、先ほど、不当利得返還請求権の消滅時効は10年が原則であるとご説明しましたが、判例上、10月及び12月に支給された給与についての過払い部分を翌年の3月に支給する給与から減額した事例につき、減額措置が遅れた主たる原因が、給与担当者が減額自体をなすか否かあるいはその法律上の可否、根拠等の調査研究に相当の日時を費し、あるいは他の所管事務の処理に忙殺されていた点にあったことから、減額措置は許されないとしたものもあり(群馬県教組事件(最判昭45・10・30民集24-11-1693))、控除をする場合には迅速に行うことが大切でしょう。

(4)本人の同意がある場合の例外
 もっとも、使用者が過払いを受けた本人の自由な意思に基づいてされたものであると認めるに足りる合理的理由が客観的に存在する場合には、相殺は全額払いの原則に反しないとする判例があり(日新製鋼事件(最判平2・11・16民集44-8-1085))、この場合には上記(3)のような制限なしに控除が認められるとも思えますが、慎重を期すべきでしょう。

[2] 過払いの点検・申告の義務付けについて
 過払いの点検及び申告は、労働者の一般的義務としてもともと義務付けられているとも考えられますし、業務命令の一環とも考えられますので、その義務を改めて文書等で確認するという意味で義務付けることは差し支えないでしょう。

 ただし、これらの義務に違反した場合に懲罰等を設ける場合には、労働者に不利益を課すことになりますので、就業規則に定めることが必要となるでしょう。

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