法律Q&A

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国民の祝日に社員を休ませる必要はあるか

弁護士 松本 貴志(ロア・ユナイテッド法律事務所)
2022年4月

当社では,毎週土日を所定休日としていますが,「国民の祝日」は休みとしていません。このほど,ある社員から「私が調べたところ,祝日法によれば,国民の祝日は『休日とする』旨定められています。それにもかかわらず,祝日に仕事をしなければならないのはおかしいのではないでしょうか。法律でうたわれている以上,会社は,祝日を休みにする義務があるのではないでしょうか」との指摘を受けました。会社として国民の祝日を休みにする必要はあるのでしょうか。(山口県 A社)

祝日法は、企業に対して労働者への休日付与義務を課すものではなく、労働基準法(以下、労基法という)上の法定休日とも関係がありません。そのため、各企業の就業規則等で「国民の祝日」を休日として定めていない場合には、1週1日または4週4日の休日を与える限り、「国民の祝日」に休日を与えなくとも労基法違反にも労働契約法上の違反にもなりません。

1.労基法における休日付与義務
 労基法35条1項は、使用者に対して、毎週1日の休日を付与する義務を課しています。また、同条第2項によって、4週間を通じて4日の休日を与える変形週休制も認められ、変形週休制をとる場合には、就業規則において単位となる4週間の起算日を定める必要があります。
2.法定休日と法定外休日
 休日とは、就業規則や雇用契約書に定められた、労働義務がない日のことをいいます。休日には、法定休日と法定外休日の2種類があります。
 法定休日とは、上記のような労基法35条に基づいて与えられる休日をいいます。企業は、法定休日に労働者を労働させる場合には、当該事業場の過半数組合又は過半数代表者との間で労使協定を締結しなければなりません(労基法第36条1項)
 他方、法定外休日とは、法律の定めによらず、会社が任意に与えている休日のことをいいます。実務上は、週40時間制への対応のため、週休2日制をとっている企業が多いでしょう。法定外休日については、労基法36条の労使協定の締結など労基法上の休日規定の制限はありません。
 また、法定休日に労働した場合には3割5分の割増賃金を支払う必要があるのに対し、法定外休日の労働にはその必要はなく、週の法定労働時間を超える場合に2割5分の割増賃金を支払えば足ります。逆に、法定休日と法定外休日を区分せず、休日労働割増賃金規定にも区別がない場合には、法定休日労働と法定外休日の両方の労働に対して同じ割増賃金を支払う義務を負うことになります。
 その観点からも、いずれが法定休日にあたるかを就業規則などにより明示することが望ましいとされていますが(平6.1.4基発1号)、実際上は両者を同様に取扱う場合も少なくありません。設問の場合では、毎週土日が所定休日となっていますが、もし日曜日を法定休日と規定すれば、他の休日は法定外休日ということになります。
3.祝日法の法的効果について(国民の祝日を労働日とできるか)
 国民の祝日に関する法律(以下、祝日法という)第3条1項は、「国民の祝日は休日」と定めていますが、これは法的にはどのような意味があるのでしょうか。
 祝日法により休日とされた日(「国民の祝日」のほか、いわゆる振替休日や、その前日及び翌日が「国民の祝日」である日も含まれます。)については、各法令により、国の行政機関の休日とすること(行政機関の休日に関する法律第1条第1項第2号)、条例において地方公共団体の休日とすること(地方自治法第4条の2第1項第2号)、公立学校の休業日とすること(学校教育法施行規則第61条第1号等)、死刑を執行しないこと(刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律第178条第2項)、期間の末日がその日に当たるときは原則としてその翌日を期間満了日とすること(民法第142条)等が定められています。なお、「天皇の即位の日及び即位礼正殿の儀の行われる日を休日とする法律」のように、特定の日を休日とする法律においては、その日を祝日法に規定する休日として扱う(=その日についても上記の効果が発生する)旨を定める規定が置かれるのが一般的です。
 一方、国民の祝日に関する法律第3条1項は、民間企業に対して、国民の祝日を所定休日として定めることを強制するものではありません。民間企業が法律で休日とされた日に休業するかどうかは、その企業の経営判断に委ねられています。民間企業に対しては、銀行法第15条第1項のように「銀行の休日は、日曜日その他政令で定める日に限る」として休業することができる日を制限する法令はありますが、法律で休日とされた日の休業を義務付ける法令は見当たりませんし、労働者に与えなければならないこととされている労働基準法上の「休日」も、労働者一般ではなく個々の労働者が労働義務から解放される日を意味するものであり、法律で休日とされた日と一致する必要はありません。例えば、デパートやテーマパークなどにとっては、むしろ世間一般の休日が稼ぎ時であるので、祝日法によって定められた休日を民間企業においても一律に休日とすることを義務付けることは、酷だといえます(以上について、参議院法制局HP参照)。通達も、祝日法は、国民の祝日に休ませることを強制的に義務づけするのでなく、労基法上の毎週1日又は4週4日の休日を与えている限り、国民の祝日に休ませなくても労基法違反とはならないとしています(昭41.7.14基発739号)。
 ただし、同通達は、国民の祝日の趣旨及び労働時間短縮の見地から、労使間の話合いによって、国民の祝日に労働者を休ませ、その場合に賃金の減収を生じないようにすることが望ましいことはいうまでもないとしています(前掲)。
 実務でも国民の祝・休日を休日とする場合が多くみられますが、これは各企業において就業規則等において国民の祝日を法定外休日として定めた労働契約法上の効力によるものであり、そのような定めがなければ、企業に労働者への祝日法に基づく休日付与義務はなく、祝日も常時出勤・労働することとしても問題ありません。したがって、労基法の世界では、あくまでも労基法上の休日付与義務に沿って休日を与えている限りは、労基法違反とはなりません。また、設問の場合は、週休2日制をとることにより、労働時間短縮を図っていることから、あえて国民の祝日を休日にする必要はないと考えられます。
 ただし、多くの大企業では、祝日法の定める通りではなくても、国民の祝日数の法定外休日を与えていますので、実際には、企業体力を考えながらも、良き人材を取るための求人対策としては、同様の休日付与の努力が必要でしょう。
4.国民の祝日を法定外休日とした場合の割増賃金の支払義務
 上記設問の場合と異なり、国民の祝日を休日に設定している場合でも、国民の休日は週1回または4週4日という法定休日以外の休日(つまり、法定外休日)なので、その日に出勤させたとしても法律上は3割5分の割増賃金を支払う必要はなく、週の法定労働時間を超える場合に限り、2割5分の割増賃金を支払う必要があります。つまり、祝日に出勤させた場合でも、週の法定労働時間を超えない限り、法律上割増賃金を支払う必要はありません。
 もっとも、企業によっては、就業規則において、法定外休日に働いたときでも、休日割増賃金を支払う旨規定している場合があります。このような規定がある場合には、国民の祝日に労働させる際には、当該規定に定められた割増賃金を支払う必要があります。

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