法律Q&A

分類:

解雇日を変更した場合,解雇予告手当の算定事由発生日はいつか

弁護士 岩出 誠(ロア・ユナイテッド法律事務所)
2005.05.17

従業員を解雇することになったため,解雇予定日の30日以上前にゆとりをもって解雇予告を行いました。ところがその後,事情により解雇日を繰り上げる必要が生じたため,本人の同意を得て解雇日を繰り上げ,必要日数分の解雇予告手当を支払うことにしました。この場合,解雇予告手当を算定するうえでの算定事由発生日は,[1]初めに解雇予告の通告をした日,[2]本人の同意を得て解雇日の変更を行った日のどちらになるのでしょうか。(千葉県 C社)

同意の解釈によって決まることになります。その趣旨が初めの通告の撤回を認めた上での繰り上げの趣旨であれば[2]となり、単に解雇の効果発生日の繰り上げだけの趣旨であれば[1]となるでしょう。ただし、同意の趣旨が明らかでない場合には、従業員に有利な[2]の趣旨と解釈される場合が多いでしょう。

1 解雇の法的意味
 解雇とは、通常、使用者から労働者に対する一方的な意思表示に基づく、労働契約の終了の効果をもたらす形成権の行使であり、契約当事者の一方が相手方に行う単独行為(解約告知)であると解されています(民法627条1項等、野田進「注釈労働基準法」上巻 318頁等参照)。
2 解雇の撤回の可否
 意思表示は、相手方への到達により効果が発生します(民法98条1項)。その意味は、解雇の意思表示が相手方に到達するまではその意思表示を撤回できますが、到達後はできないことを意味しています。したがって、設問の場合も、相手方の同意なくしては、最初の解雇の効力、ここでは、最初の解雇の意思表示の 30日以上経過後の労働契約の解約の効果、つまり、労働契約の終了の効果が発生します。逆に言えば、解雇の時期を繰り上げることは、解雇予告された従業員の同意なくしては変更できないことを意味しています。
3 解雇の効果発生時期繰上げ同意の意味
(1)解雇繰上げ同意への法的枠組み
 そこで、この解雇の効果発生時期繰上げ同意の意味が問題となります。この同意自体は、解雇の効果発生時期の変更に関する合意(契約)となります。この合意には、民法等に直接触れたものはなく、法的な規制はありませんから、いわゆる契約自由の範囲内で、強行法規に抵触したり、公序良俗に反しない限り自由に設定できます(民法90条)。場合によれば、繰り上げられた時期に労働契約の終了の効果を発生させる合意解約と解されることもあるでしょう。その場合は、労働基準法上の解雇規制は受けず、解雇予告や予告手当の問題はなくなります。

(2)設問で想定される繰上げの意味

 しかし、設問での同意には、合意解約までの趣旨は含まれていないように解されます。なぜなら、使用者からは、解雇予告効果発生日繰上げ日数に応じた解雇予告手当の申出があるからです(労基法20条2項参照)。その意味で、ここでの合意は、解雇の効果発生時期を繰り上げることに主眼があり、解雇という使用者の一方的意思表示による解約という性格は消えていません。

 まず、このような繰上げの合意自体は、予告手当の清算がなされる以上、少なくとも、最初の解雇予告の日からの予告期間またはこれに応じた予告手当算出期間を短縮することがない限り、労働基準法に違反することはなく、契約自由の範囲内で、繰上げを自由に設定できます。そこで、回答で触れたとおり、解雇予告算定の始期については、その合意の趣旨が、初めの通告の撤回を認めた上での繰り上げの趣旨であれば[2]「本人の同意を得て解雇日の変更を行った日」からとなり、単に解雇の効果発生日を繰り上げるだけの趣旨であれば[1]「初めに解雇予告の通告をした日」となるでしょう。

4 結論-合理的な意思解釈による
 したがって、解雇の発生時期に関する合意内容が明示又は黙示にでも認められれば、その認定にしたがうことになります。しかし、その認定に決め手がない場合には、裁判所が契約の解釈に用いる、いわゆる合理的な意思解釈の手法によれば、通常の従業員の合理的意思を推定すると、算定期間が伸びて従業員に有利な②の趣旨と解釈される場合が多いでしょう。

 なぜならば、判例は、例えば、労働者からの退職の意思表示について典型的に現れるように、通常の民法の解釈を二重にねじ曲げてまで、強引にこれを合意解約の申込みと解して、使用者の承諾ない限りこれを撤回できるとして(白頭学院事件・大阪地判平成9.8.29労判725号40頁等、退職の意思表示の撤回を認めなかった大隈鉄工所事件・最三小判最判昭和62.9.18労判504号6頁もこの範疇内での判断となっています)、できる限り雇用関係を存続させる方向、つまり、労働者に有利な方向で、意思解釈をする傾向にあることからも推論できるからです。

 なお、「通常の民法の解釈を二重にねじ曲げて」という意味は、第一に、退職の意思表示も単純に考えれば、前述の使用者の解雇と同じ労働契約の解約告知であり、相手方の承諾なしに終了の効果が発生するはずなのに、前述の合理的意思解釈により、原則は、使用者の承諾を求める合意解約の申し込みと解する点です。第二は、この申込みと解釈したとしても、通常の申込みであれば、前述の意思表示同様、相手方に到達前のみしか撤回できないにも拘わらず(民法521条以下参照)、相手方の承諾(受理)ない限り、撤回できるとしている点です。

5 紛争予防
 設問のような問題を防ぐためには、同意取得の際に、明確に前述の同意の趣旨がいずれであるかを文書で確認しておくことです。

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