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部下の不祥事に対する上司の懲戒処分の考え方

社会保険労務士 深津 伸子(ロア・ユナイテッド法律事務所)
2004.09.24

部下が不祥事を起こした場合,直属の上司にもなんらかの懲戒処分を科すことを検討しています。部下に対する管理者責任を自覚させるのが目的ですが,その場合,部下の処分よりも軽いものとすべきか,それとも同等もしくは部下よりも重い処分でも構わないのかなど,考え方についてご教示ください。また,部下が重要な事業機密を漏えいして懲戒解雇になる場合,その上司も併せて解雇しても問題ないでしょうか。(静岡県 M社)

部下の不祥事に対する上司の懲戒処分は、就業規則に定めがあることを前提に、管理者の監督指導義務の懈怠の度合いや、同様の事例についての先例、規律違反の種類・程度その他の事情に照らし相当性を考慮して、科することが必要です。通常は、監督責任にとどまる場合行為者への制裁よりは軽減されたものとなるでしょう。しかし、部下の行為が刑事事件などにあたるような重大な違反で、会社に対して甚大な損害をもたらすような事案で、上司がかかる義務違反につき、違反行為の放置のような故意又は違反行為の阻止や発見の遅れにつき重過失がある場合などには、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当とされる余地が大きく、懲戒解雇も考えられるでしょう。

1 懲戒権の根拠
 使用者が、労働者を懲戒処分するには、どのような法的根拠に基づくのかは、古くから多くの議論がなされてきました。この問題をめぐっては、2つの学説があり、[1]就業規則に根拠規定が存しなくとも使用者は懲戒処分をなし得、同規則上の懲戒事由や手段の列挙は例示的な意味しかないとする説と[2]使用者は就業規則において懲戒の事由と手段とを明らかにし、労働者の明示又は黙示の同意を得てそれらが労働契約の内容となって初めて懲戒できるとし、同規則上の懲戒事由や手段の列挙は限定列挙だとする説があります。実際上、現在では多くの企業が就業規則上懲戒に関する規定を整備しており、裁判所もこの実態を前提として具体的な懲戒処分の有効性を、当該処分が就業規則上十分な根拠を有していたか否かの枠組みで判断しています。すなわち裁判所は、従業員の当該行為が就業規則上の懲戒事由に該当し、発動された処分の内容も就業規則によっていることを要求しています(エンジニアリングセンター事件・最二小判平成15.10.10労判861‐5)。
2 懲戒の事由
 意思表示は、相手方への到達により効果が発生します(民法98条1項)。その意味は、解雇の意思表示が相手方に到達するまではその意思表示を撤回できますが、到達後はできないことを意味しています。したがって、設問の場合も、相手方の同意なくしては、最初の解雇の効力、ここでは、最初の解雇の意思表示の 30日以上経過後の労働契約の解約の効果、つまり、労働契約の終了の効果が発生します。逆に言えば、解雇の時期を繰り上げることは、解雇予告された従業員の同意なくしては変更できないことを意味しています。

  部下の不祥事における上司の管理者責任については原則として、前述の[2]職務懈怠にあたると考えられます。要するに、限定列挙説においては、管理者責任を問う文言とまでは行かなくとも、最低限職務懈怠についての定めは就業規則に載せておくべきでしょう。

3 懲戒処分の有効要件
(1) 罪刑法定主義
 懲戒処分をするためには、前述のように理由となる事由と、これに対する懲戒の種類・程度が就業規則上明記されていなければなりません。また、このような根拠規定が設けられる以前の違反に対して遡って適用はできませんし、原則として同一の違反に対し重ねて懲戒処分を行うことはできません。

(2) 平等取扱の原則
 同じ規定に同じ程度違反した場合には、これに対する懲戒は同一種類、同一程度であるべきとされています。よって、懲戒処分は、同様の事例についての先例を踏まえてなされなければなりません。

(3)相当性の原則
 懲戒は、規律違反の種類・程度その他の事情に照らして相当なものでなければなりません。懲戒処分に対して、裁判所が処分の有効性を決める主な判断基準はこの原則なのです。要するに、多くの懲戒処分(特に懲戒解雇)が、懲戒事由に該当するとしながらも、当該行為や被処分者に関する諸般の事情が考慮され、重過ぎるとして無効とされているのです。
 以上の(1)から(3)の判断基準を要約すれば、使用者の懲戒権の行使が客観的に合理的な理由を欠き、又は社会通念上相当して是認できない場合には懲戒権の乱用として無効とされます。

(4)適正手続
 懲戒処分を行うには、適正手続の保障が要求されます。例えば就業規則上組合との協議が必要な場合はその手続が必要ですし、そのような規定が無い場合にも本人に弁明の機会を与えることが要求されています。ただし、判例の中にはこれをあまり重視しないものもあります(時事通信社事件・東京高判平11.7.19 労判765-19等)。

4 設問への適用
 以上の懲戒処分の有効要件を適用すると、仮に(1)及び(4)の要件が満たされていたとして、 (2)により、同様の事例と照らし合わせ同一種類、同一程度であること、(3)により、監督指導義務の懈怠の種類・程度その他事情に照らして相当なものでなければなりません。また、同様の事例が無い場合に、一般的な常識の範囲内での管理不充分による職務懈怠については、その職務懈怠の相当性を考慮した上で、部下の処分より減じて行われることが多いと考えられます。しかし、監督指導について、重過失や故意による職務懈怠が認められる場合には、上司の処分につき部下と同程度、或いは、理論的にはその職責に照らし、それ以上の処分を科すこともあり得るでしょう。

 例えば、そのような観点から上司の懲戒解雇が認められた例として、関西フエルトファブリック事件(大坂地裁平10.3.23判労判736-39)があります。判決は、当該営業所長が部下の横領行為に積極的に加担ないし関与したとは断定できないが、健全な常識を働かせれば部下の行為に不審の念を抱き、金銭を横領していることを知り得る情況あったこと、当該営業所長が経理関係のチェックを著しく怠ったために被害額が増大したとして、営業所長の重大な過失を認め、これが就業規則の懲戒事由「重大な過失により会社に損害を与えたとき」に該当するとして懲戒解雇を有効としました。すなわち、設問の事業機密漏えいの場合も、部下の行為が刑事事件などにあたり会社に多大な損害を与えるような場合で、さらに上司の義務違反の内容がほとんど故意に近いような重過失にあたるような場合には、懲戒解雇も考えられます。ただし、この様なケースでも、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であるかなどの観点から、解雇の有効性が判断されることとなるでしょう。

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