法律Q&A

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これまで大目にみていた行為について,懲戒処分を厳しく行っていくことは問題か

弁護士 岩出 誠(ロア・ユナイテッド法律事務所)
2004.10.08

当社はこれまで,従業員の規律にうるさくなかったのですが,コンプライアンス体制の整備を進める一環として,懲戒処分を厳しく行っていこうと考えています。例えば,資材の購入先に私的な便宜を図ってもらう,不正な談合をする,当社の機密情報を漏えいするといった行為が発覚した際には,懲戒解雇に付すことも考えています(規程上は,いずれもその旨を明記)。いままで大目にみてきたとはいえ,これらの行為は当社の服務規程に反するため,規程を厳格に適用し,処分を行っても問題ないと考えますが,いかがでしょうか。(熊本県 K社)

規程上では違法とされていても、従来黙認してきた種類の行為に対し処分を行うには、従来からの規程の運用の強化・厳格化に関する事前の充分な警告のうえ、これに違反した場合に実行するといった手続が必要となります。かかる手続をなしたうえで違反者に相当な処分をすることは可能です。ただし、規程違反への黙認が服務規程の慣行による変更のレベルまで達しているような場合には、就業規則改正手続きに準じた手続きが必要と解されています。

1 コンプライアンス体制整備の必要性
 コンプライアンス(Compliance)には一般に、"法令遵守"といった訳語があります。企業には守らなければならない法令等があり、その企業に属する企業人は、取締役から一般職員まで、それらの"法による支配"を受けることになります。一方で、金融ビッグバンに代表される規制撤廃・緩和、自由化の流れがますます加速するなかで、企業に対して経営の自己責任原則の徹底と透明性の確保が強く求められています。労働者を含めて、企業にかかわる者にとってのコンプライアンスは、違法行為の防止にとどまらず、社会規範や道徳、様々な倫理基準の追求といったものでなければなりません。すなわち、より高い次元のものが求められています。各企業の財産といえる信用にはさまざまな要素が含まれますが、それらの根底にある最も重要な要素の一つとして、コンプライアンスがあり、コンプライアンスの不徹底は経営上の重大なリスクにつながるものとして認識されています。かつ、今後、企業が、国際的な厳しい競争に打ち勝ち、内外において揺るぎない信頼を得ていくためには、法令等の社会的規範の遵守はもちろんのこと、役職員全員が高い倫理観を持ち、厳しい自己規律を確立して、コンプライアンス経営を遂行していくことが必要と認識されています(拙著「実務労働法講義」<民事法研究会>316頁以下等参照)。
2 懲戒処分の有効要件
他方、懲戒処分には、必ずしも全ての判例が以下の要件の完全な充足を求めてはいませんが(時事通信社事件・東京高判平成11.7.19労判765-19等)、一般的には、概ね、次のような基準でその効力の有無が判断されています。

(1)罪刑法定主義
刑法の適用についての罰刑法定主義の応用で、懲戒処分をするためには、その理由となる事由とこれに対する懲戒の種類・程度が就業規則上明記されていなければなりません(エンジニアリングセンター事件・最二小判平成15.10.10労判861号5頁)。

(2)平等取扱の原則
同じ規定に同じ程度に違反した場合には、これに対する懲戒は同一種類、同一程度であるべきとされています。従って、懲戒処分は、同様の事例についての先例を踏まえてなされなければなりません。又、ここから従来黙認してきた種類の行為に対し処分を行うには、事前の充分な警告が必要とされています。

(3)相当性の原則
懲戒は、規律違反の種類・程度その他の事情に照らして相当なものでなければなりません。
いずれにせよ、以上の(1)ないし(3)の判断基準を要約すれば、使用者の懲戒権の行使が客観的に合理的な理由を欠き、又は社会通念上相当として是認し得ない場合には懲戒権の濫用として無効とされる(ダイハツ工業事件・最二小判昭和58.9.16判時1093号135頁)というわけです。

(4)適正手続
最後に懲戒処分を行う際には適正手続の保障が要求され、就業規則上(又は労働協約上)組合との協議などが要求される場合は、この手続を遵守すべきは勿論、そのような規定がない場合にも本人に弁明の機会を与えることは最小限必要とされています。

3 労使慣行の変更
ところで、いわゆる労使慣行が、就業規則としての効力を与えられていると認められる場合、その変更には、就業規則の改正手続に従ってなされ、その効力も就業規則の不利益変更の効力の問題と同様にその合理性があるかどうかで決められることになります(近時、内規を含んで同旨を判示している例として、日本ロール製造事件・東京地判平成14.5.29労判832号36頁)。
4 設問への検討
以上によれば、設問では、処分事由に関する定めは以前からあるところから、有効要件の(1)は充たされており、他の要件が問題となります。(3)(4)の要件が充足された運用がなされることを前提とすると、前述のとおり、「平等原則」が問題となります。即ち、規程上では違法とされていても、従来黙認してきた種類の行為に対し処分を行うには、従来からの規程の運用の強化・厳格化に関する事前の充分な警告のうえ、これに違反した場合に実行するといった手続が必要となります。かかる手続をなしたうえで違反者に相当な処分をすることは可能です。

ただし、規程違反への黙認が服務規程の慣行による変更のレベルまで達しているような場合には、就業規則改正手続きに準じた手続きが必要と解されています。この場合、改正手続が適法になされる限り、少なくとも、設問で問題とされる懲戒事由は多数裁判例や最高裁判例で合理性が検証されている解雇事由に当たり、前述のコンプライアンス上の必要によるものであり、いわゆる不利益変更における有効性の判断基準たる合理性が存するものとして、その有効性を認められるでしょう(就業規則の不利益変更については、菅野和夫「労働法」第6版120頁以下、拙著・前掲書36頁以下等参照)。

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