法律Q&A

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労災による休業期間中に行われた年休請求の取り扱い

弁護士 村木 高志(ロア・ユナイテッド法律事務所)

労災による療養休業期間中の年休請求についてお尋ねします。

[1] 休業補償給付が行われるまでの待機期間中に本人から年休の申請があった場合、会社はこれを認めなければならないのでしょうか。また、これを認めた場合、その年休取得日の休業補償は必要なのでしょうか。

[2] 休業補償給付を受けて療養している間、労働者から年休の請求があった場合は、これを認めなければならないのでしょうか。また、これを認めた場合、年休取得日の休業給付はどのように扱われるのでしょうか。

[3] [2]のケースについて、労災による療養期間中は当人の所属を総務部付に改めて休職扱いとするような場合でも、年休の請求があった場合はこれを認めなければならないのでしょうか。
(群馬県 A社)

[1]の場合、年休の申請を認めなければなりません。ただし、会社がその年休取得日の休業補償をする必要はありません。[2]の場合も、年休を認めなければなりません。ただし、年休取得日に休業給付はなされないことになります。[3]の場合は、年休を与える必要がないと考えられます。

1 労災休業中の年休取得について
 年次有給休暇(年休)は、本来、休日のほかに毎年一定の年休を与えることで労働者の心身のリフレッシュ等を図ることを目的として法律上認められたものです。したがって、業務災害(労災)による療養休業中の者が、年休の取得を申請してきたとしても、その者は現に就労していないのですから、この場合に年休を与えることは、上記の年休の目的に反するとも思えます。

しかし、行政解釈においては、「年休を労働者がどのように利用するかは労働者の自由である」(昭和48.3.6基発第110号)とされ、また、判例上も、「年休の利用目的は労基法の関知しないところであり、年休をどのように利用するかは、使用者の干渉を許さない労働者の自由である」とされており(林野庁白石営林署事件・国労郡山工場事件・最判昭和48.3.2労判171号)、年休の取得目的が休養のためでないという理由で年休の請求を拒否することはできません。

また、行政解釈は、「負傷又は疾病等により長期療養中の者が休業期間中年休を請求したときは、単に手当の請求にとどまって労働基準法第39条の精神にいささか反するように思われるが、年休を労働者が病気欠勤等に充用することが許されることから、このような者に対して請求があれば年休を与えなくてはならない」(昭和24.12.28基発第1456号)としています。したがって、労災による休業中であっても、その日が労働日である限り、免除するべき労働義務が存在することになるので、年休の請求があった場合には、これを認めなければなりません。

これは、労災保険の休業補償給付が支給されない3日間の待機期間についても同様であり、やはり年休の請求があれば、これを認めなければなりません。

2 年休を与えた場合の休業補償について
業務災害で休業する場合、労災保険の休業補償給付は、休業の4日目から支給され、休業最初の3日分については、使用者が労基法上の休業補償(療養中平均賃金の60%)を行わなければなりません。この3日間の待機期間中の休業補償については、労基法76条により、「業務上の傷病の療養のため、労働することができないために賃金を受けていないこと」が要件となっています。そして、待機期間中に年休を請求して、年休を取得した場合、年休の手当が当該労働者に支払われることになります。これは、労働者の療養中の平均賃金の60%以上の賃金が支払われている場合にあたり、休業補償が行われたものとして取り扱われることになります。したがって、この場合、会社は、重ねて休業補償をする必要はありません。

このような取り扱いは、労災保険の休業補償の場合にも当てはまるものと考えられますので、年休取得日の労災の休業補償給付も、重ねて支給されないという取り扱いになると解されます。

3 本人を休職扱いにした場合について
なお、労災による療養期間中、当人の所属を総務部付きに改めて休職扱いにしたような場合についてですが、行政解釈としては、「休職発令により従来配属されていた所属を離れ、以後は単に会社に籍があるにとどまり、会社に対して全く労働の義務が免除されることとなる場合において、休職発令された者が年休を請求したときは、労働義務がない日について年休を請求する余地がないことから、これらの休職者は、年休請求権の行使ができない」(昭和31.2.13基収第489号)としているものがあります。

これによれば、上記休職期間中は、労働義務がない日ということになりますので、この期間中に年休を取得することは、認められないことになると解されます。

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