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社員食堂で発生した食中毒は,労災補償の対象となるか

弁護士 岩出 誠(ロア・ユナイテッド法律事務所)

当社の社員食堂で食中毒が発生してしまいました。業務中ではなく,お昼休みの昼食時に発生した事故ですが,労災補償の対象となるのでしょうか。(大阪府 A社)

この社員食堂が、会社の業務施設として運営・管理されている場合で、災害とされる食中毒の発症が同食堂の衛生管理上の瑕疵等を原因とすると認められれば、休憩時間中の罹患でも労災補償の対象となります。

1 労災認定の一般的基準
(1)業務上外の認定の意義
 労基法上の災害補償ないし労災保険法の補償給付は、労働者に生じた負傷・疾病・障害・死亡(以下、傷病または災害という)が「業務上」と認められたときに与えられます。その認定をめぐっては、多数の裁判例・裁決例が存在しており、そこにおける行政解釈の役割には大きいものがあります(以下につき、拙著「実務労働法講義」改訂増補版下巻550頁以下参照)。

(2)行政解釈における業務上外の一般的認定基準
 行政解釈によれば、傷病が業務上のものと認められるためには、それが業務遂行中に、かつ、業務に起因して発生したものであることを要するとされています。
 つまり、ここで「業務遂行性」とは、「具体的な業務の遂行中」という狭い意味ではなく、当該労働者が労働契約を基礎として形成される使用者の支配ないし管理下にあることをいい、また、「業務起因性」とは、「業務又は業務行為を含めて『労働者が労働契約に基づき事業主の支配下にあること』に伴う危険が現実化したものと経験則上認められる」客観的な因果関係(相当因果関係)が存在することをいいます(町田高校事件・最三小判平8.1.23労判687.16等も、業務上外の一般的認定基準について、公務災害の事案であるが、いわゆる過労死事件で、「労災保険法に基づく労災保険給付の支給要件としての業務起因性が認められるためには、業務に内在ないし通常随伴する危険の現実化として死傷病等が発生したと評価されることにより両者の間に相当因果関係が認められることが必要である」旨のいわゆる「業務内在危険現実化説」を判示している)。

 通常は、業務に従事している際の災害については、特に業務起因性についての反証なき限り、一般に業務上の災害と認められるといえ(裁判例では、災害性の負傷等の業務上外の労災認定については、業務遂行性が認められる以上、特段の事情のない限り業務起因性を認めるものが少なくない。例えば、名寄労基署長事件・札幌高判昭47・10・12労判163-62 等)、業務起因性について反証の例としては、業務逸脱行為・恣意的行為・私的行為等が挙げられています。

2 休憩時間中の災害の業務起因性の認定基準
(1) 業務遂行性の具体的認定基準
 業務上外の認定例に関しては、膨大な行政解釈・判例が示されていますが、「業務遂行性」が典型的に認められる類型は、以下の3類型といわれます(菅野和夫「労働法」第7版補正版358頁以下)。

 [1]事業主の支配下にあり、かつその管理(施設管理)下にあって業務に従事している際に生じた災害。例えば、事業場内で作業中(作業に通常伴う用便、飲水などの作業の中断中を含む)。

 [2]事業主の支配下にあり、その管理下にあるが、業務には従事していないときの災害。例えば、事業場内での休憩中や、始業前・就業後の事業場内での行動の際の災害。

 [3]事業主の支配下にあるが、その管理を離れて、業務に従事しているときの災害。

 例えば、出張中の災害。行政解釈は、出張中については、通勤中とは異なって、労働者が合理的な順路、方法による出張途上にある場合には、交通機関や宿泊場所での時間、通常であれば私的行為とされる飲食等に際して生じた災害も含めてその全般に業務遂行性が認められています。
 以上に対して、業務遂行性が認められないのは、事業場外の任意的な従業員親睦活動、通勤途上(途中で用務を行なう場合は除く)や純然たる私的行動(生活)中となる。但し、通勤途中に関しては、会社送迎用バス乗車中の場合(昭和25・5・9基収32)や事業場内の通勤途中は認められる場合があります(事業場内で、業務遂行性があり、他に業務関連性を否定する事情なく業務性ありとした室蘭労基署長事件・札幌地判昭52・9・29労判285-20、拙稿「事業場内における通勤途上災害の業務性」ジュリ683-145参照)。

(2) 休憩時間中の業務起因性の具体的認定基準
 1(1)の[2]で業務遂行性が認められる「休憩中」等の災害については、労働時間中であれば業務起因性があるもの(飲水、用便等の生理的行為や歩行・移動行為などによる災害)や事業場施設の不備・欠陥によるものでなければ、業務起因性が認められていません(厚生労働省労働基準局編「改訂新版・労働基準法」下巻753頁参照)。例えば、休憩時間中のスポーツ活動による負傷は業務外とされます。但し、公務災害に関してですが、休憩時間中の他の職員のキャッチボールの球がそれて当たり負傷した事故について、渡り廊下を通行する者に危険をおよぼすおそれが当然予想されるとして、施設管理上の瑕疵起因性を理由に公務災害を認めた例があります(熊本営林局事件・熊本地判昭46・8・ 23判時649-87)。

 そこで、社員食堂での、休憩時間における飲食による食中毒への罹患が上記の「事業場施設の不備・欠陥によるもの」に該当するか否かが問題とされ、これが肯定されれば労災補償の対象となるということになります。

3 社員食堂の業務施設該当性
 社員食堂の形態にも千差万別あり、例えば、「社員食堂」の名前は通称で、社員食堂と言っても、実際には、別の正式店名をもって、たまたま同じ社屋内にあるだけで、外部の人にも開放し、通常のレストランと同じ形態になっており、経営主体も外部の外食産業が行い、社員割引や、食事券が利用できるだけといった状態であれば、会社としての福利厚生施設でなく、上記「事業場施設」とは言えません。しかし、上記以外の場合で、例えば、たまたま外の人にも食堂利用を開放し、経営委託で、実際の業務は外食産業が受託していても、対外的な社員食堂の運営主体が使用者企業にある場合、社員食堂は福利厚生施設としての「事業場施設」に当たることになります。
4 食中毒への罹患の業務上災害該当性
 次に、食中毒は、現在でもノロウィルス等次々と新しい感染源が発生するなど猛威をふるっていますが(その詳細については、厚生労働省HPの食中毒・食品監視関連情報)、それ自体は、「負傷」でなく、急性胃腸炎等の「疾病」で、厳密には、労基則35条別表第1の2のいずれかに該当することが求められます。しかし、実務は、余りこれに拘泥しないで、社員食堂での飲食や、給食等による食中毒につき、業務起因性を認めています(船中の給食による食中毒に関する昭26・2・16基災収12号参照)。理論的には、同別表9の「その他業務に起因することの明らかな疾病」に該当することを前提としているものと解されます。
5 社員食堂での食中毒と労働者死傷病報告の提出義務
 なお、社員食堂での食中毒に対しても、「労働者が事業場内又はその附属建設物内で...急性中毒により死亡し又は休業したとき」に該当すれば、労働者死傷病報告の提出義務が発生することになることにも注意して下さい(安衛則97条1項)。

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