当社では、このほど社内LANを構築し、就業規則はじめ各種規定をだれでも閲覧できるようになりました。社外に出向している社員(出向者)は閲覧できないため、従来どおり冊子を作り送付していますが、わざわざ送らなくともよいという申し出が多く、対応に困っています。電子化が進んだとしても、出向者にはやはり規定冊子を送付しなければならないのでしょうか。
未だ、この問題に明確に答えた判例や通達は見当たりません。しかし、少なくとも、出向者に出向元企業の就業規則の適用ある限り、労働基準法(労基法)や同法施行規則(労基則)及び通達の総合的解釈によれば、周知は望ましく、労働契約上も、改正規定の適用をするためには必要です。なお、その周知方法として、改正就業規則の冊子の送付に限定される訳ではありませんが、出向者には、E-MAILでの送信や、ID・パスワード等を利用してセキュリティを整備した上で、インターネットのホーム・ページ等を通じて閲覧できるようなシステムを構築する必要があるでしょう。
- 1 周知方法の拡大
- 平成11年4月1日施行の現在の労基法は、就業規則等の周知の方法については、労使委員会の決議(38条の4)、36協定(36条)等の各種労使協定等を周知すべき対象事項に拡大し、その周知方法として、従前の方法(下記(1))の外、書面の交付等による徹底を図っています。
また、その周知の方法は、次のいずれかによらなければなりません(労基則52条の2)。即ち、(1)常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、又は備え付けること。/(2)書面を労働者に交付すること。/(3)磁気ディスク等に記録し、かつ、各作業場に労働者が当該記録の内容を常時確認できる機器を設置すること。
- 2 社内LANによる就業規則等の閲覧
- 設問の出向元企業での社内LAN(ローカル・エリア・ネットワーク)による就業規則の閲覧もこの労基則の定め「磁気ディスク等に記録し、かつ、各作業場に労働者が当該記録の内容を常時確認できる機器を設置すること」(52条の2第3号)によるものです。この場合、社内LANのサーバー等の中の記録につき、労働者がパソコン等を通じて「必要なときに容易に当該記録を確認できるようにすること」が求められています(平成11年1月29日基発45号参照。以下、基発45号といいます)
- 3 社内LAN利用不能な場合の周知方法
- そこで、出向者に限らず、社内LANによっては就業規則等を閲覧できない者に対しては、設問と同様の問題が起こり得ます。しかし、以上の通り、労基法等は、周知の方法を、別段、社内LANの利用や冊子の配布(書面交付)に限定はしていませんので、社内LANと冊子配布以外の手段を講じれば良い訳です。そうすると、社内の場合や出向者が大量に一定の事業場で就労している場合であれば、従前から用いられていた事業場での掲示・備え付けの方法が可能であり、これで足りるでしょう。
問題は、出向者が1名のような場合です。この場合は掲示等では実質、書面交付と差がなくなってしまいます。そこで、前述の通達(基発45号)の趣旨からも、回答の通り、適切なセキュリティー等の措置を経た上で、E-MAILやホ-ムページ等の利用が考えられます。
- 4 出向者への出向元企業による周知義務の存否
- ところで、出向者が出向中、出向元の就業規則の適用を全く受けないとすれば、理論的には出向者に周知する必要はないことになります。しかし、現実には、ほとんどの企業の出向の場合、出向元に対して、就労義務を除く大方の就業規則の適用を受けているようです(解雇等身分の得喪にかかわる場合が典型です)。そうすると、出向元の就業規則等の効力を出向者に及ぼしたいとするならば、周知は必要となります。
しかし、これは出向元と出向者間の労働契約上の内容の変更の効果を及ぼす必要によるものであります。
労基法上の世界だけでは、出向先企業の事業場は出向元企業の事業場ではあり得ませんから、出向元企業が出向先企業の事業場での出向者に対する周知義務を負担することはあり得ない訳です。反対に、出向先企業にとって、出向先の就業規則等につき、前述の周知方法のいずれかが採用されていれば、少なくとも、周知義務違反の余地はないものと解されます。
- 結論
- そこで、回答の通りとなる訳です。
(C)2001 Makoto Iwade,Japan
労政時報第3488号(労務行政研究所)掲載
労政時報第3488号(労務行政研究所)掲載