先日の休日出勤は午前中(8時から12時)で済み、実働4時間でした。後日代休を付与する旨を社員に通知しましたが、この場合、休日出勤が午前中4時間で終わったのですから、4時間分の休日割増賃金を支払い、代休は1日ではなく半日にすることで問題ないでしょうか。また、休日出勤が1日の場合でも、仕事の都合を考慮して半日単位に分けて付与することはできないでしょうか。
休日労働は4時間ですから、労働基準法上支払うべき賃金としては4時間分の休日割増賃金(1.35×4時間×基礎賃金の時間単価)で足ります。次に、代休に関しては、労働基準法上の義務ではないため各社の定めによることになりますが、少なくとも労働基準法上は、1日分を分ける場合を含めて、半日単位で与えることは差し支えありません。なお、給与規定で代休付与に相当する賃金控除が明確に規定されている場合には、それに従った賃金の減額支給もありえます。更に、その休日労働がいわゆる法定外休日の場合には、割増賃金の問題は各社の定め・慣行等によることになります。
- 1 労基法の求める週休の特定
- 労働基準法35条1項の休日につき、法律上は、事前の特定が必要とされていませんが、行政指導ではできるだけ特定するよう指導され(昭和23.5.5基発682号、昭和63.3.14基発150号)、多くの会社では就業規則により休日が特定されているでしょう。
- 2 休日の振替と代休
- しかし、会社は突発的な受注への対処など一時的な業務上の必要性から、労働者に対し、就業規則上休日と定められた特定の日を労働日に変更し、代わりにその前後の特定の労働日を休日に変更する(このような意味で休日を他の日に「振替」える)措置をとることがあります。このような広い意味での休日振替えにも[1]「事前の振替え」(本来の「休日振替え」)と、[2]「事後の振替え」(本来の「代休」)とがあり、これらは労働基準法上の取扱いが大いに異なります(菅野和夫「労働法(第12版)」弘文堂・2019年・489頁以下参照)。
- 3 事前の振替えと振替休日
- 事前の振替えは、労働契約上特定されている休日を他の日(振替休日)に変更することであり、休日振替命令を行うには労働協約や就業規則などの労働契約上の根拠が必要になります。つまり、それらの規定で、定められた休日を他の日に振替えることができること、そしてその理由・方法を定める規定があり、それに従って振替が行われることが必要です。このような規定がない場合には、休日振替えは、労働者の個別の同意が必要となります。又、事前の休日振替えは、労働基準法の週1日または4週4日(変形週休制)の休日の要件をみたさなければならないので、会社は振替休日の日をこの要件に反しないように配置し、指定しなければなりません。そしてこの要件をみたす限り、事前の休日振替えにより、本来の休日の労働は労働日の労働となり、それについては労基法上の休日労働の割増賃金(労基法37条)の支払が要りません(三菱重工業横浜造船所事件・横浜地判昭和55.3.28労判339号20頁、ドワンゴ事件・京都地判平成18.5.29労判920号57頁、昭和 63.3.14基発150号)。 但し、振替えにより週の法定時間(労働基準法32条1項)を超えると、超えた時間につき時間外労働の割増賃金が生ずることはあります(上記通達)。
- 4 事後の振替えと代休
- 次に一般に代休と言われる「事後的な休日振替」についても、事前の休日振替と同様に労働契約上の根拠が必要です。労働協約または就業規則などの根拠規定に従って行うか、又は労働者の個別的同意が必要になります。しかし、この事後の振替えの場合には、就業規則上定められた休日が休日のまま労働日として使用されたことになり、それが労働基準法上の法定休日であった場合には、同法上の休日労働の要件をみたすことが必要となります。つまり、会社は、36協定による休日労働の規定に基づくことが必要で、その休日労働に対しては休日労働の割増賃金(労働基準法37条)を支払わなければなりません。もっとも、代休日を与えることは労働基準法上要求されていないため、代休日を与える場合には週1日または4週4日の休日の要件(労働基準法35条)は関係がありませんし、半日単位の付与も制限されていません。
ここで注意が要るのは、事後振替の代休の場合は、これを与えても、当然には、割増分のみ支払えば良いということにはならず、1.35倍の休日労働の割増賃金の支払義務を免れないということです。代休を与えた場合に35%の割増分のみで済ますためには代休取得の場合に関する賃金の精算規定を置く必要があります。例えば、「法定休日労働をして代休を取得した場合には35%の割増分のみを支払うものとする」などの定めです。なお、このような規定を置いていても、同一給与計算期間内に代休を与えなかった場合には、賃金全額払いの原則(労働基準法24条1項本文)から、1.35倍の休日労働の割増賃金全額を支払う必要がある点に注意してください。。
- 5 法定外休日の振替について
- なお、以上述べてきたのは労働基準法上の法定休日の振替についてであり、会社が同法の基準を上回って与えているいわゆる法定外休日については、同法上の制限はなく、36協定の締結、割増賃金の支払や、事前の振替の場合の週1日または4週4日の休日の要件をみたすことなどの必要はありません。又、振替の代休を与えるかどうかも労使で自由に決めることができます。しかし、法定外休日を振替えて労働させることがある旨の就業規則などの労働契約上の根拠が必要であることは法定休日の場合と同じであり、また、振替えにより週の労働時間が40時間を超えた場合には時間外労働の割増賃金の支払義務が生じます。
- 結論
- 以上の次第で設問については回答のとおりとなります。
(C)2020 Makoto Iwade,Japan
労政時報第3493号(労務行政研究所)掲載の論考に加筆修正しています
労政時報第3493号(労務行政研究所)掲載の論考に加筆修正しています