法律Q&A

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パートタイマーの賃金の一部を退職金として積み立て退職時に支給できるか

弁護士 筒井 剛(ロア・ユナイテッド法律事務所)
2001.10.12

当初のパートタイマーは、その多くが年収103万円以上となっています。先日、一部パートタイマーから、年収を同額以内に収めるため、毎月の賃金についてはあらかじめ103万円から均等に支払うよう決めておき、同額を超える部分は会社が応えてもらえないかとの相談がありました。会社としては申し出に応じてもよい考えですが、労基法上問題ないでしょうか。

労基法上は、賃金規定の改定等を行う必要がある。

1. パートタイマーの年収と非課税扱い部分
 パートタイマーについては、年収が103万円を超えると、原則として所得税が課税されます。そこで、実際に、多くのパートタイマーは年収を103万円以内に押さえようとする傾向にあります。本件においても、同様の趣旨と思われ、このような申し出を受ける会社も少なくないでしょう。
2. 賃金全額払い原則に抵触しないか
 では、本件のような取り扱いを行うことは、税法上の問題を除き、労基法上いかなる問題があるのでしょうか。

 まず、パートタイマーも労基法上の労働者でありますので、賃金支払いに関する労基法上の原則([1]通貨払い、[2]直接払い、[3]全額払い、[4]毎月1回以上一定期間日払いの原則。労基法24条1項および2項)の適用を受けます。

 今回のケースでは、会社が、退職金の積み立てのためとはいえ、賃金の一部をパートタイマーに支払わないことになるため[3]全額払いの原則に抵触しないかが問題となります。

 もそも全額払いの原則は、過去の労働関係においては、使用者が積立金、貯蓄金その他の名目で賃金の一部の支払を留保したり、貸付金、売掛代金と賃金を相殺することが行われ、労働者をその意思に反して足止めさせ、自由な労働移動(退職)を妨げることが多かったことから、そのような弊害を排除する趣旨で規定されたものです。

3. 賃金全額払い原則の例外といえるか
 もっとも、法令に別段の定めがある場合、または事業場に労使協定がある場合は、使用者はその定めにしたがって、賃金から一定額の金額を控除することが出来ます(労基法24条1項但書後段)。

 法令に別段の定めがある場合」とは給与所得税の源泉徴収(所得税法183条)、社会保険料の控除(厚生年金法84条、健康保険法78条など)、財形貯蓄金の控除(財形促進法6条)などです。また、ここでいう「控除」とは、履行期の到来している賃金債権の一部を指し引いて支払わないことをいいます。たとえば、積立金、貯蓄金などの名目で賃金の一部の支払を留保することは許されないことになります。

 今回のケースにおいては、法令に別段の定めがないことから、この例外にはあたらないことになります。

 では、労使協定による例外が認められるでしょうか。

 労使協定による賃金控除に関しては行政通達は、「購買代金、社宅・寮その他福利厚生施設の利用代金、住宅等融資返済金、組合費等、事理明白なものについてのみ」「賃金からの控除を認める趣旨」であり、少なくとも[1]控除の対象となる具体的な項目、[2]右の各項目別に定める控除を行う賃金支払日を記載する」必要があるとしています(昭27.9.20基発675合)。

 したがって、[1]控除の対象となる具体的な項目、及び[2]その賃金の支払日を定めて、労使協定を締結すれば、103万円を超える部分を後払いすることは可能といえるでしょう。但し、この場合にはあくまでも賃金の後払いであり、年収が103万円以上ということは変わらないわけですから、所得税を支払う必要は依然生じていると言え、この方法を採ることによるパートタイマー側のメリットはあまりないといえそうです。

4 . 賃金規定等の改定と退職金規程の創設の問題点
そこで、次ぎに考えられる方法が賃金規定を改定して、パートタイマーの年収を103万円以内とするように改正し、その分パートタイマーに関する退職金規程を設け、あるいは従前の退職金規程を改訂することによって、退職金を支給する方法です。

 賃金規定等の変更および退職金規程の創設等には、過半数組合又は労働者代表の意見を聴く等就業規則作成と同様の手続きが必要となります(労基法90条)。

 この点、使用者による賃金規定の一方的不利益変更が認められるか問題となりますが、「賃金などの労働者にとって重要な権利、労働条件」の不利益変更については、「そのような不利益を法的に受忍させることを許容できるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものである」ことを要する(大曲市農協事件・最三小判昭63.2.16労判512-7)ことから、今回のケースのような場合、「高度の必要性」が認定されるかは疑問であり、やはり法定の手続きに従うべきでしょう。

5 . 結論
 結局、賃金として支給する額を103万円以内にするためには、賃金規定等を法定の手続きに従って改正すべきであるといえるでしょう。

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