- (1)年休の前借は権利ではありません
- 年休の前借について、行政解釈でも、使用者が継続6ヵ月間の期間満了前に、労働者に対し年次有給休暇を与えることは、何ら差支えない、とされています(昭26.6.29基発355)が、従業員の権利としては認められていません。
- (2)前借分を翌年の日数から引かれる際に注意
- しかし、現実に前借りして休暇を取ったとしても、企業は、前貸した有給休暇を翌年発生する法定の年休日数から差し引くことは、当該年度中に労働者からの請求ある限り最低限労基法所定の年休日数を与えるべきであるとする労基法39条1項、2項に違反すると考えられ、できません。つまり、法定年休については、前年の前借分を理由として当年の年休の請求を拒むことはできないということです。但し、前借分が、労基法の定める最低基準を超えて与えられる法定外年休についてであれば、前借分を翌年の法定外年休から控除して、翌年の法定外年休を減らしても、それは契約自由の範囲内のことであり労基法に牴触することにはならないと解されています。
- (3)年休前借直後に退職した場合には
- さて、年休の前借をした従業員が、法定外年休の発生する条件を満たす前に辞めた場合にはどうなるでしょうか。この場合、前借の年休を貰った時に、年休請求権の発生前に辞めた場合には、前借分を欠勤として精算する旨の約束でもしていなければ、賃金の減額をされることはありません。もし、そのような約束をしていた場合には、この精算については労基法24条1項の全額払の原則との関係が問題となりますが、前借の年休取得日と退職による精算日が数カ月以内で近い場合には、判例における調整的相殺の問題として(福島県教組事件・最一小判昭44.12.18民集23-12-2495)、前払賃金の清算として控除されることがあります。