法律Q&A

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懲戒解雇や諭旨解雇とはどういうものか?(P7-6)

(1)懲戒処分とは
 そもそも懲戒処分とは企業秩序への違反者に対する制裁です。多くの企業の就業規則では大体次のような種類と内容の処分が規定されています。ほぼ軽い処分から挙げると、戒告、けん責、減給(労基法91条参照)、出勤停止、懲戒休職、賞与支給停止、昇給又は昇格停止・延期、降格、そして、諭旨解雇(退職願や辞表の提出を勧告し、即時退職を求め、催告期間内に勧告に応じない場合は懲戒解雇に付するもの)と、後に詳述する極刑としての懲戒解雇などです。
(2)懲戒には就業規則が必要
 懲戒権の根拠については、労働者が、労働契約を締結したことによって企業秩序遵守義務を負い、使用者は労働者の企業秩序違反行為に対して制裁罰として懲戒を課すことができるが(関西電力事件・最一小判昭58.9.8判時1094-121)、その行使に当っては就業規則の定めるところに従ってなしうるとされていて(国鉄事件・最三小判昭54.10.30民集33-6-647)、実務的には、法的な意味での懲戒処分には就業規則の規定が必要ということになります。
(3)処分の有効条件
 懲戒処分の有効性は、概ね、次の基準により判断されます(菅野和夫「労働法」第5版補正2版400以下参照)。

[1]罰刑法定主義
 懲戒処分をするためには、理由となる事由とこれに対する懲戒の種類・程度が就業規則上明記されていなければなりません。又、同様にこのような根拠規定はそれが設けられる以前の違反に対して遡って適用することはできません(不遡及の原則)。更に、原則として同一の違反に対し重ねて懲戒処分を行うことはできません(一事不再理)。

[2]平等取扱の原則
 同じ規定に同じ程度に違反した場合には、これに対する懲戒は同一種類、同一程度であるべきとされます。従って、懲戒処分は、同様の事例についての先例を踏まえてなされなければなりません。

[3]相当性の原則
 懲戒は、規律違反の種類・程度その他の事情に照らして相当なものでなければなりません。懲戒処分に対して裁判所が処分が有効性の存否を決める主要な基準はこの原則です。つまり、多くの懲戒処分(特に懲戒解雇)が、懲戒事由には該当するとされながら、当該行為や被処分者に関する諸般の事情が考慮され、重過ぎるとして無効とされています。使用者が重すぎる量刑をした場合は、懲戒権を濫用したものとされるのです。
 特にこのチェックは懲戒解雇に対して厳格になされています。なぜなら「懲戒解雇」は一般に処分の中での極刑であって、通常は解雇予告も予告手当の支払もせずに即時になされ、又、退職金の全部又は一部が支給されない、とされているからです。しかし、懲戒解雇と労基法上の即時解雇(20条1項但書)とは必ずしも一致しません。労基署が予告手当なしの即時解雇の事前認定をそう簡単には出してくれないため、予告手当を支払って即時解雇を選ぶ場合も多いのです。又、退職金が全額支給される懲戒解雇もあります。結局、懲戒解雇に特有の性質は、「懲戒」という名が付けられることによって再就職の重大な障害となるという不利益を伴うことです。
 いずれにせよ、以上の[1]ないし[3]の判断基準を要約すれば、使用者の懲戒権の行使が客観的に合理的な理由を欠き、又は社会通念上相当として是認し得ない場合には懲戒権の濫用として無効とされる(ダイハツ工業事件・最二小判昭58.9.16判時1093-135)という訳です。

[4]適正手続
 最後に懲戒処分を行う際には適正手続の保障が要求され、就業規則上(又は労働協約上)組合との協議などが要求される場合は、この手続を遵守すべきは勿論、そのような規定がない場合にも本人に弁明の機会を与えることは必要とされています。ただし、判例の中にはこれを余り重視しない例もありますので(時事通信社事件・東京高判平11.7.19労判765-19等)、これに頼り過ぎるのは危険です。

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