- (1)退職金規程などに基づくのが原則
- 退職金については、労基法15条1項、89条1項3号の2、労基則5条1項4号の2により、退職金の定めをする場合は、退職金の計算方法などに関する事項を労働契約の締結の際に明示し、就業規則に規定しておかなければならないとされていることもあり、今日多くの会社では退職金規程などにより、制度化されています。しかし、中小零細企業では、退職金規程などなく、支給するかどうか、支給する場合の基準もすべて社長の裁量(腹の内)次第というような場合もあります。このような場合、従業員には、企業に対して、当然には退職金請求権はないとされ、退職金請求権は企業がその支給の条件を明確にして支払を約束した場合に初めて法的な権利として発生するものとされています(北一興業事件・東京地判昭59.2.28労経速1184-21)。
- (2)例外的に慣行による退職金もあります
- しかし、そのような会社でも、実際には、長期の精勤者に対して、一定の退職金が名目は餞別などと称されていたとしても、支給されていることが少なくありません。そこから、一般的には、懲戒解雇された場合など、退職金制度を置く会社でも不支給とされるような例外的な場合を除いて、一定の年数を勤務した従業員にはほぼ退職金が支給され、その額も退職時の賃金・勤続年数や世間相場にほぼ準拠して支給され、そのような取扱が少なくとも数年以上にも亘り継続しているような場合には、そのような内規がある場合は勿論(内規による退職金の支給慣行が確立していたとして退職金の支払を認めた近時の例として吉野事件・東京地判平7.6.12労判676-15)、文書がなくても、労使間には黙示に慣行に従った退職金の支払に関する合意があったと認められる可能性があり、そのような条件があれば、慣行に従った請求ができることになります(日本段ボール研究会事件・東京地判昭51.12.22判時846-109等)。