- (1)労働者派遣の構造
- 他の企業の事業所内で別の企業の労働者が働く枠組みとしては、大きく、労働者派遣法(派遣法)によって、労働者派遣契約に基づき自己の雇用する労働者を派遣して他人の指揮命令下に使用させる「労働者派遣」と、業務処理請負契約や業務処理委託契約に基づき受託企業の業務を同受託企業の指揮命令の下に労働する処理するいわゆる「事業場内下請」(業務請負P8-8参照)に大別されます。
- (2)派遣元と派遣先の関係
- 派遣元と派遣先の関係は、上記の構造の中で、企業間の契約である労働者派遣契約の当事者として、基本的には、派遣元が、労働契約上の雇主としての賃金支払義務等の基本的義務を負担し、派遣先は派遣労働者とは直接の契約関係を持たず、派遣先労働者に指揮命令し、その労務の提供を受ける関係にあります。しかし、派遣法は以上の派遣労働の基本的構造を前提としつつも、派遣元、派遣先の双方に、派遣労働の実態に即した様々な手続的な規制や、以下の通り、概ね、関連労働法規等の法的負担の分担等につき定めています。
- (3)労基法の適用区分
- 例えば、労基法の諸規定の原則的な責任主体は派遣元の使用者ですが、均等待遇(3 条)、強制労働禁止(5 条)、徒弟の弊害排除(69条)の諸規定による義務は派遣元の使用者のみならず派遣先の使用者にも課されます(これらの規定に関しては、派遣労働者は派遣先の事業にも使用されるものとみなされます。44条1 項)。又、公民権行使の保障(7 条)、労働時間・休憩・休日(32条~32条の3 ・32条の4 第1項、2項・33条~36条・40条・41条)、年少者の労働時間・休日・深夜業・女子の危険有害業務・坑内労働(60条~63条・64条の2 ~64条の3・66条)、女子の育児時間・生理日の休暇(67条、68条)の諸規定に基づく義務は派遣先の使用者が負担します(これらの規定に関しては、派遣中の労働者は派遣先の事業にのみ使用されるものとみなされます)。
しかし、労働時間のわく組を定めるのは派遣元の使用者なので、フレックスタイム制(32条の4 )、変形労働時間制(32条の2 ・32条の4 ・32条の5 )及び時間外・休日労働(36条)におけるわく組(就業規則・労使協定)の整備(制定・締結・届出)や割増賃金の支払(37条)の義務は派遣元の使用者が負います(以上、44条2 項)。
- (4)労安法の適用
- 労安法についても、原則的な責任主体は派遣元です。しかし派遣労働が派遣先の事業場において派遣先の指揮命令下になされることから、派遣先に対しても、職場における労働者の安全衛生を確保する事業者の一般的義務が課されます。そして、派遣先は衛生管理については、派遣中の労働者の派遣先職場における衛生管理の責任を負います。また、安全管理体制(安全管理者・安全委員会など)や労働者の危険・健康障害を防止するために事業者が講ずべき措置(労安衛20条~27条など)などについては、もっぱら派遣先の事業者が責任主体となります(45条)。
- (5)労働保険、社会保険関係の適用関係
- 派遣労働者に対する労災保険法の適用については、常用型、登録型いずれも派遣元が強制加入事業者となり、保険料を負担することとなります。
- (6)雇用保険の適用関係
- 常用型、登録型いずれも、雇用保険の適用を受ける場合には、派遣元が雇用保険料の負担者となります。
- (7)社会保険の適用関係
- 常用型の労働者では一般社員と同様に派遣元で社会保険に加入することとなります。登録型の労働者では、健康保険及び厚生年金保険の適用事業所の適用除外者(健康保険法13条の2 、厚生年金法12条)とならない限り、派遣元は社会保険への加入手続をとらなくてはならないこととなります(昭35.8.18保発59や昭59.4.2 保発6 参照)。