法律Q&A

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新株発行の概要

弁護士 船橋 茂紀
1997年4月:掲載(校正・小林 昌弘2001年2月)(再校正・石居 茜2008年5月)

資金調達のために株式を発行したいのですが、どのような方法があるのですか。

銀行を頼ってばかりもいれないので、資金調達として銀行借入による方法ではなく、増資の方法で行ってみたいと思いますが、どんな方法がありますか。定款で株式の譲渡を制限していますか留意点はありますか。

通常の新株発行の方法と特殊の新株発行の方法とがあります。

1.新株発行の意義
 新株発行とは会社の成立後に株式を発行することを言います。
2.新株発行の種類
 新株の発行には、株式引受人に出資をさせてなされる場合と出資をさせないでなされる場合とがあり、一般に、前者を「通常の新株の発行」といい、後者を「特殊の新株の発行」と言います。
「通常の新株発行」には、株式の引受人を誰にするかによって、株主割合による新株発行(株主にその持株数に応じて新株引受権を与える方法)と第三者割当による新株発行(株主以外の者に対して新株引受権を与える方法)と募集による新株発行(誰にも新株引受権を与えないで株式を引き受ける者を募集し、応募した者の中から株式を割り当てる者を決定する方法。これにも、募集する範囲を従業員・取引先等の一定の者に限定する「縁故募集」とこれを限定しない「公募」とがあります。)とがあります。また、株式の発行価格によって、時価発行(発行価格を時価とする場合)と有利発行(発行価格を時価よりも特に有利な価格とする場合)とがあります。
「特殊の新株発行」には、株式分割(会社法183条)、株式の無償割当て(法185条)、新株予約権の行使(法280条)、吸収合併(法749条)、吸収分割(法757条)、株式交換(法767条)等の場合における新株発行があります。
3.新株発行の特徴
(1)
銀行等からの借入(「間接金融」といいます)は、公衆から集めた資金に銀行等の利益を上乗せしてなされるので、企業が直接に国民から金を集めた方(「直接金融」といいます)が論理的には資金調達コストが低くなるはずです。また、直接金融による場合、メーンバンクからの必要以上の口出しを回避できます。

(2)
直接金融の方法として、会社法上、増資(新株発行)と社債とが規定されています。株式と社債との違いは、第1に、株式には、株主総会における議決権等、会社の経営に関与する権利や会社を監督する権利が認められるのに対し、社債にはそれがないこと、第2に、株式の場合は配当可能利益の範囲内で利益配当を行えばよいのに対し、社債の場合には利益の有無にかかわらず常に一定の利息の支払をしなければならないこと(従って、社債の額の増加は景気の変動に対する企業の抵抗力を弱めます)、第3に、株式の払戻は原則として認められないのに対し、社債は一定期間経過後償還されること、第4に、残余財産の分配において社債の方が株式よりも優先すること、第5に、株式についての配当は剰余金分配手続によって行われるのに対し、社債についての利息の支払は費用として処理することができるので、社債の方が税法上は有利である(株式の配当率が低い場合など、具体的ケースにおいては結論として必ずしもそうでない場合も生じることに注意して下さい)、第6に、社債の発行は、自己資本比率を下げることなどにあります。

4.新株発行の手続
(1)
定款に定めがある場合又は会社法に特別の定めがある場合(例えば、株主以外の第三者に対する有利発行には取締役会の決議のほか株主総会の特別決議が必要とされています[法199条2項・201条1項・309条2項5号]。)のほかは、取締役会が、授権資本の範囲内(定款で定めた将来発行する予定の株式の数の範囲内)において、新株を発行する旨及び新株の発行に関して決定すべきものとして法律で定められた事項(会社法199条~202条)について決定して新株を発行します。

(2)
具体的には、会社が株式を引き受ける者を「募集」し、株式を引き受けようとする者がこれに「応募」して株式申込証(新株引受権証書)による申込みをし、これに対して会社が「割当」を行い株式引受人を確定し、この株式引受人が払込期日までに「払込」をすることにより(但し、現在の実務は、引受申込時に発行価格と同額の申込証拠金を払い込むこととされていますので、払込期日に現実に払込がなされることは通常ありません。)、払込期日の翌日に新株の発行の効力が生じることになります。なお、新株の発行が効力を生じると登記事項である発行済株式の総数・種類及び数並びに資本の額が増加する(法911条3項5号・ 9号)ので、会社は変更登記をしなければなりません(法915条)。

対応策

株主割当によるものと第三者割当によるものと募集によるものとがあります。それぞれについて、株式の発行価格によって、時価発行と有利発行とがあります。なお、閉鎖会社においては、原則として、株主が新株引受権を持っており、既存株主以外の者に発行する場合には、募集事項の決定について株主総会の特別決議が必要となりますので(法199条2項・200条1項3項・209条2項5号)注意して下さい。

予防策

新株発行による資金調達のメリットは、原則として出資の払戻をしなくともよく(借入は元本を返済しなければなりません)、会社の経営状態に応じて配当をすればよい(通常変動利息であっても利息はゼロにはできません)など、柔軟な運用が可能である点にあります。
4-1-1〈株式会社の設立手続〉で解説したように、会社法では、議決権制限株式や、株主から会社への取得請求権を付した株式(取得請求権付株式)や、会社が一定の事由が生じたことを条件として強制的に取得することができる取得条項付株式、取締役・監査役の選解任について内容の異なる株式等が認められており、会社の経営に関与する権利を制限することも可能です。
また、社債についても、新株予約権付社債が認められています。新株予約権は、権利者が会社に対して権利を行使したときに会社から株式の交付を受ける権利をいい、それのみを発行して資金調達を行うことも可能です。新株予約権付社債には、新株予約権を行使する場合には必ずその社債が消滅するもの(従来の転換社債)と、金銭等以外の財産を出資する形で新株予約権が行使されるもので、新株予約権を社債と分離して譲渡することができない非分離型新株予約権付社債があります。また、新株予約権と社債とを同時に募集し、両者を同時に同一人に対し割り当てる分離型のタイプもあります(従来の新株引受権付社債)。
通常、新株予約権の行使は、予め定めた一定期間内に予め定めた一定の金額の払込みをすることによって行います。新株予約権付社債は、一般的には、新株予約権というオプションを付与することで、社債を低利で発行することができると考えられますので、株式会社は、こういった多様な新株の発行や社債の発行を利用し、資金調達を行うことが考えられます。

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