法律Q&A

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就業時間外の事故

弁護士 小林 昌弘(ロア・ユナイテッド法律事務所)
2003.06.19

問題

工場内で機械の点検をしていたところ、機械に巻き込まれて負傷しましたが、就業時間前のことでした。業務上の災害と言えるでしょうか。また、就業時間後の事故は、どのような場合が業務上の災害と言えるでしょうか。

回答

 始業時刻前の事故は、業務に接続し通常付随する準備行為(就業時間前の場合)または後始末行為(就業時間後の場合)であると言えれば業務上の災害と言える。
解説
1 就業時間外の事故
 ご質問のケースは、就業時間外の事故ですので、原則として、事業主の支配下にあり、かつ、管理下にあるが、業務には従事していない場合に属し、業務起因性が認められるのは限られた場合です。

 そのため、解釈上、就業時間外の事故については、業務に接続し通常付随する準備行為(就業時間前の場合)または後始末行為(就業時間後の場合)であると言える場合に業務上の災害として取り扱われています。その際、災害が労働者の積極的な私的行為または恣意行為によるものでないこと、災害が通常発生しうるようなものであること等も考慮されているようです(昭50・12・15基収第1724号参照)。

 以下で実例を見てみましょう。

2 具体例
(1)就業時間前

[1] 油圧プレス機械により電気製品の部品の組立・加工を目的とする会社において、就業時間前にプレス機械に付着した残滓を剥がす作業に従事中、誤って機械を作動させて災害にあった場合につき、作業が就業時間より1時間30分も前であること、被害者がその日に予定していた得意先回りを早々にするために便宜上なされた準備行為であることから、被害者の作業が終業時刻に接続して行われた準備行為ではないとして、業務上の災害とは認められなかった裁判例があります(浦和地判昭58・4・20判タ512-159。なお、この裁判例は有限会社の取締役が労災保険法の特別加入者であったケースについてのものですが、特別加入者の業務も労働者の行う業務の範囲に準じたものとして扱われていますので、一般の労働者についても参考になります)。

[2] 鉄道会社の駅構内で、鉄道線路班工手が就業時間前に通勤のために、平常と同様に線路内を通っていたときに、発進してきた列車に触れて死亡した場合につき、業務上の災害と認められた例があります(昭35・5・9基収第1118号)。

[3] オートバイで出勤し工場中門守衛所でタイムカードを記入した後、再びオートバイで自転車置場に向う途中で、工場構内の市道(会社の事業所が管理)でフォークリフトと衝突し負傷した場合につき、業務上の災害と認められた例があります(昭37・8・3基収第5037号)。

[4] ブランコ、ジャングルジム、すべり台等の遊具製作会社の作業場で、工夫が出勤後まもなく就業時間前に、いつものように暖を採るために焚き火をしていたところ、その火によって焼死した場合につき、業務上の災害と認められた例があります(昭42・12・23基収第2962号)。

(2)就業時間後

[1] 道路整理工事の土砂運搬作業に従事する日雇労働者が、作業終了後、現場から事務所へ帰る途中で、山陰で涼しく近道にもなり付近住民も常時通行していた線路上を歩いていたところ、誤って川に転落して溺死した場合につき、業務上の災害と認められた例があります(昭28・11・14基収第5088号)

[2] 坑夫が、坑内における作業を終わり、昇坑の途中で立入禁止坑道内に立ち寄りガス中毒死した場合につき、業務上の災害と認められた例があります(昭36・10・10基収第5037号)。

[3] 事業場施設内で退勤中に、階段から転落して負傷した場合につき、業務上の災害と認められた例があります(昭50・12・15基収第1724号。理由は上記1参照)。

3 結論
 上記の実例を見てみると、本来の作業との関連性・目的、反復継続性、時間的接着性などを判断要素として考慮しているようです。ご質問のケースは具体的な事情が明らかでなく、一概には言えませんが、点検行為を行うことがその従業員の日常的な役割であり、当日も点検終了後間もなく就業時間が始まるなどの事情があれば、業務上の災害であると認められる場合が多いと解されます。

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