法律Q&A

分類:

正社員と非正規労働者の処遇差の限界

弁護士 鈴木みなみ 2017年 2月:掲載

契約社員が正社員と同じ待遇を求めて賃金の差額を求めることはできますか?

A社では、トラックの運転手について、正社員だけでなく有期雇用の契約社員を多く採用しています。そんな中で契約社員のBとCが、正社員と同内容の仕事をしているにもかかわらず、賃金に差があることや正社員に支給されている無事故手当、家族手当などの各種手当がないことや正社員と賃金の差があることはおかしいと主張してきました。A社としては、BやCにもできる限り福利厚生面の配慮はしてきましたが、勤務時間数や勤続期間などの点から正社員と同じという訳には行きません。どんな対応をしたら良いでしょうか。

正社員と有期契約社員との間に待遇の差がある場合、各種手当や基本給について、労働者の業務の内容、業務に伴う責任の程度、配置の変更の範囲等を考慮して、不合理と認められる場合には差額を支払う必要があります。

1.非正規労働者の法適用関係と権利等
 正社員/非正規社員というのは法律用語ではありませんが、一般的に非正規社員とは、正社員と比較して所定労働時間が短いパートタイム労働者、有期契約の労働者等を総称するものです。いずれも労働基準法その他労働保護法規の適用があるほか、パートタイム労働者については、パートタイム法の適用があることに留意する必要があります(パートタイム労働法に関してはこちらの設問も参照。)
2.期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止
(1)趣旨
有期労働契約については、労働契約法20条において、「有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下この条において「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。」との定めがあり、正社員との間の不合理な労働条件の差を禁止しています。
通達では、労働契約法20条について、労働条件の相違があれば直ちに不合理とされるものではなく、法第20条に列挙されている要素を考慮して「期間の定めがあること」を理由とした不合理な労働条件の相違が禁止されると明記しています(平成24年8月10日基発0810第2号「労働契約法の施行について」)。

(2)「職務の内容」等の具体的内容
上記通達では、「労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度」(すなわち、「職務の内容」のこと。)は労働者が従事している業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度を指すとしています。また、「当該職務の内容及び配置の変更の範囲」は、今後の見込みも含め、転勤、昇進といった人事異動や本人の役割の変化等(配置の変更を伴わない職務の内容の変更を含む。)の有無や範囲を指すとしています。また、「その他の事情」は、合理的な労使の慣行などの諸事情が想定されるとしています。

(3)不合理性の判断
不合理性の判断について、上記通達では、不合理性の判断は、有期契約労働者と無期契約労働者との間の労働条件の相違について、職務の内容、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、個々の労働条件ごとに判断されるとしています。また、通勤手当、食堂の利用、安全管理などについて労働条件を相違させることは、職務の内容、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して特段の理由がない限り合理的とは認められないと解されると明記しています。

(4)裁判例
(ア)ハマキョウレックス事件
労働契約法20条に関する裁判例としては、各種手当の不支給の不合理性が争われたものとして、ハマキョウレックス事件(大阪高判平成28年7月26日労判1143号5頁)があります。事案は、原告が有期の配車ドライバーとして正社員と同様の仕事を行っていたというもので、無事故手当、作業手当、給食手当、通勤手当に関する正社員と有期契約社員との間の労働条件の相違が、労働契約法20条の「不合理と認められるもの」に該当すると判断されました。一方で、住宅手当、皆勤手当、家族手当等の不支給については、不合理とは言えないとしたほか、一時金、定期昇給、退職金についても正社員と同一の地位にあるとは認められないと判断しました。
また、裁判所は、労働契約法20条違反の効果として、労働条件は無効となるものの、直ちに正社員の労働条件が有期の社員に対して適用されるわけではないとして、賃金請求は認めず、損害賠償のみを認めました。

(イ)長澤運輸事件
長澤運輸事件(地裁:東京地判平成28年5月13日労判1135号11頁、高裁:東京高裁平成28年11月2日労判1146号16頁)も、輸送業の運転手であり、被告を定年退職後再雇用された原告らが、被告が無期契約労働者と有期契約労働者との間に労働条件の差異を設けているのは無効であり、原告らには一般の就業規則が適用されると主張して同就業規則を受ける地位の確認と差額賃金の支払を求めた事案です。
地裁は、業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度、勤務場所や業務の内容を変更することがある点でも無期と有期に差がないため、両者の相違は特段の事情がない限り無効であると判示したうえで、原告らは、定年後再雇用という事情があるとしても、業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度、勤務場所や業務の内容を変更することがあることについてまったく変わらないまま再雇用後に賃金だけが下げられている状態であり、賃金を引き下げなければならない経営状態にはない以上、特段の事情は認められないとしました。その上で、労働契約法20条違反の効果として、労働条件は無効となり、被告の正社員就業規則が原則として全従業員に適用されるものとされていることから、賃金請求を全面的に認めました。
一方、高裁は、原告らが、高齢者雇用安定法に基づく雇用確保義務の一環として定年後に有期で雇用された者であること、定年後再雇用された場合に賃金が下げられることが通常であること、定年到達者の雇用を義務付けられることによる賃金コストの無制限な増大を回避して、定年到達者の雇用のみならず、若年層を含めた労働者全体の安定的雇用を実現する必要があること等を考慮し、「定年後継続雇用者の賃金を定年時より引き下げることそれ自体が不合理であるということはできない」として原告の請求を棄却しました。
なお、定年後再雇用後の有期労働契約について、上記通達は、「定年後に有期労働契約で継続雇用された労働者の労働条件が定年前の他の無期契約労働者の労働条件と相違することについては、定年の前後で職務の内容、当該職務の内容及び配置の変更の範囲等が変更されることが一般的であることを考慮すれば、特段の事情がない限り不合理と認められないと解される」としており、長澤運輸事件の地裁では、定年後再雇用後において職務の内容等の変更が一切ないことを重視し、通達に忠実な判断をしたのに対し、高裁は定年後再雇用の特殊性そのものを重視した判断をしたものと解されます。

(5)同一労働同一賃金ガイドライン案
なお、政府は平成28年12月20日付で「同一労働同一賃金ガイドライン案」(以下、「ガイドライン案」といいます。)を発表し、正規か非正規かという雇用形態にかかわらない均等・均衡待遇の実現を推し進めています。このガイドライン案はあくまで案にすぎず、関係者からの意見や国会審議を踏まえた修正を予定しているものですが、現行の労働契約法20条の解釈として注目されるだけでなく、今後、均等・均衡待遇の実現に関する流れは加速するものと予想され、法令や指針の改正に注視する必要があります。

対応策

設問について、無事故手当に関しては、通達及び裁判例を踏まえると、支給しないことが不合理と認められる可能性が高いものと考えます。一方、家族手当や賃金については、A社における正社員とBCの職務の内容や配置の変更の範囲等の具体的内容がどのようなものかによることになります。

身近にあるさまざまな問題を法令と判例・裁判例に基づいてをQ&A形式でわかりやすく配信!

キーワードで探す
クイック検索
カテゴリーで探す
新規ご相談予約専用ダイヤル
0120-68-3118
ご相談予約 オンラインご相談予約 メルマガ登録はこちら