法律Q&A

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相手方の事前調査

弁護士 中村 博(ロア・ユナイテッド法律事務所)
1997年4月:掲載

契約を締結しようとする相手方が取引相手として初めての場合、注意すべきことは何でしょうか。

甲社がある展示場で展示会をしていたところ、その場で取引先の乙社の常務から丙社の社長を紹介されましたが、その数日後、その社長が丙社の会社案内を持参の上で甲社を訪れ、「是非、甲社の製品を使いたい」と取引を申込んできました。すぐに取引を始めてもかまいませんか。

相手方の事前調査(相手方の特定、資産調査、信用調査等)を忘れずにしましょう。

1.事前調査の必要性
 契約が目的を達成した時は、それによって企業は大きな利益を獲得したり長期にわたる安定した収入を得たりすることになるでしょう。しかし、契約・取引において何らかの形で失敗した時は、その契約や取引の規模によっては、それこそその企業の命取りになり兼ねません。つまり、良い取引先の選択はそれによってこちらの企業も繁栄しますが、悪い取引先を持ちますと、企業としては一生の不作とまでは言えなくとも、何年かの不作となることはまず間違いありません。
従って、取引を開始するにあたっては、見合い相手の調査と同様、取引先の相手についても十分調査をする必要があるのです。
2.調査方法
 まず、本設問のように紹介者がいる場合には、まずその紹介者が信用に値する人物あるいは会社であるかを確認すべきでしょう。本設問にあるような取引先の口利きのような場合はよくあることだと思いますが、だからと言って全面的にこれを信用してしまうのは問題です。取引先には、要注意人物とされている人や会社が少なからず存在するものであるし、相手のことをよく知らず義理で紹介し担当者の判断に下駄を預けるといったことがありうるのです。
次に、取引相手を確認することが大切です。世の中には、「○×商会」と名乗りながら実態が明確でない怪しげな団体がよくあります。このような団体が個人の商号なのか、会社の商号なのかは、相手からもらった名刺や見積書だけでは判断できません。取引の相手方は会社だとばかり思って取引を開始したら、実は会社の設立手続きがなされていなかったというようなことがないように気をつけましょう。取引相手が会社か個人かでは、権利義務の帰属主体が異なりますし、責任の追及相手も異なってくるのです。会社組織であれば、登記されているはずですので登記所に足を運び商業登記簿の閲覧・謄写申請をして確認しましょう。本設問では、会社案内を見せているようですが、これでも相手方の特定としては不十分でしょう。
三番目に、相手方の資産調査が必要です。取引によって発生する債権の最終的な値打ちは、相手方の資産によって決定するといってもいいくらいです。債権はあくまで他人に対してある行為を請求することをその内容としており、肝心の相手方から任意に弁済されないと実際にはその権利は形式だけのものとなります。裁判手続を使って強制執行するにしても、相手方に差し押さえられる財産が存在しないことには何の意味も持たないのです。具体的な調査方法としては、相手方にどのような資産があるかについて、不動産であれば登記簿謄本を調べればいいし(設問[2-5-1]・[2-5-2])、相手方が会社であれば出来れば貸借対照表などにより資産のあらましくらいは調べたいものです。資材や商品などのつきましては、相手方の工場や店舗などに赴いて検分することも重要でしょう。
最後に、相手方の信用調査が挙げられます。その中で、金融面の信用調査であれば、こちらの取引銀行を通じて調査してもらうことが出来ますしそれで十分でしょう。ただ、それと並んで出来うるならば、業界内での信用も調査された方がよいでしょう。良い取引先は、その業界内でもそれなりの評価を受け信用もあるのが通常なのです。同じ業界内の別の取引先等に問い合わせして調査することになるでしょう。

対応策

甲社とすれば、まず、乙社にもう一度問い合わせをして丙社がどのような会社かを確認すべきでしょう。乙社に寄せる甲社の信頼の度合いによっては、この手続は省略することも可能でしょう。
次に、商業登記簿を閲覧・謄写して丙会社の実態を調査しましょう。もしそのような会社が存在しない場合には、丙社に問い合わせして実態を聞き出すべきでしょう。
三番目に、不動産登記簿謄本や貸借対照表などで丙社の資産を調査し、取引銀行を通じて金融面の信用を調査すると共に同業者を通じて業界内での信用をも調査すべきです。
なお、信用調査につきましては、民間に調査会社(帝国データバンク等)がありそこに依頼する事も出来ますが、調査費用が相当にかかる(最低でも50万円くらい)ことを覚悟する必要があります。

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