法律Q&A

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不動産登記の専門家は?

弁護士 中村 博(ロア・ユナイテッド法律事務所)
1997年4月:掲載

登記所に行く時間がないので、登記手続を専門家にお願いしようと思いますが、誰にお願いすればよいのでしょうか。

甲社は、このたび業務拡張に伴い新しい土地を購入しその上に新事務所のビルを建築しました。この一連の取引に基づいて、甲社は登記手続をしようと思いましたが、土地と建物とがあり面倒くさそうだし登記所に行く時間的余裕もないので、ついては専門家に手続をお願いしようということになりました。甲社の社長の知り合いに土地家屋調査士がおりますが、この人に全て任せてもいいものでしょうか。ちなみに、甲社には、顧問弁護士も顧問司法書士もおりません。

表示登記については土地家屋調査士へ、権利登記については司法書士へ依頼してください。

1.土地家屋調査士と司法書士の違い
 一般に、登記の専門家といえば、「司法書士」という専門家を思い浮かべるのではないでしょうか。しかしながら、本設問で出てくる「土地家屋調査士」という専門家も、「司法書士」と比較すれば余り知られてはいないようですが、登記実務に携わっている専門家であることは間違いありません。そこで、両者の違いが問題となります。

(1)土地家屋調査士
他人の依頼を受けて、不動産の表示に関する登記につき必要な土地又は家屋に関する調査、測量、申請手続き又は審査請求の手続をすることを業とするもの(土地家屋調査士法2条)をいいます。司法書士との関係でポイントとなるのは、登記の内不動産の表示登記に関する手続にしか関与できないという点です。表示登記の意味については、設問4の解説一を参照してください。

(2)司法書士
他人の嘱託を受けて、
【1】登記又は供託に関する手続について代理すること
【2】裁判所、検察庁又は法務局若しくは地方法務局に提出する書類を作成すること
【3】法務局または地方法務局の長に対する登記又は供託に関する審査請求の手続について代理することを業とするもの(司法書士法2条1項)
をいいます。土地家屋調査士との比較という観点からいいますと、その職務が表示登記にだけ限定されるわけではなく、昭和53年の司法書士法改正に伴い、従来なかった上記【3】の職務が加わったこと等からも、司法書士はその業務について専門家としての位置づけがより明確になされています。

(3)弁護士と登記手続
それでは、法律実務の専門家である弁護士に依頼することが出来るのでしょうか。弁護士法3条1項は、弁護士の職務を「弁護士は、当事者その他関係人の依頼または官公署の委嘱によって、訴訟事件、非訟事件及び審査請求、異議申立て、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件に関する行為その他一般の法律事務を行う」と定めており、法律事務の中に登記手続に関する事務も含まれていると考えられております。従って、法律上は弁護士も他人から登記手続の委任を受けることは出来ます。
しかしながら、弁護士はその職務の範囲が大変広く、登記事務に関してはそれほど精通しているわけではないことから、専門家としての司法書士や土地家屋調査士に事実上任せており、弁護士が自ら進んで受任することはまれと言ってよいでしょう。継続・反復して登記手続の代理人をしていた弁護士が司法書士会から訴えられたりしているのが現実です。従って、弁護士に登記手続をお願いしようとしても、知り合いの司法書士を紹介される場合が圧倒的に多いと予想されます。

対応策

本設問では、3つの登記をしなければなりません。
まず、土地の所有権移転登記ですが、これは権利の登記であり土地家屋調査士の職務範囲を超えますので、知り合いの土地家屋調査士から司法書士を紹介してもらうなりして司法書士にお願いしなければなりません。登記する義務が法律上無いことは設問[2-4-1]で述べた通りですが、是非行っておいてください。
次に、新築した建物の表示登記ですが、これは典型的な土地家屋調査士の職務に属するものですので、知り合いの土地家屋調査士に依頼すれば足ります。表示登記は、移転登記と異なって建物を新築した際に必ず申請しなければならず(不登法47条1項)、違反者は10万円以下の過料に処せられますのでご注意ください(同法136条)。
最後に建物の保存登記ですが、これは権利の登記にあたりますので、土地の所有権移転登記と同じ扱いになります。

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