法律Q&A

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動産担保の方法

弁護士 中村 博(ロア・ユナイテッド法律事務所)
1997年4月:掲載 (校正・村木 高志 2007年12月)

抵当権は不動産にしか設定できないと聞きましたが、動産にはどのような担保権が設定できるのですか。

甲社では、事業拡大の為に新たな事業資金が必要となっているので資金援助を銀行に申し出ようと思いますが、担保としての不動産が用意できません。ただ、倉庫内に大量の商品(新品のパソコン)がありますのでこれを担保に差し出して資金援助を受けられないでしょうか。

所有権留保の手段でなく、集合物譲渡担保という方法での資金援助は可能でしょう。

1.動産担保とは?
 機械・器具のような有体動産を担保に取得する方法として、民法上は質権がありますが、質権では担保物を債権者に引渡さなければならないので、営業設備としての機械・器具には適当ではありません。これに対して、譲渡担保は、担保物を債務者の手元に置いたまま営業に利用することが認められているので、質権より譲渡担保の方がより多く担保として利用されています(設問[5-1-6]参照)。更に、特別法による動産(機械器具)担保化の方法として、工場抵当あるいは工場財団その他の財団、建設機械抵当などによるものがあります。
2.商品担保の2つの方法
(1)所有権留保
所有権留保とは、商品代金が完済するまでは、その商品の所有権を買主に移転させず、売主に留保したままで代金の支払いを確保する担保形式をいいます。
先買い取引で商品の所有権移転時期を当事者間で取り決めることは可能です。通常は、契約のときに所有権が売主から買主に移転しますが、これを特約することにより、代金完済のときまで所有権が買主に移転しないとすることもできます。買主が債務不履行により代金を期限までに支払わないときには売主は商品の返還を求めることができるので、このような特約に担保的効果が認められています。
所有権留保は、近似盛んになった家庭電化製品やミシン、自動車あるいは機械・器具等の割賦販売の場合に多用されるようになりました。しかし、所有権留保の制度は、売買契約上商品の所有権移転の時期に着目し、これを担保として利用するため、商品の占有の外観と所有権の帰属が異なるので、譲渡担保の場合と同じように、売主と買主及び第三者との間で複雑な法律関係が生じます。
第1に、買主の一般債権者による差し押さえがあったり、買主が破産した場合、従来の考えによると所有権を留保するという売主の立場から見て、商品代金が完済されるまで売主に留保される「所有権」は対外的関係においても所有権であるとさますので、売主は自分に所有権があることを主張できることになります。
第2に、所有権留保売買において、買主が商品の使用収益機能を有するのはなぜかについて、従来の考え方では、売買契約と別個に賃貸借ないし使用貸借契約が結ばれ、それによって利用できるとされています。
第3に、買主の目的物処分権についても、従来の考え方では買主に所有権がないとするので、買主に処分権は当然には認められません。従って、商品を第三者に転売するときは、あらかじめ売買契約の中で売主の同意を得なくても売ってよいことにしておきます。この場合は、商品代金未払いのものの所有権が転売時に売主に移転し、担保を解約したと同じ効果が生じます。
第4に、買主が保管中の商品が滅失・毀損した場合、それが買主の過失によって生じたときには、その損害を買主に負担させることは可能です。その滅失・毀損が買主にとって不可抗力であるときは、従来の考え方では、所有権が売主に留保されているので、その損害を買主に負担させることは無理ですが、原因のいかんに関わらず、全て買主が損害を負担する旨を契約書の中で特約しておくとよいでしょう。

(2)所有権留保契約の設定
所有権留保契約の設定は当事者間の合意によってなされます。その方式は、割賦販売契約書に「本商品は契約成立後、直ちに買主に引渡されますが、その所有権は代金を完済するまで売主に留保されることを承認します」という条項を入れます。なお、割賦販売法では、その第7条に、割賦販売の方法により販売された指定商品の所有権は、賦払金の全部の支払い義務が履行される時までは割賦販売業者に留保されたものと推定すると規定されています。
また、所有権留保契約の場合、商品は買主に引渡されますが、その所有権は依然として売主にとどまっていることを第三者に公示しておく必要があります。そのために利用されるのが「ネームプレート」の取り付けです。どのような商品にネームプレートを取り付けるかは、買主の目的、物に対する意識(第三者に所有権留保であることを知られたくないという意識)とかかわってきますが、割賦販売契約書中に買主の取り付け義務を定めておくとよいでしょう。特に機械類の売買で取り付け義務を定めるのは慣行となっています。所有権を留保した商品にネームプレートを取り付けておけば、即時取得や買主の一般債権者による強制執行の未然の防止を図ることが可能となります。

(3)譲渡担保
債務者が営業のために店頭商品や倉庫の中などに保管している商品を譲渡担保にとることができます。店頭や倉庫内の小品を担保とする場合には、各商品を個別に担保の目的とする方法と店頭や倉庫の商品を集合物として一括して担保とする方法があります。
前者の個別担保の場合には、譲渡担保設定契約の中で目的物件を個々に特定し、各々の物件について個別に担保権を設定することになります。しかし、これによれば、店頭や倉庫の商品が販売され新たな商品が仕入れられた時、その都度、販売された商品については譲渡担保権の解除を、新たに仕入れられた商品については譲渡担保権の設定手続きを取らなければならないので、大変面倒なことになります。そこで、そのような個別商品について譲渡担保権を設定するのは、店頭や倉庫の商品の数が少なく個々の商品価値が高い場合に取られます。たとえば、絵画や宝石のように個々の商品に個性があり価値も高いものを担保の目的とする場合などが考えられます。
後者の集合物として一括して担保とする方法というのは、たとえば、デパート、スーパーその他一般の小売商店の店頭商品や倉庫内の仕入れ商品などは特に個別商品に個性がなく一品の価値も低いものを大量に扱うもので、これらについて販売、仕入れの都度、譲渡担保権の解除、設定を繰り返すことは実際上不可能に近いといえます。そこで、このような場合には、店頭や倉庫内の商品を集合物という概念でとらえてこれを一括して譲渡担保とするのです。つまり、たとえその商品の内容が常に入れ替わっていても、全体としては物として同一性があるとみて、当初の一回だけの譲渡担保契約によって、その効力を入れ替わったその在庫品に及ぼそうとするものです。
集合物とは、法律的にいうと「個々のものがその独自の個性を維持しつつ、かつ継続的な経済的関連のもとに結合され、取引観念上単一のものとして取り扱われるような多数のものの集合をいう」とされています。容易な言い方を知れば、個々には独立しても取引の目的となるとともに、担保の目的とする時には、集合物として全体を一個のものと扱うことができるものであるということです。この集合物という考え方については、国税徴収法でも、その基本通達の中で、「常に変動のあることが予想されるべき企業用動産等の財産の手段を一括して譲渡担保の目的としている場合には、集合物としての同一性がある限り、担保権設定後にその集合物に加えられた財産にもその譲渡担保権の効力が原則として及ぶ」ことを述べ、この担保制度を認めています。そして、集合物としての同一性の認められる範囲内における目的物の差し替えは、集合物についての当初の契約日をもってすべて設定日として扱うものとされています。ただ、この考え方によれば、集合物を、個々の物の存在(物の出し入れ)を無視して一つの物であるとしているので、一度契約をして対抗要件(引渡し)を備えておけば、もうそれでよいことになります。
しかし、実際の取引では個々の物にいつ担保権が発生し、消滅するかを証明することは難しいことから、実務上はたとえば、ある店頭または倉庫の商品全部を集合物とする場合には、一応店頭または倉庫の商品の全部を契約書の中に列記して、その所有権を譲渡し、占有改定の方法により引渡し、売却される商品については担保解除する旨の契約(停止条件または予約)をしておきます。また、集合物の範囲も分かりやすく特定しておく必要がありますので、店または倉庫の場所及びその中に保管されている商品の種類と予想される保管数量を契約書中に明確にしておきます。そこで、注意しておかなければならないのは、契約期間中は常に特定性が維持されていなければならないわけですから、その管理を十分にしなければならないということです。そのため、たとえば、月末には店頭または倉庫の在庫商品を点検(他の商品があるときは混在しないように商品の保管場所がどこかを明確に区別させておきます)し、保管状況の調査、数量の確認をしておくべきです。

対応策

倉庫内のパソコンの売買に関するものではなく、ただ担保に供したいというのが甲社のねらいのようですから、所有権留保の手段ではなく譲渡担保の手段による資金援助が受けられそうです。詳細は金融機関と相談してください。

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