法律Q&A

分類:

債権差押

弁護士 相川 泰男
1997年4月:掲載

債権の強制執行はどのような手続で行われるか。

A社に対し売掛金請求の支払命令を申し立て、仮執行宣言付支払命令を取得しましたが、一向に支払をしてくれません。そこで、A社の有する銀行預金を差し押さえたいと考えていますが、どのような手続をとればよいのでしょうか。

執行文の付された債務名義に基づいて債権差押命令を申し立て、発令後に第三債務者から直接取り立てます。

1.債権執行とは
 債権の強制執行とは、設問の例でいうと、A社(債務者)が銀行(第三債務者)に対して有する預金債権(差押債権)を、当社(債権者)がA社(債務者)に対して有する売掛金債権(請求債権)の仮執行宣言付支払命令(債務名義)に基づいて差し押さえる手続です。
差押えができる債権は、貸金債権、預金債権などの金銭債権のみならず、電話加入権のように、金銭的評価のできる財産で譲渡性のあるものであれば執行の対象となりますが、法律上や性質上差押えの禁止されている債権もあります。例えば、給料、賞与、退職年金などの給与債権については、債務者の生計維持を図るため、給与の4分の3に相当する額または月額21万円のいずれか低い方の額の差押えが禁止されています(民執法152条)。
2.債権差押の効力
 裁判所から債権差押命令が発令され、これが第三債務者に送達されると、差押えの効力が生じ、以後債務者は債権の取立てその他の処分が禁止され、第三債務者は債務者への弁済が禁止されます(民執法145条1項)。そして、金銭債権の場合、債権差押命令が債務者に対して送達された日から1週間を経過すると、債権者は直接第三債務者からその債権を取り立てることができ(民執法155条1項)、第三債務者が任意にこれに応じないときは、取立訴訟を提起することになります(民執法157条)。

対応策

1.債権執行の手続
債権執行を行うためには、まず、執行文の付された債務名義の正本が必要です。設問の場合、仮執行宣言付支払命令は債務名義になりますから(設問〔5-2-10〕参照)、この債務名義に執行文を付与してもらい、これに基づいて、執行裁判所に、当社を債権者、A社を債務者、取引銀行を第三債務者として、A社の取引銀行に対する預金債権について、債権差押命令の申立てをします。
債権差押命令の申立てにあたっては、差押え債権の種類および額その他債権を特定するに足りる事項、ならびにその範囲を明らかにしなければなりません。 このように、差押え債権の特定と範囲の明示が要求されるのは、債権差押命令が送達されると、債務者は取立てその他の処分が禁止され、第三債務者は弁済が禁止される効力が生じるため、どの債権が差し押さえられたのかを明確にする必要があるからです。差押え債権の特定方法については、通常、債権の種類、発生時期、発生原因、弁済期などを記載して行います。
設問の銀行預金については、預金の内容や金額まではわからないことが多いので、債務者の預金名義と、取引銀行の支店名とが特定できれば、預金債権の種類、口数口座番号、金額が不明であっても、これについて定型的な記載をすることにより、申立てが可能です。

2.第三債務者に対する陳述の催告
債権差押命令の申立てをするあたり、第三債務者に対して、差押えにかかる債権の存否、額、弁済の意思などについての回答を求める「陳述の催告」を併せて申し立てることができます。執行裁判所は、この申立てがあると、第三債務者に対して、差押命令を送達する際に、前記の事項を陳述するよう催告を発し、第三債務者がこの催告に対して、故意又は過失により陳述をしなかったとき、または不実の陳述をしたときは、これによって生じた損害を賠償する責任が生じます(民執法147条2項)。
したがって、第三債務者は、通常、この催告に対し所定の陳述書を提出して回答をしますから、債権者は、これにより差押債権の存否及び額を確認することができるわけです。

3.取立方法
金銭債権の場合、差押債権者は、直接第三債務者に対して自己に支払うよう請求することができます。ただし、債権者が債権の帰属主体となるわけではないので、取立て以外の方法で債権を処分することはできません。
これに対して、債権差押命令の申立てと同時に転付命令の申立てをしてこれが発令されると、差し押さえられた債権が券面額で債権者に移転し、これにより、債権者は、債権の券面額について他の債権者を排除して独占的に支払を受けることができるようになります。ただし、この転付命令により、債権者の執行債権および執行費用が債務者から弁済されたものとみなされてしまうので(民執法160条)、第三債務者が無資力であったり、いろいろな抗弁権が付着していた場合には、その危険を債権者が負担しなければならないことになります。
また、差し押さえられた債権が、条件付もしくは期限付であるとき、または反対給付に係ること、その他の事由によりその取立てが困難なときは、執行裁判所に譲渡命令、売却命令、管理命令その他相当な方法による換価を命ずる命令を申し立てることができます。

関連タグ

身近にあるさまざまな問題を法令と判例・裁判例に基づいてをQ&A形式でわかりやすく配信!

キーワードで探す
クイック検索
カテゴリーで探す
新規ご相談予約専用ダイヤル
0120-68-3118
ご相談予約 オンラインご相談予約 メルマガ登録はこちら