法律Q&A

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不祥事が発生したら?

弁護士 中村 博(ロア・ユナイテッド法律事務所)
1997年4月:掲載

社内犯罪が生じたときには、会社としてはどのような対処をすべきなのでしょうか。

甲社は、大手の鉄鋼関係の会社の子会社ですが、このたび総務部長が社内で数年間にわたって会社の金を着服してその総額が約1000万円になるという事実に ついての匿名の第三者からの告発の書簡が社長宛に送られてきました。甲社とすれば、どのように対処すればよいのでしょうか。

事実確認→社内処分の検討→賠償請求の検討→刑事告訴の検討という流れをしっかり押さえてください。

1.早急な事実確定
 何よりまず「社内犯罪」が起こってしまったら、会社として、その犯罪事実の調査を行い、その確定をすること肝要です。後述するような行為者に対する責任追及の前提として、不可欠なものであると同時に、設問[7-1-2]で解説した「社内犯罪」の防止策にも不可欠なものなのです。行為者本人から事情を聞くのは当然ですが、事件に関係したと思われる社内関係者や取引先関係者からの事情聴取、支払伝票や預金台帳等犯罪の証拠となるようなものの収集、保全等に努めるべきです。なお、この段階では、まだ警察沙汰になっていないこともないと思われますので、社内で極秘にして調査を進めるべきであり、マスコミ等に情報がもれないように最大限の注意を払うべきでしょう。
2.社内処分の決定
 確定された犯罪事実を基に、次に行為者に対する社内での処分(いわゆる懲戒処分)の是非を決定すべきです。懲戒処分には、ご存知の通り、解雇を先頭に様々なバリエーションがあり、会社とすれば、行為者の社内での地位・会社に生じた損害額・取引先や他の社員等に与えた影響・そして社会全体に与えた影響・会社に対するイメージダウンの程度等に与えた影響等を十分に調査した上で、懲戒処分の取捨選択をすることになるでしょう。なお、警察乃至検察の捜査が先行したような場合は、これらの対応、つまり起訴したか否か、起訴した場合は、いかなる内容の判決が出たかという点が、社内での処分の大きなポイントになる場合もありますので、刑事処分あるいは刑事裁判の結果が出るまで、社内処分を留保しておかざるをえない場合もあるでしょう。
3.民事事件の必要性の検討
 「社内犯罪」により、会社に生じた損害が相当大きいような場合は、行為者からその損害の穴埋めをしてもらうべく、行為者を相手に損害賠償請求をすべき場合もあるでしょう。行為者の雇用継続が前提なら任意の話し合いでつまり「示談」で解決すべきでしょうが、解雇も辞さないような場合は、訴訟を提起するような場合も考えられます。ただ、会社の社員に対する管理方法に手落ちがあるような場合は、過失相殺の対象となり、請求額が会社の落ち度の割合だけ減額されることがありますので、注意が必要です。なお、在職中の不正が、退職後に判明した場合に、既に会社が行為者に支払った退職金の返還を会社が請求できるかという問題について、一定の場合にこれが認められる余地があるとする判例(大阪高判昭59.11.29)には注目すべきです。
4.刑事告訴の検討
 刑事処分は、解説(3)とは、法的手続きがまったく異なるものですが、これを行うと行為者を「前科者」にしてしまうという効果が有り、これは、一般的には、行為者が今後社会生活を送っていく際に著しい障害となりうるべきものです。したがって、相当程度にその行為態様が悪質で会社が大損害(金銭的にも信用的にも)を被った場合に初めて考えるべきものと考えます。解説(3)で裁判を提起する場合も同様ですが、このような態度に会社が出ることによって、会社の企業イメージが下がり会社の社会的信用が落ちる可能性も一方では避けられないことを十分に留意した上で、慎重な態度決定が求められるでしょう。

対応策

以上述べました社内犯罪の対応策を検討する際に必要なことは、犯罪を犯した役員や従業員ばかりの責任にするのでなく、そのような犯罪を許した会社側の労務管理体制にも何らかの欠陥があったことを十分に自覚した上で、非行事実の内容とそれに基因して生じた会社の損害や非行役員・従業員の家庭状況等を十分に考慮し、非行のあった役員・従業員と会社にとってもっとも妥当と思われるバランス感覚のある解決方法を見つけることでしょう。
甲社とすれば、告発文書の内容が事実かどうかを部長本人やその関係者からの事情聴取や会計書類のチェック等で確認し、事実だとすると、被害額が大きいことから考えて何らかの懲戒処分はしなければならないでしょう。犯行動機や犯行期間等を十分に調査した上で、最悪の場合は懲戒解雇も出来る事案でしょう。懲戒解雇あるいはそれに近い懲戒処分ということになるような場合は、民事事件そして更に刑事告発の必要性を検討することになるでしょうが、懲戒解雇あるいはそれに近い懲戒処分という処分も相当な社会的制裁であることを認識した上で、バランスを失しないように気をつけるべきでしょう。

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