法律Q&A

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長期の年休申請と時季変更権

弁護士 岩出 誠(ロア・ユナイテッド法律事務所)
2000年10月:掲載

従業員が一ヶ月の連続した休暇をとりたいと申し出てきたら?

新聞社A社の社会部記者Bは欧州の原子力問題を取材するためと称して、年休24日を含む一ヶ月の夏休みを申請しました。A社は、代わりの専門記者がいないことなどから業務に支障が出るので、他の日程に変えるか、休暇を分割して取って貰うようにBと話し合いを求めたのですが、Bは取り合おうとしませんでした。A社はどう対応したら良いのでしょうか。

会社の業務に支障がある場合、事業計画や他の従業員の都合などとの事前の調整をして、これに従業員が協力しない場合には時季変更権を行使した上で、欠勤扱いとします。

1.時季変更権とは
 従業員が年次有給休暇(以下、年休)を請求してきた場合にそれを会社側で変更することができるでしょうか。この問題は、その年休が労基法39条の法定年休の場合には、同法39条4項但書の使用者の時季変更権によって処理されることになります。ここでは「使用者は労働者の請求する時季に有給休暇を与えなければならない」が、それが「事業の正常な運営を妨げる場合には」会社は他の時季にそれを変更することができること(時季変更権)が明記されています。従業員の年休の時季指定に対して会社がこの時季変更権を行使した場合、時季指定による休暇日の特定という法的効果の発生が阻止され、従業員が指定した日は年休とならず、その日の労働義務は消滅しません。しかし、もし客観的にみて事業の正常な運営を妨げる場合に当たらなければ、使用者はそもそも時季変更権を持たないため、いくら「時季変更権を行使する」と言ってみても、従業員の時季指定の効果を阻止できません。この場合、従業員が会社の意思に反してその日に欠勤しても、年休が成立している以上、会社はこれを無断欠勤として処分することはできず、賃金の支払も必要となります。
2.時季指定権行使の方法は
 会社が時季変更権を行使する場合の方法は、単に指定された年休日には事業の正常な運営を妨げる事由が存在するという内容のものであれば足ります。従業員はいつでも別の日を年休日に指定できるので、代わりの年休日を会社が提案する必要はありません。多くの会社で行なわれている、請求された年休を「承認しない」という会社の意思表示も時季変更権行使の意思表示にあたります(電々公社此花電報電話局事件・最一小判昭和57・3・18民集36-3-366)。設問のような長期の連続した年休の指定については、休暇の分割制限がないので、その一部についての時季変更権行使も可能です(時事通信社事件・最三小判平成4・6・23民集46-4-306)。特定の労働者について複数の従業員の時季指定が競合し、その一部の者については時季変更権を行使せざるを得ないという場合には、どの者につきそれを行使するかは会社の合理的な裁量に委ねられています(津山郵便局事件・岡山地判昭和55・11・26労判353-36、最近の事例で時季変更権の行使が違法とされた事例として西日本ジェイアールバス事件・名古屋高金沢支判平成10.3.16労判738-32)。
3.「事業の正常な運営を妨げる場合」とは
 「事業の正常な運営を妨げる場合」に当たるかどうかについての一般的な判断基準としては「当該労働者の所属する事業場を基準として事業の規模・内容、当該労働者の担当する作業の内容・性質、作業の繁閑、代行者の配置の難易、労働慣行等、諸般の事情」を考慮して判断すべし、とされています(前掲此花電報電話局事件)。例えば業務量との関係で使用者が最低要員基準を定め、その基準に従って相当期間にわたり事業が運営されてきた場合には、要員基準を下回れば事業の正常な運営を妨げる場合に当たるといえることが多いのです(新潟鉄道郵便局事件・最小判昭和60・3・11労判452-13、千葉中郵便局事件・最一小判最判昭和62・2・19判時493-6)。
4.年休付与には配慮義務が
 しかし、最近の最高裁判決(弘前電報電話局事件・最二小判最判昭和62・7・10民集41-5-1229、横手統制電話中継所事件・最三小判昭和62・9・22労判503-6等)は、労働者の時季指定に対して使用者はできる限り労働者が指定した時季に休暇を取ることができるように、状況に応じた配慮をなすことを要請される、と年休付与に関する使用者の配慮義務を設定しています。その上で判決は、代替者の配置について勤務割による勤務体制がとられている事業においても、代替勤務者を確保して勤務割を変更することが客観的に可能であるのに使用者がそのための配慮をしなかったために代替勤務者が配置されなかったときには、必要配置人員を欠いたからといって事業の正常な運営を妨げる場合に当るとはいえない、としています。
5.長期休暇の場合には事前調整が必要
 しかし、設問のような長期の年休の請求に対しては、最近の時事通信社事件判決(前掲)は、(4)のような年休付与に関する配慮を認めながらも、労働者が長期かつ連続の年休を取得しようとする場合は、それが長期のものであればあるほど、使用者において代替勤務者を確保することの困難さが増大するなど事業の正常な運営に支障を来たす蓋然性が高くなり、使用者の業務計画、他の労働者の休暇予定等との事前の調整を図る必要が生ずる、としました。そして、労働者がこの調整を経ることなく長期かつ連続の年休の時季指定をした場合には、これに対する使用者の時季変更権の行使については、右年休が事業運営にどのような支障をもたらすか、右休暇の時季、期間につきどの程度の修正、変更を行うかに関し、使用者にある程度の合理的な範囲内で裁量的判断の余地を認めざるを得ない、としました。
つまり、従業員が長期連続休暇を申請した場合は、会社との間で、会社の業務計画、他の従業員の休暇等の事情との事前調整を取る必要があり、従業員が、この調整を行う余裕もない年休申請をしたり、会社が他の従業員との関係などからやむを得ず求めた調整に、まったく応じないような対応を取った場合には、会社はこの申請について時季変更権を行使して、別の時季に変更したり、分割したりすることができる、ということです。

対応策

設問は上の時事通信社の事件と同様で、会社は他の従業員の都合をも考慮しながら代替要員の確保などを踏まえて、年休の時期、期間について事前の調整を行ない、これにBが応じない場合には、時季変更権を行使して別の時期に分割して年休を与えることができることとなります。Bがこの時季変更権に従わないで勝手に欠勤をすれば、それに対しては賃金の欠勤カット、業務命令違反の点については懲戒解雇よりは軽い減給や出勤停止処分などで対応し(設問10-5-2参照)、そのような態度がその後も改まらなければ(懲戒)解雇もやむを得ないでしょう。

予防策

今後は、従業員の休暇への要求はますます強まり、長期休暇の申請も避けられません。そこで、会社側が先手を打って、例えば労基法39条5項の労使協定による計画年休や(従業員の計画年休に従う義務を認めた三菱重工事件・福岡高判平成6・3・24労民45-1=2-123参照)、協定なしの話し合いによる年間の年休消化プランなどを実行し、会社の業務や他の従業員への影響を最小限にするような対策を行なうことが必要です。
なお企業が労基法39条の法定年休を上回って福利厚生上会社が従業員に与えている法定外年休については話は別です。つまり、会社の都合による変更や分割はより柔軟にできます。しかしそのような区分した取扱を明確にしないで休暇の法定内外の区別をしておかないと、法定年休に関する以上の取扱が法定外年休にも準用されてしまうので、区分した取扱をしたい場合には就業規則上もそのような規定の整備が必要です。

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