法律Q&A

分類:

雇用調整・整理解雇

弁護士 岩出 誠(ロア・ユナイテッド法律事務所)
2000年10月:掲載

業績の悪化からリストラのため従業員を解雇しなければならなくなったら?

ソフトウェア関連のA社は、折からの複合不況の深刻化で仕事が激減したところにバブル時代に事務所を拡大し、大量採用したツケが回ってきました。いわゆる三K(交際費、交通費、広告費)を初めとして、可能な限り経費節減の努力を色々試みて来ましたが、これ以上は無理です。残るは人件費の削減です。これも役員・管理職も含めて昇給ストップや賞与なしなどの対応策は尽しました。いよいよ最終手段の雇用調整や整理解雇に踏み切らなければならなくなりました。しかし従業員の抵抗が予想されます。どんな対応を採ったら良いでしょうか。

雇用調整のための会社側の体制を整えた上で、解雇回避努力や従業員との協議などのステップを踏んで実施すべきです。

1.雇用調整・整理解雇
 平成複合不況から緩やかな景気回復基調にあるといわれながら先行き不透明な状態が続き、メガコンペティション(大競争)時代と言われる、国際競争の激化の中で、大企業においては、企業のスリム化、ライトサイジング、アウトソ-シングなどが、目先の業況の如何にかかわりなく進められています。しかし中小企業にとっては、依然として不況真っ只中というのが実感で、今なおリストラ、雇用調整とその最終手段としての整理解雇(企業の経営の合理化又は整備に伴って生ずる余剰人員の整理)が幅広く進められています。昭和48年暮の第一次オイルショック不況の中でも産業界に雇用調整が広まり、その手段としての整理解雇の適法性が問題となりました。その時も今回同様に雇用調整は終身雇用の建前もあり、大企業においてはほぼ同様の手順、つまり、昇給、賞与の削減、管理職手当や役員報酬のカット、残業規制、中途採用停止、配転、出向、新規採用の手控え、臨時雇・パートタイマーの雇止め、下請の解約、一時休業、任意退職の募集などのいくつかを踏み、整理解雇は最後の手段としてできる限り回避される傾向がありました。
 なお、最近、東京地裁労働部に従前の解雇権に関する後述の判例法理を覆す(解雇権の拡大への)萌芽があるようですが、この点についても触れておきます。
2.従前の解雇の法理と整理解雇の法理の概観
【1】判例上確立された一般的な解雇の法理
 裁判所は、従前から、解雇一般について、次のような、いわゆる解雇の法理を確立して、企業の解雇について厳しい制限を加えてきた。即ち、「使用者の解雇権の行使も、それが客観的に合理的理由を欠き、社会通念上相当として是認することができない場合には権利の濫用として無効になり」(日本食塩製造事件・最二小判昭和50.4.25民集29.4.456)、「普通解雇事由がある場合においても、使用者は常に解雇しうるものではなく、当該具体的な事情のもとにおいて、解雇に処することが著しく不合理であり、社会通念上相当なものとして是認することができないときには、当該解雇の意思表示は、解雇権の濫用として無効になる」(高知放送事件・最二小判昭和52,1.31労判268-17)、との判断を示していました。

【2】解雇の法理の具体的適用としての判例上の整理解雇の法理
 解雇には合理的理由を必要とするという上記解雇の法理(高知放送事件・前掲等)の具体的適用として、とくに整理解雇については、労働者自身には何ら落ち度が無いにも拘わらず解雇を余儀なくされるものであるところから、裁判所は、整理解雇の効力の判断に当り、できる限り解雇を最終措置として解雇を回避してきた雇用調整の実態を考慮に入れて、多くの場合、次の4点の全部又は一部を判断要素として挙げています。

 つまり、1.人員削減の経営上の必要性の存否、2.整理解雇回避努力義務の実行の有無、3.合理的な整理解雇基準の設定とその公正な適用の存否、4.労使間での協議義務の実行の存否です。例えば、東洋酸素事件・東京高判昭和54.10.19労民30.5.1002は、企業の1部門の閉鎖に伴う当該部門の従業員の整理解雇について、ここでの、いわゆる整理解雇の4要件に沿って整理解雇の有効性の存否を判断しています(4条件の分析につき菅野和夫「労働法」第5版補正版450頁以下等参照。同旨を示すものとして、高田鉄鋼所事件・大阪高判昭和57.9.30労判398-38、名村造船所事件・大阪高判昭和 60.7.31労判457-9等参照。比較的最近、この基準の適用により解雇が無効とされた例として日証事件・大阪地判平成11.3.31労判765- 57、有効とされた例としてレブロン事件・静岡地浜松支決平成10.5.20労経速1687-3等参照)。しかし、これらは、本来は、各々が解雇権の濫用に当たるかどうかの判断要素の一つとして総合的に考慮されるべきものです(4要件を総合的に検討考慮すべきことを明言する例として、ミザール事件・大阪地決昭和62・10・21労判506-41参照。拙稿「判例に見る業績悪化による整理解雇」ビジネスガイド537号30頁以下参照)。

3.解雇権拡大を示唆する判例の出現
 ところが、最近、以上の判断枠組み自体を変えようとしたり、あるいは基本的にはそれを踏襲しているのですが、実質的に企業の解雇権を拡大しているとも解され得る一連の裁判例が、東京地裁労働部に現れています。

【1】整理解雇4条件の機械的適用の否定例
 もっとも注目されているのが、従前、ややもすると当然とされてきた、整理解雇4条件の枠組みの機械的適用を否定したうえで整理解雇を有効とした、ナショナルウェストミンスター銀行事件・東京地決平成12.1.21労判782.23です。判旨は、整理解雇における解雇権濫用の有無の判断は、本来事案ごとの個別的具体的な事情を総合判断して行うべきものとして、上記のような4条件の機械的適当を排除し、本件事業部門の閉鎖に伴う整理解雇が、「雇用契約解消には合理的な理由があり」、労働者の「当面の生活維持及び再就職の便宜のために相応の配慮を行い、かつ、雇用契約を解消せざるを得ない理由についても」労働者に「繰り返し説明するなど、誠意をもった対応をしていること」等を総合考慮して解雇を有効としました。続く廣川書店事件・東京地決平成12.2.29労判784.50でも整理解雇4条件を適用することなく、古典的解雇の自由をうたった上で、出版社の分室閉鎖に伴う解雇が有効とされています。
 実は、同様の変化は、昨年の角川文化振興財団事件・東京地決平成11.11.29労判780.67においても既に見られていました。本件では、親企業からの委託契約の解消に伴う部門閉鎖に伴う元期間雇用の臨時労働者の解雇につき、黙示の更新による期間の定め無き労働契約への転換を認めながら、委託解消に伴う部門閉鎖を当然の措置とし、同部門に従事する目的で雇用されていた労働者の解雇に当たり、整理解雇に当たらないとして、希望退職の募集等の解雇回避努力義務を尽くさず、労働者への協議・説明をしていなかったとしても解雇権の濫用に当たらないとしたものです。

【2】解雇権濫用の労働者側の証明責任の明示例
 更に、理論的には当然としても、前述のように解雇に合理的理由を要するとの最高裁判例の確立の下、実際の訴訟実務の大勢においては企業側に解雇の合理的理由の主張・立証の必要が有る中で(労基法22条1項の退職時の使用証明において、労働者から求められた場合に解雇理由の明示の必要があることについては、拙著「改正労働法への対応と就業規則改訂の実務」75頁以下、菅野・前傾444頁以下参照)、強いて古典的な解雇の自由を強調して、使用者は単に解雇の意思表示をしたことを疎明すれば足り、解雇を争う労働者側に解雇権濫用を基礎づける事実については主張・疎明責任があると判示するものも現れました(角川分化振興財団事件・前掲)。

【3】実質的に企業の解雇権を拡大していると解される判例
 他方、従前の解雇の法理を踏襲しつつも、実質的に企業の解雇権を拡大していると解される裁判例も現れています。例えば、ナカミチ事件・東京地八王子支決平成11.7.23労判775.71は、解雇回避努力義務が裁量の幅のある弾力的なものであることを明示して解雇を有効としました。又、明治書院事件・東京地決平成12.1.12労判779.27は、総合的判断の基準として整理解雇4条件を使いながらも、人員削減の必要性を従前の裁判例に比較すると極めて緩やかに認め、9名中8名の解雇を認めました。即ち、役員の増員、役員報酬の支払い、解雇前後の派遣社員の採用、株式配当や会社所有物件の無担保による借りれ余力の存在等はこの必要性を否定する事情にはならないとしたものです。
 又、いわゆる反覆更新してきた期間雇用労働者の雇い止めに関しても、一般には、ごく短期で更新も一定範囲でしか予定されていない臨時性の強いアルバイトやパートタイマーを除いて、更新拒絶するには一定の合理的な理由を必要としていますが(東芝柳町工場事件・最判昭49.7.22民集28.5.92、拙著「社内トラブル救急事典」278頁以下参照)、カンタス航空事件・東京地決平成12.3.30労判784.18では、東芝柳町工場事件・前傾を引用しつつ、事案においても、10回前後の更新を経て、準社員的地位にあった期間雇用の航空会社の客室乗務員について更新拒絶を有効と認めました。

4.解雇権の拡大への過大な期待は危険
 以上の裁判例の分析によれば、一見すると、少なくとも、東京地裁労働部において、従前に比すると解雇権を拡大する胎動が感じられることは事実のようです。しかし、それらは、理論的な変化ではなく事案の相違によって説明可能な部分も少なくなく、他方で、例えば、期間雇用の更新拒絶につき、丸子警報機事件・東京高裁平11.3.31労判758.7や、ヘルスケアセンター事件・横浜地決平成11.9.30労判779.61は、いずれも更新拒絶を合理的な理由なしとして無効としています。従って、未だ、高裁段階でのこの動きへの追認の例も見出せない状況下で解雇権拡大の動きに過大な期待をかけるのは危険です。少なくとも紛争の回避・拡大防止の観点からは、企業における解雇権の発動に当たって、当面は、従前の判例法理を踏まえた慎重な解雇理由の整理・立証準備を怠ってはなりません。
5.整理解雇を認めるための四条件の具体的内容
 そこで、従前の整理解雇に関する前述のいわゆる整理解雇の4条件(【1】人員削減の経営上の必要性の存否、【2】整理解雇回避努力義務の実行の有無、【3】合理的な整理解雇基準の設定とその公正な適用の存否、【4】労使間での協議義務の実行の存否)の中身をもう少し詳しく見ておきます。

【1】人員削減の経営上の必要性
 これは、人員削減措置の実施が不況、斜陽化、経営不振などによる企業経営上の十分な必要性に基づいていること、ないしはやむを得ない措置と認められることです。高裁以上の裁判例の多くは、高度の経営上の困難から当該措置が要請されるという程度で足り、「倒産必至」の状態であることまでは求めていません。例えば、東洋酸素事件・東京高判昭和54・10・19前掲は、人員整理の必要性については、企業の存続が不可能というまでの要件は要求しないと判示しています(前掲判決の外、日立メディコ事件・東京高判昭和55・12・16労判354-35等も同旨)。そして、この必要性の存否につき、裁判所は、当該企業の経営状態を詳細に検討しますが、結論として大部分の事件ではその要件があることを認めています。
 要するに裁判所は人員削減の必要性に関する経営専門家の判断を実際上は尊重しています。必要性を否定する裁判例の典型は、既に希望退職により人削減計画目標が達成されているにもかかわらず整理解雇がなされたり(東京技術事件・秋田地大曲支決昭和61・9・25労判486-98)、人員削減措置の決定後、大幅な賃上げや、多数の新規採用や、高率の株式配当を行うなど、素人の目からみても明白に矛盾した経営行動がとられた場合です。例えば、整理解雇を無効とした、あさひ保育園事件・最一小判最判昭和58・10・27労判427-63では、保育園の園児減少に伴う、園児の定員削減に対応する保母2名の整理解雇であり、後述の手続的違法性も問題とされましたが、事案の内容を検討すると、解雇後ほぼ1年以内に別の保母2名が退職し、補充のために新たに2名の保母を採用しているもので、ここでの、整理解雇の必要性自体に疑念があった事案であったとも解することができます。その他、東京教育図書事件・東京地決平成元・5・8労判539-13も、非組合員への一時金の支給やアルバイトの募集から整理解雇の必要性を否定し、トップ工業事件・新潟地三条支判平成2・1・23 労判560-63でも、整理解雇後の新規採用や自己資本の増加などを理由に整理解雇の必要性を否定しています。
 なお、注目すべきは、「部外秘」として昭和61年1月全国の裁判所に配布された最高裁事務総局「整理解雇関係事件執務資料」によれば(昭和61年4月10日付朝日新聞掲載)、「経営上支障のない企業が利益を増やし競争力をつけるため、産業ロボット、エレクトロニクス機器などを導入して合理化を図る一貫として整理解雇が行われた場合」についての検討で、将来経営危機に陥るのを避けるための「予防型」整理解雇ばかりか、単に収益を増すための「攻撃型」整理解雇に対しても、整理の必要性を認める、との協議結果を示していることです。今のところはこれに沿う判例は出ていないようです。むしろ、今のところは、逆に、企業の維持、発展を図り、将来の経営危機に備えることを目的としたいわゆる予防型の整理解雇については、目的と手段の均衡を欠くとして無効とする例が出ています(例えば、四日市カンツリー倶楽部事件・津地四日市支判昭和60・5・24労判454-16)。しかし、今後、前述のメガコンペティションの時代に突入し、勝ち組み、負け組みの差が歴然となり、その差が意味する企業の存亡問題が理解され、国際競争力維持・確保・拡大が企業にとって不可欠との認識が深まり、雇用情勢の一定の緩和が見られるようになると、前述の東京地裁労働部のような動きが加速・拡大することもありえます。但し、前述の通り、当面の雇用調整・整理解雇への実務的対応としては、長期化している雇用危機もあり、ここでの整理解雇4条件の法理を踏まえた対策と準備が必要です。

【2】解雇回避努力義務の実行

a解雇回避努力義務
 人員削減を実現する際には、使用者は、右Ⅰに紹介した配転、出向、一時帰休、早期退職者優遇制度、希望退職の募集などの他の手段によって解雇を避ける努力をする信義則上の義務(「解雇回避努力義務」)を負うとされています。

b判例における二つの流れ
 この基準の考え方について、裁判所の中には、判示の上では、「他のあらゆる経営上の努力ないし最大限の経営上の努力を尽くすことが必要である」として厳格に解する立場と(例えば、天間製紙事件・静岡富士地支判昭和50・8・19労判238-65は、人員整理という方策は真にやむを得ない場合の最終的措置であるべき、としています。高田鉄鋼所事件・大阪高判昭和57・9・30前掲も同旨を判示しています)、「相当な経営上の努力ないし合理的な経営上の努力を尽くすことで足りる」としてかなり緩やかに解する立場(例えば、三萩野病院事件・福岡高判昭和54・6・18労民30・3・692等は、企業が整理解雇を実施する前にこれを回避し得るであろうあらゆる措置を講ずることは経営上好ましいことではあるが、形式的、画一的にあらゆる手段をすべて尽くした上でなければ労働法上整理解雇は許されないと断ずるのは相当でなく、しょせんは労使の信義則上相当と認められる範囲の回避手段を尽くすことをもって整理解雇のための必要にして十分な要件を備えたというべきで、その範囲は当該労使の具体的関係に応じて決せられるほかない、としています)があるようです。

c具体例の検討
 法理論的にも、実務的にも後者の解釈が妥当と解されますが、いずれにせよ、解雇回避努力義務履行の有無・程度・内容が整理解雇の有効性判断基準の一つとして重視される点に争いはありません。配転、任意退職の募集などの他の手段を試みずにいきなり整理解雇の手段に出た場合は、ほとんど例外なくその解雇は無効とされます。例えば、あさひ保育園事件・最一小判最判昭和58・10・27前掲は、園児減少を理由とする保母の整理解雇について、職員や保母に対し、人員整理の必要性についての理解、協力を求める努力をせず、かつ希望退職者募集の措置を採ることなく突然なされた解雇は信義則に反し無効とした高裁判決を支持しました。
 但し、指名解雇を回避するためにどのような手段をどのような手順で試みるかについては(特に後者の立場からは)、個別の状況により、右Ⅰの全ての措置を取る義務はないとされています。例えば、東洋酸素事件・東京高判昭和54・10・19前掲は、解雇回避努力義務について、本件解雇は、他部門への配転や希望退職を募らず、独立採算部門であるアセチレン部門の全員を解雇するものであるが、希望退職を募れば他社の引き抜きの恐れがあったこと、必要な熟練工が募集に応じて退職する可能性があったこと、等の事情を認定して、整理解雇を有効としています。

d経営危機時の解雇回避措置義務の免除の可否
 なお、前記執務資料は更に進めて、企業の経営が危機に瀕しているために、緊急に人員整理の必要性がある時には、解雇回避努力が十分に尽くされていなくて も解雇権の濫用に当たらない、との見解も示していますが、実務的対応としては、これに頼るのは危険過ぎるでしょう。
 特に、整理解雇の事案ではないのですが、片山組事件・最一小判平成10・4・9労判736・15が、「労働者が職種や業務内容を特定せずに労働契約を締結した場合においては、現に就業を命じられた特定の業務について労務の提供が十全にはできないとしても、その能力、経験、地位、当該企業の規模、業種、当該企業における労働者の配置・異動の実情及び難易等に照らして当該労働者が配置される現実的可能性があると認められる他の業務について労務の提供をすることができ、かつ、その提供を申し出ているならば、なお債務の本旨に従った履行の提供があると解するのが相当である。」、と判示していることが注目されます。
 といいますのは、同判決の事案では、約21年間に亙り建築工事現場における現場監督業務に従事してきたものであったのですが、判決は、このような場合にも、労働契約上その職種や業務内容が現場監督業務に限定されていたものではないとし、本人が軽減業務での復職を望んでいる以上、本人が就くべき適当な軽減業務の有無や、以前、問題の従業員以外の現場監督業務に従事していた従業員が病気、けがなどにより当該業務に従事することができなくなったときに他の部署に配置転換された例があったのではないかなどの点を再審理すべきとされ、高裁に差し戻したのです。
 このように、経験のない職種への配転を含めて幅広く雇用の保障をもとめている最高裁判決を踏まえると、今後は、少なくとも、職種の限定なく採用し、配転可能な部署を持つ一定以上の規模を持つ企業においては、整理解雇においても、本人が経験のない業務においても、雇用の保障を求める以上、益々、解雇回避措置義務が高度化し、回避の可否が係争化しやすくなったと見ざるを得ません。

e雇用調整策(解雇回避策)としての出向・転籍
(イ)出向の場合
 雇用調整策(解雇回避策)としての出向については、解雇回避努力義務の履行の程度として考慮されますが、整理解雇回避の出向であることのみから当然に出向命令権が強くなり、その拒否が当然に認められることはなく、前述の整理解雇4要件の一環として総合的に考慮されることになります。例えば、この出向を拒否した労働者について、出向による解雇回避努力義務の履行を重視して整理解雇が有効とされた例(住友重機事件・岡山地決昭和54・7・31労判326- 44)もありますが、未だ解雇回避努力がなされていないとして解雇無効とされた例(森実運輸事件・松山地判昭和55・4・21労判346-55、大阪造船所事件・大阪地決平成元・6・27判タ711-215)もあります。
(ロ)転籍の場合
 転籍の場合も同様の判断となります。雇用調整としての転籍も、本人同意の必要性には変わりなく、同意なき限り無効とされ、転籍拒否は解雇理由とならないとされています(日新工機事件・神戸地姫路支判平成2・6・25労判565-35等)。

【3】合理的整理解雇基準の設定とその公正な適用
 整理解雇がやむを得ないとしても、解雇される者の選定には、客観的で合理的な基準を設定し、これを公正に適用することが必要です。基準が全く設定されないでなされた整理解雇(タチカワ事件・東京地判昭和46・12・21労旬804-71等)や、抽象的で客観的・合理的でない基準による整理解雇は無効とされます。
 上記合理的な基準と一般的に認められるものは、[1]欠勤日数、遅刻回数、規律違反歴などの勤務成績や、[2]勤続年数などの企業貢献度、さらには[3]「30歳以下の者」、「退職後の生活に影響の少ない者」などの経済的打撃の低さ、[4]病弱者や職務遂行に支障がある者などです。但し、これらの基準は相互に矛盾することがあります。例えば、企業の経費削減という短期的経済的合理性のみを追及すれば高額賃金の中高年労働者の解雇が望ましく、他方、従業員へのダメージの低さからすれば再就職が相対的に容易な若年労働者の解雇に合理性があることになります。そこで、判例のこの点への判断も以下に紹介する通り、必らずしも一貫はしていないようです。むしろ、合理的基準かどうかは個々の事案ごとに当該企業内の事情によって異なってくるもので、具体的にどのような整理解雇基準を設けるか否かは、第一次的には経営者が自己の責任において諸般の事情を考慮して決定すべきものと考えるのが妥当でしょう(同旨を明言するチェースマンハッタン事件・福岡地判昭和45・10・19労判115-68参照)。
 判例上は、例えば、「有夫の女子」、「27歳以上の女子」等女性であることを基準にすることは均等法の施行前から違法とされることがありましたが(日特金属工業事件・東京八王子支決昭和47・10・18労判166-46等)、他方、経済的打撃の少なさから合理的基準とされることもあり(古河鉱業事件・最一小判昭和52・12・15集民122-435等)、松山地西条支判昭和62・5・6労判496-17では、「共稼ぎの者で配偶者の収入で生計が維持できる者」との基準とその適用による女性労働者の解雇が合理的とされ(実際には配偶者より女性の方が高い給与を得ていました)、池貝鉄工事件・横浜地判昭和 62・10・15労判506-44では、「業務に熱心でない者」「能力の劣る者」「職場の規律を遵守しない者」「病弱者」等が抽象的で運用次第で人選の合理性を保証するものでないとされ、人選は組合内の会社施策に批判的なことが理由となっている疑いがあるとして、人選に相当性を欠くとして、解雇が無効とされ(同旨・日証事件・大阪地判平成11・3・31前掲。但し、ほぼ同様な基準による解雇が合理性ありとされた例も少なくありません。例えば、共栄興業事件・東京地判昭和56・5・29判時1026-127等)、前出工機事件・東京地判平成2・9・25労判570-36では、消火器の販売等を目的とする企業で、扶養家族がなく、消防設備士の資格を有していない者から順次人員削減の対象にすることが有効とされ、又、前述のように、雇用調整としての転籍も、本人同意の必要性には変わりなく、同意なき限り無効とされ、「移籍拒否者」を整理解雇基準とした解雇は無効とされています(日新工機事件・神戸地姫路支判平成2・6・25前掲)。

【4】労使間での協議義務の実行

a整理解雇における協議条項等に基づく労働組合との協議義務
 労働協約上、解雇一般又は人員整理について、使用者と組合との協議を義務付ける条項がある場合には、具体的の人選の基準やその適用について組合と十分な協議を経ないでなされた解雇は無効となります(大阪造船所事件・大阪地決平成元・6・27前掲等)。

b協議・同意条項なき場合の協議義務
 最近の裁判例は、そのような規定がない場合にも、使用者は労働組合又は労働者に対して整理解雇の必要性とその時期・規模・方法、整理解雇者の選定基準、時期、規模等につき納得を得るために説明を行い、更にそれらの者と誠意をもって協議すべき信義則上の義務を負うとしています(前掲あさひ保育園事件、同旨・日証事件・大阪地判平成11・3・31前掲参照。最近の丸子警報機事件・東京高判平成11・3・31労判758-7は、期間雇用労働者の整理解雇についても、短期の雇用期間が反復更新され、結局長期間に渡り雇用が継続されている期間の定めのある労働者の雇止めの権利濫用性について、いわゆる整理解雇の 4要件が期間の定めのない労働者ほど厳格に適用されるわけではないとしつつ、この要件に照らして雇止めが権利の乱用にあたるとする一審判決を維持しましたが、そこでも、権利の濫用にあたるか否かの判断に当たっては、雇止めの回避措置や労使間の事前協議の点も考慮する必要があると判示しています)。

c同意条項の拘束力・同意条項の意味
 次に、労働協約において、整理解雇等につき、労働組合との協議に留まらず組合の同意を要する旨の同意条項がある場合、それを文字通りに実行すれば、経営の主体性がまったくなくなることになります。そこで、最高裁は(池貝鉄工事件・最判昭和29・1・21民集8・1・123)、同意条項の意味につき、経営の基本に関する事項を制約する同意条項を文字通りには解釈できないとの一般的な解釈の原則を打ち出し、このような条項の趣旨について、協議において使用者側がなすべき協議内容を具体的に示し、組合との協議決定(合意)が成立しない場合でも、組合が絶対反対などの態度を取っているような場合には、協約上の義務を尽したとされる場合があり、その趣旨は協議を尽くすべきことを意味するものと限定的に解釈しています。
 そこでその協議義務の程度ですが、これについては、このような規定のない場合の団交応諾義務や、単なる協議条項の場合に比べれば強いものとされているようですが、実際上の差は余りないようです。例えば、解雇同意条項がある場合でも、解雇の理由を通常人が納得のいく程度に説明し、組合の同意を得るために信義則に従って十分協議を尽くさなければならないとされますが(大鵬産業事件・大阪地決昭和55・3・26労判340-63)、同様の義務は一般の協議条項における協議義務についても課されているのです(大照金属事件・大阪地判昭和55・11・7労判352-36)。同様のケースで解雇の場合について裁判所により協議を尽したとされた例を挙げると、前記最高裁判決の外、例えば、4カ月の間に前後12回の交渉が持たれた場合や(共和梱包事件・神戸地判昭和 57・11・16労民33-6-952)、11回の団交がなされた場合などです(住友重機事件・岡山地決昭和54・7・31前掲等)。団交に対し組合が何らの応答もしなかったのが同意権の濫用とされた(安田生命保険事件・東京地判平成9・6・12労判720・31)のも実質的には同様の判断からでしょう。なお、同意条項があっても、組合による暴力事件の発生など、組合との信頼関係が全く欠如した状況では組合の同意や協議は不要とされています(洋書センタ― 事件・東京高判昭和61・5・29労判489-89)。

対応策

(1)経営側の雇用調整の推進体制の整備
 先ず、努力すべきは、【1】雇用調整などの事態に陥らない普段の経営努力ですが、それが効を奏さず雇用調整に踏み切らざるを得ない場合には、【2】経営者・管理職が一丸となって実行する体制・意思の統一が必要です。又、【3】雇用調整を進めるに当たっての必要性が客観的に納得性のあるものかをチェックしておくことです。

(2)法的対応への準備
 次に、上記判例の判断基準に従って整理解雇の有効性の判断を得られる条件の整備をすること。具体的には先ず、【1】会社内の諸規程、労働組合との労働協約等の各種協定や慣行の洗い出し作業を行い、【2】同業他社の整理解雇の推進方法のノウハウを極力入手し、【3】そのノウハウに従い、整理解雇の必要性とその方法の妥当性を社内外にアピールすることです。

(3)再建計画の用意
 整理解雇の対象となっていない従業員の支持を得るためには、後ろ向きの危機のシナリオを描いて雇用調整の必要性を訴えるだけではダメです。計画を実施した場合には会社を再建し雇用確保と労働条件が向上されることを、説得力を持ちかつ明るい展望のある再建計画をもって打ち出さなくてはなりません。

(4)解雇回避措置の実行などの手順
 これらについては判例の基準に従って実行することが肝要です。そしてできる限り退職勧奨の方法で処理し、解雇という最終手段に出ないことが望ましいのですが、この方法の実施に当たっても余りに執拗にこれを行なうとそれ自体が損害賠償などの問題を起こすことがあるので要注意です(国鉄九州地方自動車部事件・福岡高判昭和53・3・23労判付録29、下関商業高校事件・最一小判昭和55・7・10労判345-172)。

予防策

上記対応策に掲げた雇用調整計画書を作成し、これを経営者・管理職が一体となって行う行動計画と実施マニュアルに従って実施することです。但し、計画がまとまるまでの秘密保持には特に注意を要します。

身近にあるさまざまな問題を法令と判例・裁判例に基づいてをQ&A形式でわかりやすく配信!

キーワードで探す
クイック検索
カテゴリーで探す
新規ご相談予約専用ダイヤル
0120-68-3118
ご相談予約 メルマガ登録はこちら