法律Q&A

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スカウト人材の能力不足

弁護士 岩出 誠(ロア・ユナイテッド法律事務所)
2000年11月:掲載

能力を見込んでスカウトした部長に期待していた能力が不足していることが分かったら?

中堅製薬会社のA社は急成長を続けて来ましたが管理職に人材の不足を感じ、人材バンクの紹介でMBA(経営学修士)の資格を持つBを、新設されたマーケティング部の部長として、しかも、マーケティングプランを策定し、特に、養毛剤などの分野で販売方法などに具体的な提案をすることを依頼して高給で採用しました。ところがBは採用後半年も立つのにそのような提案を行う素振もなく、マスコミで騒がれている新党からの立候補を考える始末でした。A社はこんなBに辞めてもらいたいのですが大丈夫でしょうか。

下位の職位への配置換えなどの解雇回避措置などをとることなく解雇が認められやすいのですが、まずは退職勧告から実施すべきでしょう。

1.能力前提のキャリア採用については判例でも特別な配慮
 裁判所は、特定の職種や専門・高度の管理能力などを期待されて、それを前提としていわゆるキャリア採用(中途採用)した従業員がその期待された能力を持っていなかった場合の解雇については、年功制の下で、昇進の結果これらの地位に付いた従業員に対するのとは違った対応をしているようです。例えば、【1】持田製薬事件・東京地判昭和62・8・24判時1251-133は、設問のようなケースで、その勤務状況から、部長は、「マーケティング部を設立した会社の期待に「著しく反し、雇用契約の趣旨に従った履行をしていない」とし、更に「マーケティング部の責任者」として雇用されたので、解雇の場合も、終身雇用の下で昇進してきた従業員の場合に通常求められる解雇回避措置(下位の職位への配置換え等。本章158参照)義務まではないとしました。又、【2】フォード自動車事件・東京地判昭和57・2・25労判382-25も、人事本部長として採用された者に対して適格性を欠くことを理由として、次のように比較的緩やかに解雇を認めました。つまり、ここでの採用は「人事本部長という職務上の地位を特定し」「特段の能力の存在を期待して中途採用した」雇用契約であるから、会社としては下位の職位への配置転換等による解雇回避措置義務まではなく、また適格性の判断も「人事本部長という地位に要求された業務の履行又は能率がどうかという基準でその適格性を検討すれば足りる」としました。同様の傾向は、高度な語学力などを要求される上級幹部として採用された従業員の本採用拒否を有効と認めた例である、【3】EC委員会事件・東京地判昭和57・5・31労判388-42や【4】同控訴事件・東京高判昭和58・12・14労民34-5=6-922や、経営コンサルタントとしての遂行能力を欠くとしてなされた解雇が有効とされたピラウドフッド事件・東京地判平成 12.4.26労判789-21や、システムエンジニアとして採用されその能力不足等を理由とする解雇が有効とされた日本エマソン事件・東京地判平成 11.12.15労判789-81でも現れています。
2.不明確な期待能力基準は紛争の基
しかし、【4】津軽三年味噌販売事件・東京地判昭和61・1・27労判468-6では、常務取締役・東京営業所長に対して、営業成績拡大の条件付きの採用であり条件が満たされなかったとしてなされた降格・賃金減額について、次のように、そのような特約がないとされて、元の地位に戻ることの確認が認められています。つまり、所長は、会社に役員(常務取締役、東京営業所長)としてだけ迎え入れられたものではなく、むしろ主としては会社の従業員としてその東京首都圏での販売成績を上げることを目的に雇用されたもので、役員としての右肩書や地位は右の従業員としての業績向上に役立たせる程度の副次的なもので、所長に毎月支給される金員は役員報酬ではなく賃金であり、所長の雇用に際しては、会社の東京首都圏における販売成績の上らないことがその重要な動機であるので、会社社長から所長に対しその間の事情が十分に説明され、所長もこれを了承して販売成績を上げることを約束して会社に雇用されたものであるが、その販売成績が具体的、確定的数字等で示され、これに達しない場合は会社が一方的に所長の労働条件等を不利益に変更することができるというほど具体的なものではなく、仮にそれほど重大事であれば、その旨を会社社長の作成した所長の労働条件等を記載した書面に具体的に記載すべきであるがそれが記載されていないので、右の通り所長と会社社長との合意は単に抽象的に会社の東京首都圏での販売成績を向上させるべく所長が努力することを約束した程度のものであった、とされたのです。

対応策

設問のA社でも、右【1】乃至【4】事件のような特定の能力についての約束があったのか、【5】事件のようにそれがなかったのかが決め手となります。【5】事件では特定の能力や業績向上目標についての期待内容の書面化まで要求していますが、そこまででなくとも、A社がBを採用する時に設問のような特別の約束、採用の条件が証明できれば【1】乃至【4】の裁判例の流れからして、A社はBに対して解雇ができることになるでしょう。しかし、現実的な対応としては、Bに対して退職を勧告した上で、これをBが拒否した場合に解雇予告又は予告手当を支払った上で(労基法20条)、普通解雇として行うべきです。

予防策

特定の職種や専門能力、経歴や管理能力を期待してそれを前提にしたキャリア採用をする場合には、【5】のような厳格な判決があることを踏まえると、やはり採用時の労働契約や、その時の募集条件などに、これらの能力のあることが前提であり(できる限り数値化なども工夫して具体的に記載する)、その発揮が条件であって、それらの適格性のない場合には退職して貰う旨の特約を明記すべきでしょう。

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