法律Q&A

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行方不明中の従業員への対応

弁護士 岩出 誠(ロア・ユナイテッド法律事務所)
2007年1月補正:掲載

A社の従業員Bが突然失踪してしまい、もう1ヵ月近くも会社に出て来ません。自宅のアパートや実家に連絡しても所在が分りません。不幸な事故にでも遭っていなければいいのですが、A社はどうしたら良いでしょうか?

 何の連絡もなく無断欠勤が続いている従業員がいます。アパート住まいで、携帯電話に電話しますが本人が電話に出ることはなく、留守番電話に連絡するようにメッセージを残しても一向に連絡がありません。A社としては業務に支障を来しますので、Bを退職扱いにしようと考えていますが、その際の手続き上注意すべき点を教えてください。
 現在のところ、退職に関する問い合わせの「○月×日までに連絡がない場合は、○月×日を退職扱いとします。」といった内容の通知を送ろうかと考えています。また、退職手続きをする際の退職日は最終出勤日でいいのでしょうか?それとも、民法の解約の告知期間の関係で2週間経過後となるのでしょうか?

回答

 設問のような行方不明の相手に対する対応については、先ず、無断欠勤状態が自然退職事由として定めていない限りは、質問のような取扱いはできず、解雇しかできないにも拘らず、その解雇の意思表示には、従業員が未成年の場合は親権者法定代理人である両親に対して行なう方法がありますが、それ以外の場合は、「公示による意思表示」という裁判所を用いる面倒な手続によらざるを得ないから厄介です。この方法を取った場合にも、解雇に関する労基法の規制を受けますから(11基礎編Q2参照)、解雇予告手当を債権者の所在不覚知等の理由で供託するか、労基署の事前認定を受けない限り、退職日は公示による意思表示到達後30日後ということになり、事前の対応が必要です。ただし、実務的な対応はリスクはありますが多少あります。
ポイント
原則は、裁判所に申し立てる「公示による意思表示」という方法による解雇手続きが必要です。
解説
1.長期欠勤を理由とする解雇はできる
 雪山登山、アドベンチャー・ツアーなど危険の多いレジャーの結果や、サラ金やクレジット問題で、債権者の取立から逃れるための失踪などで、従業員が事前の連絡なしに会社に来なくなり、その期間が長期に亘ることがあります。こんな場合、不慮の災難による場合のように従業員の責任によるものではないとしても、前述のように当然に退職扱いはできませんが、普通解雇理由があり、労基法の解雇手続を取る限り(11実務編Q5参照)、解雇は有効とされるでしょう。更に右のクレ・サラ問題による失踪のように原因が分っている場合には、従業員の責任による欠勤として懲戒解雇もできます(11基礎編Q5)。しかし、原因不明の場合には、原因の如何を問わず実質的な長期の不就労を理由とする普通解雇が限度でしょう。
2.問題は解雇の意思表示の方法
 しかし問題は、行方不明の者に対する解雇の意思表示をどのようにしたら良いかです。欠勤が続いている限り、少なくとも欠勤の賃金カットを行っている会社では通常の賃金負担の問題はないのですが、これを行っていない場合には悲惨なことになります。又、賃金カットを行っていても社会保険料、労働保険料の負担や退職金の加算や共済の積み立てなどが続くなど会社の負担は無視できません。

対応策

回答の通り、質問のような行方不明の相手に対する意思表示については、従業員が未成年の場合は親権者法定代理人である両親に対して行なう方法がありますが(民法5条、818条)、それ以外の場合は、民法98条、民訴法110乃至113条による「公示による意思表示」という裁判所を用いる面倒な手続によらざるを得ないから厄介です。これは、行方不明であることの証拠を提出した上で、裁判所への掲示や官報への掲載などもある複雑な手続で、実際の手続については裁判所へ数度出向くか専門家の手に委ねらざるを得ません。実際にも、地方公務員の事案ですが、結果的に上告審で解雇・免職が有効とされましたが(兵庫県事件 最一小判 平成11.7.15労判765-7で、「所在が不明な公務員に対する懲戒処分は、国家公務員に対するものについては、その内容を官報に掲載することをもって文書を交付することに替えることが認められている(人事院規則一二―〇『職員の懲戒』五条二項)ところ、地方公務員についてはこのような規定は法律にはなく、兵庫県条例にもこの点に関する規定がないのであるから、所在不明の兵庫県職員に対する懲戒免職処分の内容が兵庫県公報に掲載されたことをもって直ちに当該処分が効力を生ずると解することはできないといわざるを得ない。/しかしながら、上告人の主張によれば、上告人は、従前から、所在不明となった職員に対する懲戒免職処分の手続について、『辞令及び処分説明書を家族に送達すると共に、処分の内容を公報及び新聞紙上に公示すること』によって差し支えないとしている昭和三〇年九月九日付け自丁公発第一五二号三重県人事委員会事務局長あて自治省公務員課長回答を受けて、当該職員と同居していた家族に対し人事発令通知書を交付するとともにその内容を兵庫県公報に掲載するという方法で行ってきたというのであり、記録上そのような事実がうかがわれるところである。そうであるとするなら、兵庫県職員であった被上告人は、自らの意思により出奔して無断欠勤を続けたものであって、右の方法によって懲戒免職処分がされることを十分に了知し得たものというのが相当であるから、出奔から約二箇月後に右の方法によってされた本件懲戒免職処分は効力を生じたものというべきである。」として、出奔した県職員に対する懲戒免職処分が当該職員の知り得る状態に置かれ効力を生じたとされました)、これらの手続きが取られていなかったことを理由として解雇が無効とされたことがあります(大阪高判平成8.11.26 兵庫県事件判時1609-150)。

予防策

 設問のような事態を防ぐためには、第一に一定期間勤務しない場合は当然に自然退職とする規定を就業規則においておくことです。例えば豊田自動織機製作所事件(名古屋高判昭和48・3・15労判183-50)では、「事故欠勤が1ヵ月以上で特別の事由が認めれられないときは、自然退職となる」という定めは使用者の解雇の意思表示をまつことなく、1ヵ月の事故欠勤期間満了と同時に自然退職となることを定めたものとされています。
 第二には、「事故欠勤」という言葉には従業員の都合により出勤していないという意味が込められている可能性があるので、「原因不明の不出勤」に対応するためには、「事故欠勤」という言葉を拡大して定義付けするか、「原因の如何を問わず、会社に出勤しない状態(欠務)又は従業員が会社に届け出た連絡先での会社との連絡不能となった状態(行方不明)が○ヵ月以上経過した場合は自然退職とする。但し、業務上の災害による場合等この規則に別に定める場合を除く。」などの規定をおくことです。
 第三に、自然退職後の私物の整理や退職金、未払賃金の精算事務の円滑化のため、第一、第二のような場合(実際の書き方としては、「都合により従業員が受領できない場合」程度が妥当でしょう)の精算金や私物等の受取りの使者=代行者(多くの場合、第一次的には同居の親族又は実家など)を従業員から身上届出を提出させる際に指定させ、その者に対して、これらの処理ができるようにしておくことです。そうではないと一々供託などの方法や保管責任の問題が発生するためです。なお、賃金については労基法の直接払いの原則との抵触が心配されますが(24条1項)、所定の手続に従い銀行振込がなされている場合は指定口座に振込めば問題ないでしょうし(労基則7条の2)、上記のように使者として従業員自身に指定させておけば、労基署もこのような場合まで問題とすることはないでしょう(昭和22.12.4基収4093)。
 なお以上の準備なく行方不明者が出た場合で、親族や身元保証人が居る場合の実際の処理としては、親族から、仮に本人から異議が出た場合には親族らが責任をもって処理する旨の誓約書付きで、従業員の代理人として退職届を提出して貰うような方法が取られているようです。もちろん法的な効果には問題があることを知っておかなければなりませんが、緊急の措置としてはやむを得ないでしょう。
 なお、行方不明の従業員の退職の時期をめぐっては、X銀行(解雇無効確認)事件(東京地判平成17.10.7労経速1918号11頁)では、会社の就業規則において「職員が退職を申し出て会社の承認を得たとき」に退職する旨定められ、3月8日に原告が退職届を提出し、11日に会社が承認決定をしたものと認められるところ、その後原告が欠勤し、連絡がとれなくなったため、19日に原告の妻に退職の手続、私物整理のため本人に連絡をとりたい旨伝えているところ等から、遅くとも19日の時点では原告は退職の承認があったことを知りまたは知ることのできる状態にあったとして、信義則上、会社による退職承認の意思表示は同日原告に到達したと同視すべきであるとされ、会社の退職承認により雇用契約の合意解約の効力を生じ、その後の退職の意思表示の撤回は効力がないとされています。
 事案の特殊性もありますが、同様な事情がそろう場合には、退職手続中に連絡不能になった従業員への実務的対応上参考となる事例として注目されます。

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