法律Q&A

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定年年齢を超えた従業員採用に伴うトラブル

弁護士 岩出 誠(ロア・ユナイテッド法律事務所)
2001年2月:掲載

定年年齢を超えた従業員を採用する場合にどんな注意をしたらよいでしょうか?

A社では、定年年齢60歳を超えた従業員Bを、いわゆる定年後再雇用の嘱託と同様のつもりで採用しました。しかし、嘱託契約は締結していませんでした。その後Bの成績が当初予想したようには振るわず、A社としては、Bに辞めて貰おうと思っているのですが、Bは、自分は嘱託ではなく、正社員で、定年の適用はなく、辞める義務はないなどと主張しています。A社としてはどのように対処したら良いのでしょうか?

当初の契約関係が非正規社員であることを証明し、採用条件に一定の成績達成を条件とすることを証明し、辞職を勧奨すべきでしょう。それらができないと、一般的な解雇の合理的理由がないと解雇が難しいことになります。

1.定年年齢後の従業員をめぐる紛争の増大
 定年後再雇用としてであれ、あるいはいわゆるシルバー雇用としての中途採用であれ、定年年齢を超えた従業員を採用する際に、高齢者の労働市場が買い手市場であるということに甘えて、労働条件を曖昧なままに雇用すると、企業は、雇用関係の終了時期・理由や退職金などの点で予想外の負担を招くことになる危険があります。
2.判例の動向
 最近、特に、中途採用の高齢者について紛争が頻発し、判決にまで至った事件が出てきました。
 例えば、大興設備開発事件は、採用時に正社員の定年の60歳を超えていましたが、年金を受給しながら働きたいという高齢者従業員(以下、高齢者と言う)を、日給制で正社員に比べて短時間の勤務形態で採用した企業が、採用時の口頭の説明では、定年を超えた高齢者には退職金の支給がないことを伝えていたらしいのですが(しかし高裁ではこの点は認定されませんでした)、就業規則では、正社員用のものしか作成していなっかところ、約7年余の勤務後の退職に当たり、この従業員が正社員の就業規則に従って計算した退職金(約104万円)を請求してきたものです。
 地裁判決は、企業の採用時の説明や本人が退職金が出ないことを承知で入社したこと、就業規則の労働条件と実際の労働条件の相違などからこの企業の就業規則の退職金規定は正社員のみに適用される、などとして、その請求を斥けました(京都地判平成8.11.4労判729-67)。しかし、高裁では逆転判決となり、高齢者への退職金の支払いが認められました(大阪高判平成9.10.30 労判729-61)。即ち、就業規則の記載上、「適用対象を正社員と高齢者に分けて規定しておらず、規定の内容も従業員全般に及ぶものとなっていた」し「高齢者には適用しないという定めはないのであるから、本件就業規則は高齢者」にも適用されるとして、高齢者の退職金請求が、請求額の半額に減額はされましたが、認められたのです。
3.非正規雇用者への正社員就業規則の適用の危険があります
 これと同じような問題は、高齢者に限らず、正社員と異なる就労実態がある従業員について、それに対応した規則や、就業規則の一部又は全部の適用除外を明記しておかないと発生する危険があります。先例としては、現実の就労時間などの点で一般従業員とは異なるのに、就業規則での適用除外がないために病院の勤務医師に職員の退職金規定の適用が認められた例(清風会事件・東京地判昭和62.8.28労判508-72)などがあります。もっとも逆に、宿直で守衛業務に就いている従業員に、昼間労働を前提とする就業規則をそのまま適用はできないとした例もありますが(江東運送事件・東京地判平成8.10.14労判 706-37)、職種・雇用形態別に処遇に変化を持たせたいのであれば、各別の就業規則の作成や、非正規雇用者への正社員就業規則の不適用部分の明文化をした方が無難です(この不適用条項によって、パートタイマーへの退職金の支払いを免れたのが弁天堂事件・大阪地判平成7.5.29労判688-87)。
4.高齢者雇用の終了をめぐる問題
 又、雇用期間の終了の点についても、反復継続して更新していると、高齢者の期間雇用でも更新拒絶には相当な理由が必要とされているので、シルバー雇用とて安心はできません(ダイフク事件・名古屋地判平成7.3.24労判678-47)。
 もっとも、最近、「60歳定年制の社員採用、63歳まで1年毎契約可」との募集広告は、定年60歳を明示した上で63歳まで再雇用される制度があることを注意的に示したに過ぎないとして、再雇用拒否を認めた判決が出ましたが、これも就業規則での同旨の記載が決め手になっています(三井海上火災事件・大阪地判平成10.1.23労判731-21)。
5.労基法14条の3年契約の利用
 現在60歳以上の高齢者の期間雇用に関しては、平成11年4月1日施行の労働基準法14条で、専門職等の如何に拘らず、3年の期間雇用の対象となっているので(3号)、今後、少なくとも雇用関係終了に関するトラブル回避策として、この規定の利用が図られるべきでしょう。

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